塾長の渡航記録

塾長の渡航記録

私=juqchoの海外旅行の記録集。遺跡の旅と山の旅、それに諸々の物見遊山。

チャーチ・ボウル

2017/08/22

今日からクライミング開始。昨夜は少し寒い思いをしましたが、夜が明けると爽やかな涼しさが漂っていました。

朝食はこうして一つのテーブルに皆で向かい、一緒にいただきます。私のメニューは昨夜買ってきたサンドイッチとチーズ、フルーツ、お湯を沸かしてオーガニック・ティー。

キャンプ場を8時に車で出発して向かったこの旅の最初の岩場は、ヨセミテ渓谷随一(唯一)の高級ホテルであるマジェスティック・ヨセミテ・ホテルMajestic Yosemite Hotelの近くの駐車場から徒歩1分という交通至便の位置にあるチャーチ・ボウルChurch Bowlです。ちなみに、1927年開業のこのホテルはヨセミテ渓谷を訪れる政財界のVIPが必ず宿泊する場所であり、あのスティーブ・ジョブズが結婚式を挙げた場所でもありますが、旧称のアワニー・ホテルAhwahnee Hotelの方が通りがいいかもしれません。2016年3月1日に改名して今の大仰な名前になったのですが、その理由は、それまで公園の運営を請け負っていた事業者が契約終了に際して管理していた各施設の商標権を途方もない高額で買い取ることを当局に要求したためだそう。昨日立ち寄ったハーフドーム・ヴィレッジも、1899年にここにテントキャンプを開いたカリー家の名前に由来するカリー・ビレッジCurry Villageと呼ばれていたそうですが、こうした由緒ある名前が訴訟対策のために変更されてしまうというのも、アメリカらしいと言えるのかもしれません。

閑話休題それはさておき

駐車場から粗い森の中の平らな踏み跡を辿るとその森の向こう側に岩壁がずどんと立っているのが見えており、この壁に行き着いてから少し左に移動したところでリュックサックを置いて登攀準備にかかりました(このツアーでの登攀は一部の例外を除いてすべてトップロープです)。

Church Bowl

この岩場に関するトポの解説は次の通り。なるほど、ヨセミテ初心者にうってつけという感じです。

Church Bowl served as a proving ground in the early development of climbing techniques. The routes remain great training for everything from classic Yosemite chimneys to thin piton scars (for both aid and free climbing practice) to hand jams.

Church Bowl Lieback 5.8 ★★★★
This is one of the best climbs at the crag.
手前の巨岩の上に乗り上がってから、大きなフレーク状のクラックに腕をつっこんだりフレークをつかんだりして右上し、最後に左へ回り込んで終了。傾斜は緩くホールドもしっかりしていることからグレードは5.8ですが、30m以上の長さがあってトップロープでも途中で息が切れてきます。それでも終了点に着いてみれば、その長さが高度感に直結していてとてもいい気分。そして花崗岩のフリクションも実感できて、ここをツアーの1本目とするのはなるほど理由があるのだなと思いました。
ところで、不覚にもこれまで「レイバック」を「Lieback」と綴るということを知りませんでした。確かに調べてみると「lie back」で「仰向けになる」「後ろにもたれる」という意味になりますから納得なのですが、それなら「レイバック」ではなく「ライバック」なのでは?
Uncle Fanny 5.7 ★★
A good introduction to chimney climbing. Low angle chimney has excellent 1-2" gear in back. Above, put left side of body into the crack and use heel/toe technique.
「Church Bowl Lieback」の終了点近くからトップロープを垂らし、同ルートと同じ場所をスタート地点にしましたが、本来は写真の大きな割れ目が壁の末端まで降りてきているもっと左寄りからチムニーに入っていくのが正規ルートかもしれません。ともあれ、下部のワイドクラックは処理に困る微妙な広さ・狭さでしたが、トポにあるように身体を左にねじ入れてヒール&トウでずりずりと上がれば、上半分は傾斜の寝たハンドクラックになっていて苦労しませんでした。
Church Bowl Tree 5.10b ★★★
Great training for free climbing or hanmmerless aiding on pin scars. The route involves finger jams in scars and balancy mantels. Getting off the ground can be tricky due to the polish.
2本登り終えたところで壁沿いに右へ数十m移動して、きれいに立った壁をすぱっと断ち割る斜上クラックのルートにトライ。出だしの細かい2、3手をこなしてからかかりの良いフィンガー〜ハンドクラックを快適に登り、最後に段差を一つ超えて垂直のクラックを細かいフットホールドを用いながら数手登って最後はダイク上に乗り上がって終了となります。
こちらはテンション混じりでの終了点タッチになりましたが、このルートは面白い!これだけで半日遊べそうですし、もしこれが小川山にあったら大人気ルートになること請け合いです。
ところで、この壁の中をよく探すとボルトの頭や薄いクラック内のピトンスカーが直上ラインを形成していました。保科ガイドの解説によると、この壁はビッグウォールに向けたトレーニングの場として利用されているそうで、もともとエイリアンはこうしたピトンスカーに決めて静荷重をかけ人工登攀による前進手段とするために開発されたものなのだとか。

