ファチョン・アイスパーク

2019/02/10

ホテルで朝食をとった後、7時半にやってきたJeonさんとロビーで初対面の挨拶を交わしました。1966年生まれとは思えない若々しくハンサムなガイドのJeonさんは日本語が話せ、これまで八ヶ岳や北アルプスに何度も来ているほか、この冬は安比や八甲田へスキーに行く予定というほどの日本通。さらに夏は、スイスアルプスやヨセミテをフィールドとしてガイド業と自身のクライミングを実践しているそうです。

途中でJeonさんと同じクラブに属するというYun Yongsooさんをピックアップし、一路東へ。郊外に出てからJeonさんは助手席に座ったYunさんとひたすらおしゃべりをしていましたが、おおむね一方的にJeonさんが話していたところからすると、Jeonさんはよほど話好きである模様。後部座席の我々は、時折うとうとしながら快適なドライブに伴う車の揺れに身を委ねていました。

ソウル市内から車を飛ばすこと2時間弱で着いたのは、韓国の北東に位置する江原道・華川화천のファチョン・アイスパークです。ポンプアップした川の水を川沿いに切り立った崖の上から垂らして凍らせた人工氷瀑(トップロープ限定)で、最も高いところは80mくらい。そのスケールに私もヨーコさんも驚きましたが、どうやら例年に比べて氷の発達が悪いらしく、Jeonさんは車を駐車場に向けながら「氷よくないね。あぁ〜」と若干の嘆き節。しかし「今日はウォーミングアップだから」と言い聞かせるようにして車を駐めました。

一部水面が出ているところもありますが、川面はおおむね厚く凍りついた状態でスケートリンクのよう。そこにテントが何張りも張られていましたが、我々はメインの氷壁を前を通り過ぎて奥まった位置にあるやや低い氷瀑へと向かいました。

尾根を一つ回り込んだ先のルンゼに垂れた氷壁をこの日最初のターゲットと定め、まずは身繕い。空気は冷たいものの風がないせいかそれほど寒くありません。

Jeonさんがトップロープを張ってくれてまずは肩慣らしの一本目となりましたが、えーと、いきなりこれですか?高さは20mくらいの氷柱状で、途中の切れているところでは立体的なムーブも要求されますが、その代わり見た目の危なっかしさとは裏腹に氷はしっかりしていて、登るうちにほぼひっかけで身体を引き上げることができることがわかりました。それでも朝イチの課題としては厳しく、腕のパンプを必死になだめながらどうにかてっぺんまで。以下、ヨーコさんと交代し、さらにYunさんにも登ってもらったりしてから再び同じラインを登ったところ、さすがに二度目は身体が慣れてスピーディーに登ることができました。

しかし、ここでJeonさんとYunさんから諸々のアドバイスが入りました。第一に我々は道具の整備が不十分で、アックスにしろアイゼンにしろ、研ぎ方が雲泥の差。さらに、このギンギンのアックスを氷に打ち込むのではなく上から下へ引っ掛けるようにせよとの指導がYunさんからありました。

そうした指導を受けながらのランチは、インスタントコーヒーと甘い柿を干したものを前菜にしてのカップ麺で、つましいメニューながらも身体が温まります。

Jeonさんたちが強調していたもう一つのアドバイスは、アックスや足を水平に揃えることなく、カウンターバランスを効かせて片腕片足に荷重を掛け大きく伸び上がって遠くへアックスを届かせる動きをすること。我々もバーティカルな氷ではダイアゴナルを意識した登り方を心掛けるようにしてはいましたが、特にYunさんの登り方を見ていると横に出した足のかかとを氷に刺すくらいに膝が上がっていて驚きました。上の動画に見られるJeonさんの登り方はそこまで極端ではありませんが、それでも片腕でぶら下がって1-2-3-4と足を上げてから伸び上がる基本シークエンスは一貫しています。この膝を高く上げて安定させる姿勢が、韓国クライマーの特徴的な登り方とされる「N-body」なんでしょうか?

すっかり落ち着いたところで、同じ壁の左寄りのカリフラワーハングを伴うラインを一本。私は弱点を突いてハングを回避しながら上へと抜けましたが、これも後から手本を見せてくれたYunさんは真正面からハングを軽々越えていました。うーん、どうせトップロープなんだからチャレンジングなラインどりをするべきだったか。

ついでメインの氷瀑のラインが一つ空いたという情報が入り、そちらに移動しました。Jeonさんたちの知人が張ったトップロープを使わせてくれることになったようで、高さのある氷瀑のど真ん中のラインを登ることになりました。

いやー、これは高いな。しかし大勢の人が登っているおかげで氷はボコボコに穴が空いており、ほとんど打ち込むことなく引っ掛けだけで登れそうです。

バーティカルなセクションと安心してレストできるテラス状の場所とが交互に訪れる多段滝を気持ちよく登りきり、上から振り返って見下ろすと相当の高度感です。これは楽しい。それにしても驚くのは、こちらでは100mくらいの長さのロープを普通に使うこと(これだけ長いロープでトップロープを引くためにビレイヤーはアッセンダーを使用します)と、ラインの重なりをあまり気にせずに登ることです。時折上から氷塊が落ちるとギャラリーが一斉に「ラクッ!」と叫んで下にいる者に注意を促すのですが、これはほとんどコリアン・ルーレット状態。そんな中、ヨーコさんも安定した登りでこちらの滝の中央を抜けてゆきました。

再び最初の滝に戻って、最後に一本。しかし、この日何人も登っているうちに氷柱の切れ目のところが拡大しており、ここで奮闘しているうちに腕が終わってしまいました。Jeonさんの「無理しないで〜」の声をしおに下ろしてもらうことにし、これでこの日のクライミングは終了です。

この日と翌日の二泊はソウルではなく、江原道の道庁所在地である春川市のゲストハウスに泊まることになっています。華川から南へ1時間弱で着いたゲストハウスの看板には「나비野」と書かれていましたが、これがこの宿の名前なんでしょうか?ちなみに「나비」は韓国語で蝶のことですから、そのまま訳せば「蝶野」ということになるのかも。

車を降りると途端に鼻腔を襲う強烈な堆肥の匂いにJeonさんも「うわっ!田舎の匂い!」と仰天していましたが、宿の作りはどことなくトラディショナルな雰囲気。ヨーコさんと相部屋にした一間は床暖房が効いていてたいへん暖かく、すぐにお湯の出るシャワーもあって快適です。春川市はあの『冬のソナタ』のロケ地として有名ですが、この宿もときどきTV番組の撮影に利用されることがあるらしいことは、ダイニングルームの壁に飾られた写真類が雄弁に物語っていました。

さて、春川市と言えば名物はタッカルビ。しかしそれは翌日に譲ることにして、この日はもう一つの名物であるマッククス(そば粉冷麺)をいただくことになりました。

ボッサム(茹で豚)やチヂミとともにマッコリをいただき、冷麺もおいしくいただいて大満足。これだけ食べて飲んで一人あたり₩13,000というのはかなりのお値打ちです。私の方でまとめて支払おうとしたところJeonさんは割り勘にすると言ってくれたのですが、豈図らんや、同じお店にいたJeonさんの知り合いが先に店を出るときにまとめて払ってくれていたようで(韓国の人たちの横のつながりの親密さを実感)、結局この日のディナーはタダになってしまいました。

宿に戻って、ただちに就寝。明日もがんばろう。