出発(または、私がいかにしてiPadを失ったか)

2012/07/07

昨年はKLMでアムステルダム経由でしたが、今年はルフトハンザのエアバスA380でフランクフルト経由。オランダもドイツも旅先として訪れたことはまだなく、いずれは経由地としてではなく目的地として向かってみたい国ですが、その前にアルプスの主立った山をまずは片付けなければ。

成田空港のゲートに一際目立つこの赤みがかった黄色が、ルフトハンザのコーポレートカラーです。機内アナウンスは独→英→日の順番、そして飛行中は食事・睡眠・映画の繰り返し。ギリシャ神話ものの『タイタンの逆襲』は迫力のあるCGがシンプルに面白く楽しめましたが、それ以上に興奮したのは『シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム』でした。『マトリックス』ばりのスローモーションやアップを交えた大胆なアクションとコミカルなホームズ(ロバート・ダウニー・Jr)、ワトスン(ジュード・ロウ)のキャラクターが最高です。さまざまな伏線も巧みでよく練られた脚本には感心するばかりですが、ただ一つ残念だったのは、女泥棒アイリーン・アドラー役でとても魅力的なレイチェル・マクアダムスの出番がほんの少ししかなかったことでした。

モニター画面で尾翼の上から機体を見下ろす画像を見られるのも新鮮でした。飛び立つ瞬間に滑走路から巻き上げられた水が津波のような飛沫となって主翼の上を越えていく様子に仰天し、刻々と変わる雲の様子にほっこりし、着陸時の迫り来るドイツの大地に少々感動しました。

さすがフランクフルト。はるか彼方まで整然と並ぶ飛行機は全部ルフトハンザ機です。この空港で試みにiPhoneのフライトモードをオフにしてみたらSoftbankと提携しているVodafone D2がつながりましたが、パケット料金の膨張が怖かったのでメールを確認したらそそくさと切ってしまいました。

フランクフルトからチューリッヒまでは、文字通りひとっ飛び。どうやらいい天気です。

勝手知ったるチューリッヒ空港駅から、ベルン行きの列車に乗りました。

……ここから、歯車が狂い始めます。

ベルンに着いたところでインターラーケンへ向かうために違う列車に乗り継ぐための時間があまりなく、しかも列車の行き先(最終目的地)に関する情報を仕入れていなかったために、インターラーケン方面行きの列車と同じ時刻=20時04分にベルンを発つ別の列車に乗ってしまいました。ベルンを発ってしばらくしたところで、どうやら本来の方角とは逆のバーゼル行き列車に乗ってしまったらしいと気付きましたが、中途半端なところで引き返すよりはと終点のバーゼルまで行き、ちょうどすぐに発車するベルン方面行きの列車に飛び乗ってUターンしました。やがて検札に来た車掌さんにスイスカード(←本来は入国地点から目的地までの往復用)を示しながら「この列車はインターラーケンへ行きますか?」と聞いたところ、彼はにっこり笑って「Yes, directly!」。計算してみたら、どうやらこの日のうちにグリンデルワルトへ到達するための最終列車に乗れたようです。それでほっとしたのと長旅の疲れ、それに時差ボケが重なったのでしょう、ベルンを過ぎたあたりから睡魔に襲われてぐったり寝込んでしまいました。

ふと目が覚めると、がら空きの列車の隣の座席に置いていたデイパックがありません。えっ?まさか!すぐに盗難にあったことは理解しましたが、しかしまさか自分が本当に?と現実を受け入れられずにしばし狼狽してしまいます。網棚のバッグを盗まれてノートPCを紛失するというセキュリティ事故は私の勤めている会社でも時たま起こりますが、そのときの被害者の心境が初めて実感できた瞬間でした。列車はちょうどインターラーケン・ヴェスト駅に滑り込もうとしているところで、犯人が降りるとしたらこの駅だろうと山道具の入ったでかいリュックサックを担いでホームに下り立ちましたが、当然ながらデイパックを目につくように持っている者はおらず、空しく列車が出発するのを見送るしかありませんでした。

盗られたデイパックの中にあったのは、次の品々です。

  • 日本円が3万円ほど
  • iPad
  • 買ったばかりのカメラ
  • 航空券(Eチケット)
  • ユングフラウ・パスのバウチャー
  • ホテルのバウチャー
  • 旅程表

痛い!カメラはこの旅のために買ったものでほとんど未使用ですし、iPadも1週間ほど前のDJイベントで使用しただけで黄泉の国へ旅立ってしまったことになります。

……合掌。

そういえば、寝込んだ私が途中でふと目覚めたとき、車内はどこも空いているのになぜかわざわざ私の前の席に座っている若者がいたことを思い出しました。今にして思えば私の様子を窺っていたのでしょうが、そうとは知らずに再び泥のように眠りこんでしまったのは不覚の極み。さらに、いつもは手回り品は肩掛けバッグにするのですが今回に限ってデイパックにしており、そのストラップに腕を通すこともせずに隣の席に置いたのは油断以外の何物でもありません。

何はともあれ、この日の宿があるグリンデルワルトに辿り着かなければ話になりません。既に23時を回り最終列車は終わっているので、タクシー乗り場で運転手さんにグリンデルワルトまでのタクシー代がいくらかを聞いてみるとCHF100という回答です。さすがにパスポート、iPhone、クレジットカード、スイスカード、それにスイスフラン現金CHF600ほどは身に着けていて無事だったので、タクシーでホテルを目指すことにしました。

30分ほどの登り道の間、気のいい運転手はあれこれ話し掛けてくれたのですが、盗難のショックで心ここにあらずの私は生返事を返すばかり。それでも今回の旅の宿=ユングフラウ・ロッジが近づいて「So, welcome to Grindelwald!」と告げられたときは多少の笑いも出て、気を取り直すことができました。また、ホテルの方では既に24時近いというのに若い女性のスタッフがフロントで待ってくれていて、私がバッグを盗られバウチャーを失ったことを告げると同情しながら「No problem.」と言って部屋のキーカードを渡してくれました。やれやれ、助かった。

別館の自分の部屋に落ち着いたところで、ぐったり。自宅を出てからまるまる25時間の移動は、こうしてようやく終わりました。