さて、時刻はまだ13時ですが、クライミング初日としては3本登れば上出来です。

昼食はハーフドーム・ヴィレッジのピザ・パティオPizza Patio。やはりアメリカンサイズなので2枚を5人で分けても多いほどでしたが、周囲を見回すとこのサイズを1人1枚で仲良く食べているカップルなどもいて、なるほど、この食欲の持ち主たちを相手にしたのでは戦争で負けるはずだ……と妙な感心をしました。また、このピザデッキにはリスが何匹も出入りしていておこぼれを狙っており、中にはグラマラスな女性を狙ってテーブルに乗り上がる剛の者もいましたが、こうした野生動物に餌を与えることはこのヨセミテ渓谷では特に厳しく禁じられています

お腹がいっぱいになったところでしばしフリータイムとなり、他の皆さんはハーフドーム・ヴィレッジ内を探索したようですが、私は一人で近くのメドウ(meadow=草原)を散策してみることにしました。

駐車場から少し離れると車道に出て、そこからは名前通りの形をしたハーフドームやイスタンブールのアヤソフィアを連想させるノースドームNorth Dome、そこから渓谷に向かって突き出したワシントン・コラムWashington Column、褶曲した模様が特徴的なロイヤル・アーチズRoyal Archesが一望できました。言い伝えでは、ハーフドームは昔この渓谷に住んでいた男女のうちの女性、ノースドームは男性、ワシントン・コラムは男性の杖が、いずれも岩に変えられてしまったものなのだとか。

車道の反対側には小さなメドウがあり、その中に木道が走っています。メドウは案外乾燥していて、きれいな黄色い花が群生したりもしていました。さらに、この木道を渡ってメドウを抜け森の中に入ると、人を恐れない鹿の親子が草の中で食事中でした。

そのまま道を進むとヨセミテ渓谷の中を縦貫するマーセド川の畔に出ました。冷たい水に気持ち良く足を浸してしばし休んでから元来た道を戻ると、今度はハーフドーム・ヴィレッジの向こうにグレイシャー・ポイントGlacier Pointの巨大な壁を見上げる形となりました。ロイヤル・アーチズといい、このグレイシャー・ポイントの壁といい、かつて渓谷を埋め尽くしていた氷河が削り出した造形美とそのスケールには圧倒されてしまいます。

再び全員が揃ったところで、今度はヨセミテ・ヴィレッジに移動。完全に観光モードです。

最初に立ち寄ったのはビジターセンターYosemite Visitor Center。ジオラマが迫力あり。

地質学的な説明やネイティヴ・アメリカンの時代の歴史解説もあります。

夕食の時間になってもお腹が空かず、とりあえずストアで翌日の食料などの買い物をしてからいったんキャンプ場に戻って2時間の夕寝。暗くなってから再びヨセミテ・ヴィレッジに移動してザ・ロフトThe Loftというレストランに入りましたが、パンの中にミートボールをはさんだものを頼んだところ、これまた巨大で食べきれません。あまり食事を残す方ではありませんが、このときばかりはパンはほとんど残し、ミートボールと付け合わせのサラダだけをいただきました。ちなみにこの料理は「Mighty Mountain Meatball Melt」という名前でしたが、確かにそのボリュームはMightyだったような気がします。

ぱんぱんにふくれたお腹をかかえてキャンプ場に戻ったら各自真っすぐテントへ。この晩は暖かく、シュラフを掛け布団のようにするだけでぐっすり眠れました。