塾長の渡航記録

塾長の渡航記録

私=juqchoの海外旅行の記録集。遺跡の旅と山の旅、それに諸々の物見遊山。

パット・アンド・ジャック・ピナクル

2017/08/27

実質的な最終日。昨日、エル・キャピタンを見上げた後にハウスキーピング・キャンプでシャワーを浴びてから、この日の行動をどうするかの相談が行われました。一つの案はクライミングは終了してグレイシャー・ポイントへ行く道の途中にある駐車場から30分ほど林間を歩いたところにあるタフト・ポイントTaft Pointに行こうというもので、そこはグレイシャー・ポイントと同様に絶壁の上からヨセミテ渓谷を見下ろす展望台なのですが、見どころはエル・キャピタンを対岸から眺められる点です。そちらの案も魅力的だったのですが、ダフ・ドームでのクライミングが本数を稼げなかったことで少々物足りないものを感じていた私が「最後まで登りたいです」と提案したところ、イリエ夫妻もシュドウ氏も同意して下さった(本当はタフト・ポイントを楽しみにしておられたかもしれません。ごめんなさい)ので保科ガイドがガイドブックを眺め回して選んだのが、ヨセミテ渓谷を出てマーセド川の右岸、Route 120とRoute 140に挟まれた斜面にあるパット・アンド・ジャック・ピナクルPat and Jack Pinnacleでした。

最後の朝餐を終えた後、まだ使えるガスカートリッジはまとめて岩の上に。誰かが使ってくれますように。

さようならハーフドーム、ノースドームとワシントン・コラム。

さようなら、ヨセミテ滝とロストアロー。

さようなら、エル・キャピタン!

そしてヨセミテ渓谷を抜けてしばらくの地点で車を停め、斜面の中の道を登ったところに目指す岩場がありました。

Pat and Jack Pinnacle

Giant knobs on unusual rock give the climbing here a different feeling than at most Yosemite crags and allow for very steep routes at moderate grades. Long reaches and challenging mantels are often the name of the game. A few splitter cracks without knobs also grace the rock.

垂壁に走るクラックが大変威圧的です。いやー、これはおとなしくタフト・ポイントに行った方がよかったかな?

横から見るとこんな感じですが、ぼこぼこと岩が浮き出しているのが不思議。その不思議な見た目に東京文化会館大ホールの壁面を連想しました。

▲ cf. 東京文化会館大ホールの壁面
Knob Job 5.10b ★★★
Fun hand cracks and huge jugs. The crux can be done three ways: insecure and delicate climbing in the flared finger crack, the usual technique of liebacking the (hard to spot) right crack, or perhaps the easiest way, by transferring entirely into the right crack and cranking to the jugs. No matter how you do it, the pro is great and the jugs only a few feet out of reach.
垂壁にすぱっと走るダブルクラック。本来は2ピッチのルートですが、トップロープなので1ピッチ目だけを登ります。まず左のクラックに取り付き、途中から始まるジャミングセクションは頑張って高さを稼いではクラックの横にある岩の突起に乗り上がってレストするということを繰り返しますが、傾斜がきついだけに徐々に腕力を吸い取られていきます。そうして途中から右クラックに移り、さらに最上部ではさらに右にある細いクラックを横引きホールドとして使って身体を支えることになるのですが、実はその高さに達すると右の横引きホールドがクラック間の岩の膨らみに隠されて横目では見えなくなっているというトラップがあり、力尽きてぶら下がってから「なんだ、さっき下からオブザベーションしたじゃないか」と自分を責める羽目に陥ります。とは言うものの、本線のクラックはフィンガーサイズになった上にフレアしており、消耗しきった私は尺取り虫状態。1手上がってはハングドックするということを重ね、最後はなんとかガバホールドをつかんで終了点のレッジに乗り上がりました。ビレイして下さったシュドウさん、お手数をおかけしました。
Nurdle 5.8 ★★★★
One of the steepest 5.8s in Yosemite. Link this route with the second pitch of Knob Job using a 60m rope and you get one incredible 5.8 pitch. You can climb around the short offwidth pod on the first pitch but it is easy and a good place to introduce yourself to this mandatory Yosemite skill.
こちらも1ピッチ目のみですが、下部4分の1の右上セクションに非常にバランスの悪い箇所があって意外に手こずります。ただしそこさえ越えてしまえば、オフウィドゥスやハングも易しく文句なしのファンクライムとなります。この1本をもってこの日の、そしてこの旅でのクライミングを終了しました。

保科ガイドが運転する車は、そのままRoute 140=エル・ポータル・ロードEl Portal Roadをマーセド川沿いに下ります。もはや花崗岩の岩壁は存在せず、その代わり川の右岸には乾いた斜面とかつての軌道の跡が眺められました。

1時間弱で標高をずいぶん下げ、華氏100度の熱気に包まれた町マリポサの、西部劇の舞台になりそうなダウンタウン("Old Town")の街並みの中にあるレストラン「Bett's Gold Coin」に入りました。カウンターの上に掛けてある銃の数々がなにやら物騒ですが、ここでは店内ライブもあるらしく古いアップライトピアノやRickenbackerギターなどが置かれており、店員さんもフレンドリーです。

アメリカンサイズでは食べきれないだろうと「シニアメニュー」を眺め、フィッシュ・アンド・チップス組とチーズバーガー組に分かれたのですが、味は良かったもののどちらも日本人にとっては十分過ぎるボリュームでした。

後はひたすら黄色い夏枯れの草原を走り(ゲストは眠り)続けて、2時間のドライブでフレズノのホテルに到着しました。

ホテルでのんびりしていても構わないのですが、まだ日が高い時刻でもあるし、せっかくなのでREIの店舗を覗いてみることになりました。広い店内は登山を中心にアウトドアスポーツ用品を幅広く揃えているようですが、逆にクライミング用具は品薄な感じです。

それでもさすがカリフォルニア、TC Proに対して次のようなメモが付してありました。

Designed by Sportiva in collaboration with legend Tommy Caldwell, these shoes give you confidence on dime edges and when your toes are jammed in a crack.

そうそうその通り。ついでに言えば私は日本の無雪期アルパインでもこのTC Proを、モンベルのサイクリングソックスとの組合せで快適に使っていますよ。

少し早い夕食はREIの近くにあったパネラブレッドPanera Breadに入りましたが、その名の通り健全なベーカリーカフェなのでお酒は飲めません。そんなわけで、ホテルに戻ったあとゲスト4人はイリエ夫妻の部屋に集り、缶ビールで乾杯!旅の思い出やこれからの山・クライミングへの取組みをのんびりと語らい合ったのでした。