バガン III

2001/05/04 (1)

昨日サンセットを見ることができなかったので、今日はサンライズを見ることにしました。朝が弱いユウコさんは当然のように留守番で、5時半にチョチョルィンさんに案内されて2人で自転車で出発し、早朝の涼しく気持ち良い空気の中をすいすい走ります。オールド・バガンの城壁を出てすぐの仏塔に登って東を見ると、地平線には雲がかかっていますが、その上の方は既に明るくなっていました。周りを見渡すと東側の近くにバガンで一番高いタビイニュ寺院があり、アーナンダ寺院はその影に隠れていますが、遠くには金色のシュエズィーゴォン・パヤー、右寄りには昨日登ったシュエサンドー・パヤー、そして巨大な未完のダマヤンヂー寺院といった具合に、バガンの主だった仏塔がほとんど見えています。

5時45分、雲の上の方にオレンジ色の太陽が上りました。見はるかす彼方まで続く大平原とそれを埋め尽くすような仏塔群、それらをオレンジ色に染める朝日と美しくたなびく雲、時折聞こえるのは鳥の声、まさにこの世の極楽です。800年前のバガンの王たちも、こうして仏塔の上からバガンの夜明けを特別の感慨をもって眺めたのではないでしょうか。

ホテルへの帰り道、オールド・バガンの中にある立派な仏塔が特徴的なゴドーパリィン寺院に立ち寄って外で写真を撮っていると、チョチョルィンさんが「ちょっとお参りしてきていいですか?」と聞いてきて、朝のお祈りに入っていきました。なるほどミャンマーの人は、いずれも実に敬虔な仏教徒なのです。そして何より、このバガンは過去の栄華を偲ぶ遺跡なのではなく、今も現役で人々の尊崇を集め、それゆえに仏塔もどんどん修復・新築されている「生きている聖地」なのだということがよくわかります。

ホテルで朝食後、今日は南東50kmにあるポッパ山へ向かいました。ポッパ山は標高1518mの死火山で、ミャンマーの土着信仰の聖地とされており、その中腹にある岩塔タウン・カラッはその異様な姿で参拝者と観光客の両方を集めています。

ポッパ山への道すがらに立ち寄ったのが棕櫚の砂糖工場です。工場といっても家内制手工業の域を出ていませんが、高い棕櫚の木(という説明でしたが、どう見ても椰子の木)に男性がするすると登って、あらかじめ取り付けてあった壷にたまった樹液を回収し、これを屋内にいる女性が煮詰めて固めるというものです。試しになめさせてもらった樹液は甘くさらっとしていますが、餅米を使って発酵させるとすっぱくなり、さらに蒸留すると強い酒になるそうです。また、棕櫚の実の内側は白い半透明のゼリー状で、すくって食べると美味でした。

ポッパ山に向かう途中で、突然車ががたがた揺れ出しました。パンク!しかし太鼓腹にロンジーを巻いた運転手は少しも慌てず、車を停めてタイヤ交換を始めました。その間、近所の子供たちがわいわい回りを取り囲んで楽しそうに見物していましたが、笑いながら見物の輪に加わっていたのは子供だけではありません。大人も交じってパンクした車をネタにおしゃべりを繰り広げている人々の様子はまったくのどかなもので、こちらまでうれしくなってしまいました。

そんなこんなでやっと見えてきたポッパ山はなかなか立派な山容をしており、山頂まで登ると往復3時間の歩きになります。チョチョルィンさんは、しばらく前にこことインドネシアにしかいないという蝶を採りに来た日本人を案内したことがあるそうですが、今回はもちろん山頂には登りません。

タウン・カラッは遠くからでもはっきりとわかる岩塔で、天から降ったか地から湧いたか、どうしてここにこういう地形が生まれたのかさっぱりわかりません。この岩塔のふもとには礼拝堂(ポッパメードー)があり、37種類の土着神(ナッ神)が祀られていました。信仰の中心は王によって非業の死を遂げさせられたウーティンデ(ナッ神としてはミン・マハギリ)とその姉ですが、チョチョルィンさんが大事にしているのは鬼女の息子で勇猛な兄弟神のシュエピンジ、シュエピンゲ兄弟(タウンビョン兄弟)で、高校生のときに試験合格を祈願したところかなえられたので、その時以来イスラム教徒であった兄弟神への誓いを守って豚肉は食べないことにしているのだそうです。

薄く緑色がかったきれいな毛並みの猿たちに見守られながら、タウン・カラッの階段をひたすら登ること15分、てっぺんの寺院に到着しました。ここにも子供たちがいて、ユウコさんのように途中でくじけそうになった観光客に肩や腕を貸してくれます。チップはどうするんですか?とチョチョルィンさんに聞くと「これもお布施ですから、気持ち次第で10チャットでも100チャットでも」とのことだったので、間をとって50チャットを渡しました。なかなか高度感があるてっぺんからはポッパ山が近く、またバガン方面は低い山脈に遮られてはいますが、平原の広がりを見渡すことができて素晴らしい眺めでした。

タウン・カラッから下って車で少し移動したところにあるのが、これもポッパ山の中腹にあるポッパ・マウンテン・リゾートです。思わず泊まりたくなるようなコテージスタイルのホテルですが、我々が昼食をとったレストランもテラスで食事をしながらタウン・カラッやその先の大平原を見下ろすことができて雰囲気は抜群でした。