ヘルンリヒュッテへ

2010/07/19

この日の朝は、朝焼けに徐々に染まるマッターホルンを見ることができました。暗い空の下に聳えるマッターホルンの尖った頂上から下に向かってオレンジ色の領域が広がっていく様子を、教会の近くでマッターフィスバ川に架かる橋から見守る日本人たち。オレンジ・マッターホルンのビューポイントとして日本人旅行者の間に名高いこの橋はおかげで地元では「日本人橋」と呼ばれているそうですが、この光景は日本人ならずとも見惚れると思えます。ひとしきり朝焼けショーを堪能してからホテルに戻り、テレビで天気予報を見ると、うれしいことに今日も明日も晴れ!

午前中にアルピンセンターに行って、マッターホルン登頂のガイド手配をしました。料金はCHF1,177、ヘルンリヒュッテの宿泊代(ガイド分も)は現地支払い、そして必要装備は次の通りです。

Crampons, climbing harness and helmet (which can be rented in a sports shop), climbing boots with a profiled rubber sole a suitable for use with crampons, gloves, warm hat, headtorch, sunglasses, high factor sunscreen, a small packed lunch (refreshments: high-energy food such as chocolate, dried fruit, glucose, etc.), thermos flask (warm tea is available in the hut) or water bottle (approx 1l capacity)

正午にホテルを出発。シュヴァルツゼーからのマッターホルンは、7年前の威嚇的な姿とは違ってとても明るく穏やかでした。

ヘルンリヒュッテまでの道はマッターホルンから伸びる尾根の左側を登り、途中で右側に回り込んでマッターホルン北壁を正面に見ながらほぼ水平に続きます。

この角度のマッターホルンも立派なのですが、右手のツムット谷の対岸にあたる高さのある斜面のかなり上の方にもトレイルが見えているのが気になります。後で調べてみると、これはトリフトからツムット谷上流のシェーンビールヒュッテまで通じる健脚向きのハイキング道でした。うーん、あそこを1人で歩いてみたい。

最後に急登しばしで、懐かしいヘルンリヒュッテに到着しました。チェックインの受付開始時刻である15時までまだ30分ほどあったので、コーラ(CHF7!)を買って小屋の前のテラスでまったりと時間を過ごしました。周囲の景観は素晴らしく、ヴァイスホルン山群からミシャベルの山々、イタリアとの国境の山々、そしてその国境線の尾根がま〜るくカーブを描いてマッターホルンの右足に続くパノラマが広がります。空はどこまでも青く、そして小型のカラス(?)たちが群れ飛んでいるさまも意外に優美です。

時間になったところで小屋の中に入り、登山者たちの行列に並んで順番を待ちました。小屋のお姉さんの英語は少し聴き取りにくいところもあったのですが、とにかくCHF155払えということはわかったのでキャッシュで払いました。もらったレシートを見てみると自分の分がCHF80、ガイド(Führer)分がCHF75。このCHF5の違いの理由は不明です。

とりあえず荷物を指定された部屋に置いて、マッターホルンの基部まで行ってみることにしました。小屋の裏手の道を登って少し歩いたところに残雪の向こうに太いフィックスロープがかけられた取付があり、明日の朝はここから登山が始まることになります。これを眺めながらしばらくぼんやりしてから、小屋に戻りました。

夕方、小屋の1階の指定されたテーブルでディナーをとりましたが、そこに集ったアルピンセンター手配のガイド登山の客は10名余りで、フランス人やドイツ人、ルーマニア人などに混じって東洋人は私ともう1人だけです。そのもう1人である日本人のS氏は今年還暦ですが、自営業の強みで世界中の山を登っているそうで、デナリもアコンカグアも登頂済み。マッターホルンには何年も前に挑戦したものの天候不良のため登れなかったため、今回がリベンジだそうです。

やがて出てきた食事は最初にスープ、そしてメインディッシュはシチューにインゲンと何か(ジャガイモではなさそう)のペースト状のもので、お世辞にもおいしいとは言えません。それでも我慢して食べていると隣のフランス人から「魚がなくて残念だね」と声を掛けられました。日本人は魚ばかり食べているというイメージからのジョークのようですが、その横ではむすっとした顔のルーマニア人が肉以外のほとんどを残してしまっていました。

食事が終わった後にガイドたちがぞろぞろと近づいてきて自分のクライアントとの対面タイムとなり、私の名前を呼んだのはイヴァンと名乗る背の高い30代の男性でした。彼はにこやかで精力的な印象で、フレンドリーに握手を交わしてくれました。例によって2階の部屋に上がって装備チェックが始まり、アイゼンと靴のフィット具合を確認した上で携行物をひと通り確認し、服装はアンダーウェアの上に1枚着ただけでよいという指示がなされました。えっ、そんな薄着でいいのか?という印象ですが、重ねてイヴァンは「明日は少し早く起きて用意を済ませ、食事を15分で終えて一番で出よう」と言ってきました。前に登ったときも別のガイドから同様のことを言われましたから、どうせ他のガイドも同じことを言ってるんじゃないのか?とは思いましたが、ともかくイヴァンは飛ばす気だな、なるほどそれなら薄着の指示も納得だと覚悟を決めました。「テスト山行のガイドは誰だった?」「ウィリーとリッフェルホルンに」「ああ、あのいつもにこにこしている(always smiling)ウィリーか」といった会話の最後に「体調は大丈夫か?」と聞くイヴァンに、私は某国元首相の言葉を引用して力強く答えました。「Trust me!!

▲この日の行程。