チャイティーヨー

2002/12/29 (2)

ほぼ水平になった尾根道を歩き、白い階段から素足になって境内に入ると、つるつるの石畳の上を進んだ奥に、黄金の石の仏塔が鎮座していました。大きな岩の上に丸い石が危ういバランスで乗っていて、その上に仏塔が建っているのですが、よく見ると何人もの人が丸い石にとりついてぐいぐい押している……と見えたのは、本当は金箔を貼っているところです。タイやミャンマーの寺院では普通の光景ですが、信者は寺務所で買った金箔を本尊にぐりぐりと押し付けることにより功徳を積もうとしているのです。この丸い石が金色に輝いているのも、金箔が全面に貼られているからでした。

この石に直接触るためには境内のテラスから細い橋を渡って丸い石を乗せている岩の上に移らなければならないのですが、その橋の入口には門が作ってあって、門衛が見張っています。ご多分に漏れずこの本尊も女性は触ってはいけないので、それを見張るため?ということより、方向によっては手すりがない岩の上で押し合いへし合いになり落ちる者が出ないように人数調整をしているのかもしれません。

しかし我々はお祈りをするのは夜に回すことにして、ここから右手=東の方へ伸びる別院(モンソー山)へ行ってみることにしました。なんだか筑波山の男体山と女体山の間みたいな参道を通って少し登ると修験者が修行する岩屋があって、その上の山頂に別院の建物がこじんまりと建っています。スピーカーは盛んに何ごとかをがなりたてており、チョチョルィンさんに聞いてみたら、これは寄進した信者の名前を次々に読み上げているのだそうです。

尾根はそこからさらに先へ伸びており、その向こうのかなり遠いところまで寺院の建物が点在していますが、歩くと何時間もかかるとのこと。右手近くの支尾根上にはヘリポートがあって、こちらは今は政府や外国からの要人が使っているようです。

戻りは尾根上ではなく、その北側の斜面を下ってみました。こちらにはたくさんの木造の建物がひしめいており、実に多くの人がこの仏教施設のおかげで生計を立てていることが窺えます。我々が下っている道はその建物群のさらに下を走る道で、こちらも巡礼路になっているらしく、両側に土産物などを売る店が並ぶ土の道を急下降しました。

途中のきれいに澄んだ神様の井戸を過ぎて山腹の道をしばらく歩くと、カラスの口と呼ばれる岩場がありました。横に張り出した大岩の上に隙間があって、そこへ下から投げ上げたコインが入ると願い事がかなうのだそうです。それではと私も、最初に500チャットの風鈴を寄進してからコインを買い、お祈りをしておもむろに投げ上げてみました。見ている分には簡単に入るだろうと思っていましたが案外難しく、10枚投げて1枚しか入りません。そうこうしているうちに上から落ちてきた他の人のコインがこちらの頭頂部を直撃して痛い目にあい、周りのミャンマー人たちからは大笑いをされてしまいました。

カラスの口の下にはやはり浅くて狭い洞窟があり、数名ずつ交代で中に入ることができます。チョチョルィンさんと私も身をよじるようにしながら狭い入口をくぐって中に降りてみましたが、かろうじて数名がすわっていられる空間の奥には怪しげな祭壇があって係の男性が1人。500チャットを出して寄進しようとしたところ、係の男性がチョチョルィンさんに何ごとか熱心に話をしています。困った顔のチョチョルィンさんが言うには、1,500チャット出せばもっと功徳になるしお寺の施設ももっときれいにできる、ぜひ1,500チャット出しなさい、ということなのだそうです。お布施の増額を交渉するとはミャンマー商法恐るべし……とは思いましたが、ここは徳を積み上げることにしました。

案じた通りの急坂を登ってもとの黄金の石に戻り、タイミングよくサンセットを見物しました。なんとも妙なる眺めですが、実はこの仏塔の本番は暗くなってから。そこで、いったんホテルに戻って夕食をとることにしました。ホテルのレストランには各国の観光客がひしめいており、ドイツ人、スペイン人、そしてなんとタイ人の団体までいました(ミャンマーとタイは国境で対峙している関係だったはずなのに?)。

すっかり暗くなってから、先ほど通った参道を再び仏塔に向かいました。空を見上げると文字通り降るような星で、その配置は日本と同じ北半球のものなのでチョチョルィンさんにいくつかの星座の名前やカシオペア座を使った北極星の見つけ方などをレクチャーしましたが、それにしても気温が低く、熱帯の国とは言ってもこの標高・この季節はやはり防寒対策が必要だと思いました。ちなみに私はTシャツの上にフリースを着込んでいるのですが、それでもけっこう寒さを感じます。

そして再び対面した黄金の石は、すっかりライトアップされて妖しい黄金の光を放っていました。

まず金箔を買ってきて、テラスから橋を渡って黄金の石のすぐそばに立ち、10人程のミャンマーの人たちに混じって私も金箔を石にこすりつけてきました。

その後は、女性用らしきテラスでチョチョルィンさんが一所懸命祈りを捧げている間、私はぶらぶらと夜の境内を散策しました。

黄金の石に向かってロウソクの炎を捧げ祈る信者の姿には心打たれましたが、境内には昼間以上に人が多く、かなりの数が座り込んで長期戦の様相です。中には既に毛布にくるまって境内で野宿の態勢に入っている人たちもおり、この一風変わった喧噪は朝まで続くのだろうと思われました。