出発

2001/05/02

成田空港を飛び立ったNH915便は、意外なほどに空いていました。窓際3列は1人で占領できたし、周りを見回しても6割くらいの埋まり具合です。搭乗前に空港の売店で買った『チーズはどこへ消えた?』(スペンサー・ジョンソン著)を1時間余りで読み終えて機内誌『翼の王国』を手にとると、最近話題のエコノミークラス症候群に対する注意として「飛行中は適度な水分をとること」「足の運動をすること」を勧めています。しかし機内で足をばたばたさせるのもはばかられたので、かわりにゴルフ映画『The Legend of Bagger Vance』(『バガー・ヴァンスの伝説』)を見ることにしました。ロバート・レッドフォード監督、ウィル・スミス&マット・デイモン主演ということで期待してみましたが、何となく独特のムードがあるものの、いかにもテンポの悪い映画でした。

しばらくすると眼下にベトナムの海岸線が見え、やがて雨のバンコク、ドン・ムアン空港に到着しました。入国審査官のゆっくりした仕事ぶりにいらいらしながら手続を済ませ、外に出たのは到着から1時間後でしたが、そこに待っているはずのユウコさんの姿が見当たりません。おかしいなぁとは思いましたが、どうせヤンゴンまで同じ飛行機に乗ることになっているのだからとあまり気にせず、タイ航空のカウンターに行ってチェックインしました。念のためしばらく予定の位置で待ってから、今度はタイからミャンマーへの出国手続を済ませてゲートへ行ってみると、案の定ベンチに座って本を読みふけるユウコさんの姿がそこにありました。

TG305便のテリーヌの乗ったオープンサンドとパクチーを散らしたシーフードサラダの機内食はとてもおいしかったのですが、ユウコさんはパクチーが苦手なので、ユウコさんの分のシーフードサラダも食べてしまいました。雲の下に降りると眼下には大きな川、そして濡れた茶色の平原が広がっています。これが、初めて見るミャンマーの国土でした。着陸後、空港の窓口に行って入国手続となりますが、ここで外国人は200USドル相当を外貨兌換券(Foreign Exchange Certificates=FEC)に強制的に交換させられることになっています。しかし私が男女2人の係官が並んだ両替窓口に行ってみると、先に入国審査を済ませて両替窓口に並んでいたユウコさんと係官との間でどうも話が通じていません。しばらくやりとりがあってわかったのは、「本来は1人200USドルずつ両替が必要なのだが、ここで5USドルずつ我々(係官2人のこと)にプレゼントしてくれれば、両替は2人(私とユウコさん)で合わせて200USドルでいい」と言っているのでした。FECは確かにUSドルと等価で使えるものではありますが、ミャンマー国内でしか使えないので、できることなら両替は最小限にとどめたいところです。ここは迷わず係官の厚意(?)に甘えることにしました。

税関を抜けて待合室に出たところで、今回の旅のガイドを務めてくれるチョチョルィンさんと合流しました。実はユウコさんは去年の2月にもミャンマーを旅行しており、そのときガイドしてくれたのがチョチョルィンさんで、彼女のガイドぶりにいたく感激したユウコさんは今回の旅でもチョチョルィンさんを指名したというわけです。ちょっと低いハスキーな声と悪戯っぽい目が魅力的なチョチョルィンさんはなかなか流暢な日本語をしゃべる30歳前後の女性で、ユウコさんとひとしきり再会を喜びあってから、タクシーで今宵の宿であるSedona Hotelへ案内してくれました。そこのロビーで今回の旅行の手配をしてくれているImperial Amazing Green Travel & Toursのサイ社長のお姉さんにツアー代金を支払い、ホテルからのプレゼントであるシャンバッグ(シャン族が使う編んだ肩掛けバッグ)をもらってから部屋に落ち着きました。

時計を2時間半戻して、さあ、明日からが本格的な旅の始まりです。