出発

2000/12/29

バンコクに向かう飛行機は10時成田発のNH925便です。いつもは機内で映画を観るのですが、今回は読書タイムにして1カ月前から読み始めている『リー・クアンユー回顧録』に取り組みました。しかし下巻の3分の1まで読み進めたところで気分転換が欲しくなり、前の座席の背にとりつけられたスクリーンで将棋ゲームを立ち上げました。レベル「普通」で始めたらいきなり3手目に角交換をしてきて乱戦に引き込まれましたが、中盤で放った飛車のこびんをこじ開ける歩打ちが好手になって寄せ切りました。よしよし、幸先いいぞ。

ドン・ムアン空港に着いたのは15時15分で、外気温は大晦日だというのに摂氏31度です。外で待っていたユウコさんと落ち合って空港内の「日本亭」で茶漬を食べながらおしゃべりをしているうちに、はっと気付くとチェンマイ行きのTG116便の出発30分前になっており、あわててInternationalからDomesticへのシャトルバス乗り場へ行ったもののバスはあと10分たたないと来ないと言われてしまいました。やむなく緑と黄色のタクシーを頼んで移動しましたが、タクシーを降りるときに正規料金プラスアルファの100バーツを渡すと運転手が「あと50よこせ」と言ってきたのでユウコさんがタイ語と日本語ちゃんぽんで抗議しましたが、相手もタイ語でまくしたててきます。構わず強引に降りてタイ航空のカウンターへ向かいました。実は、このタクシーは最初にカウンターで行き先を告げ、係から所定の用紙をもらってから待っているタクシーに乗り組むシステムで、もし乗車中に不都合があればもらった用紙にクレームを書いて投函することができるのですが、我々はあわてていたこともあって無意識のうちに用紙を運転手に渡してしまったため、これ幸いとぼられそうになったというわけでした。

とにもかくにもタイ航空の窓口にチケットを提示すると、出発10分前になっているのでTG116便の発券手続は終了した、あちらの窓口で次の便の予約をとってくれと言われてしまいました。ところが、愕然としながら仕方なくそちらに並びなおしたところへ別の係員が追いかけてきてくれて、事情がよくわからないままに手続をして搭乗口へとダッシュ!ゲートから飛行機までのバスに乗り込むと、後から来るわ来るわ、30人くらいもの乗客が次々に乗りこんできました。これだけの人数が遅れていれば融通も利かせてくれようというものですが、この辺りのおおらかさはさすがタイ。結局30分遅れでテイクオフしました。

チェンマイ空港で待っていたのは、イサーンへの旅行の際コラートでのガイドをしてくれたサイチョルが所属するNARA TOURの、とてもチャーミングな女性ガイド・キップさん(本名Satjawat Boonyo。ちなみにタイの人はみなニックネームをもっています)。既婚者とは思えない若々しい女性で、多少日本語がたどたどしいもののとても明るくてフレンドリー。日本人観光客からは(本名をもじって)サッちゃんと呼ばれることも多いと説明して自分で「♫サッちゃんはね〜」と歌ってくれました。実はイサーン旅行時の印象が良かったので今回もサイチョルにガイドしてもらうことになっていたのに、直前になってキップさんに交替になって「なんでだよ」と思っていたのですが、キップさんの説明によると、サイチョルは占いのお告げに従ってかきいれどきのこの大晦日にウボンラーチャターニーで結婚式をあげるのだそうです。確かにそれではガイドどころではないだろうと納得したところでチェンマイでの宿Chian Mai Plaza Hotelに到着し、明日8時半にロビーで落ち合うことを約束してキップさんと別れました。

今宵は、正月休みでチェンマイに帰省中のユウコさんの同僚と待ち合わせて食事をすることになっています。その同僚、ゲイ(本名Parissara)はキップさんとは打って変わって超ボーイッシュな30代の女性で、化粧っけのない顔につんつるてんの上衣とズボン、サンダルをぱたぱたさせて気合の入った米語で話し掛けてきます(ユウコさんの職場は英語が公用語です)。初対面の挨拶を済ませてから彼女の案内で北タイ料理を食べさせてくれるレストランへ行くことになり、ホテルの外に出てゲイがつかまえたのが乗合タクシーの赤いシーロー(=ソンテウのチェンマイでの呼称)で、これは市内を流している車を止めて運転手に行き先を告げて方向が合えば車の後ろから2列向かい合わせの座席に乗り込む仕組みになっています。

5分ほど走ったところで1人10バーツを払って降り、入ったレストランはチェンマイ市街の東を流れるピン川に面した郷土料理レストランで、ポークを中心にした各種料理を手にとったカオニャオ(餅米)とともに食べました。辛いものに弱い私は一つ一つ「これはspicyか?」と確認しながら慎重に食べていたのですが、ふと手にとった緑の唐辛子を何の気なしに齧ってしまい口から火が吹きました。ゲイとユウコさんには思い切り笑われましたが、ゲイにもらった水を飲みこんでもしばらくは寒気が来るほどの辛さです。やがてどうにか口も胃も落ち着いた頃、店のオーナーである女性歌手が登場しました。彼女は人気の歌手らしく、フォークギター2人をバックにきれいな声を聴かせてくれましたが、我々は3曲聴いたところで退場しました。ゲイはもう少しゆっくり聴きたかった様子でしたし、他の客もうっとり聞き惚れていたところを見ると、本当はもったいないことをしたのかもしれません。

再びシーローをつかまえて移動し、そのままホテルに戻るかと思いきやユウコさんはフラワーマーケットを覗いてからナイトバザールに突入しました。北部山岳民族(hill tribe)の人たちを中心に露天でさまざまなみやげ物を売っている中を人混みに揉まれながら歩き、最後にココナッツミルクにフルーツと氷を入れたデザートを食べてホテルに戻ったときには、竹のかご5個セットと民芸品らしき小さな銅鑼が私の手に握らされていました。