ホロンボ・ハットから下山

2002/01/03

朝、雲海の向こうからオレンジ色の光の帯が何本も宙に伸びていました。雲の加減でそのように見えるのですが、とても幻想的で人知を超えた何かに接したような厳粛な気持ちにさせられる光景でした。

今日も長丁場なので午前6時から朝食をとり、6時45分に出発です。ハットを発つときには既に日は高く登っており、爽やかな空気の中を斜光線の照らしてくる方角に向かって歩き出しました。

歩き出して5分ほどでブライソンが立ち止まり、後ろを指差しました。振り返るとキボ峰が尾根の向こうに頭を覗かせており、その手前の斜面にホロンボ・ハットの建物群が肩を寄せ合うように建ち並んでいます。夢のように美しいその光景をバックに皆それぞれに記念写真を撮り、ハットに最後の別れを告げてさらに道を下りました。

登りのときに昼食休憩をとった中間点まで下り1時間の後、10分間休憩をとってさらに下降。キボ峰は中間点からもよく見えましたが、遠ざかるほどにかえってその姿が大きさを増すように見えるのが不思議です。マンダラ・ハットが近づくと対向者とすれ違うようになり、「ジャンボ!」とか「ハッピー・ニュー・イヤー!」と声を掛けられるようになりましたが、中には「You made it ?」と聞いてくれる登山者もあって、登頂の実感がじわっと湧いてきました。

さらに下ってマンダラ・ハットまであと1時間のところで、道の両側に樹木が生え日陰を作っている場所で2度目の休憩を取りました。私は元来た道を少し戻って、開けたところからキボ峰とマウェンジ峰の姿を飽かず眺めました。この後キボ峰はすぐに雲に隠されてしまったので、これがキリマンジャロの雪を眺めた最後の瞬間となりました。

9時40分、懐かしいマンダラ・ハットに到着しました。長袖シャツを脱いで、ここからはTシャツ1枚に逆戻りです。10分休んで歩き出し、深い樹林帯の中を足早に下っているときにA氏が「下に着いたらプールに飛び込みたいな」と言っていたら、終点間近の沢にかかった橋の左手すぐのところに滝があって、地元の子供たちが岸から5mほどの落差を歓声を上げつつ滝壷に飛び込む光景に出くわして一同大笑いしました。

11時50分、待望のマラング・ゲートに到着です。登りきったという感慨もさることながら、これでもう歩かなくていいと思うとうれしくてたまりません。早川TLとブライソンがレセプションで手続をしている間は、向かいの売店に入って土産物を物色しました。キリマンジャロの地図や写真集、Tシャツ、それに何といっても売れ行きが良かったのはキリマンジャロ・コーヒーの粉のパックで、中には1人で10パック以上も買い占めていく人もいました。その後、2台の車に分乗してカプリコーン・ホテルに移動し、テラスでゆったりと昼食をとりましたが、冷たいビールが身体にしみわたりました。そして、お世話になったブライソンたちとはここでお別れです。本当にありがとう。いつまでも元気で!

デポしてあった荷物を回収し、再び車に乗ってアルーシャ方面へ移動しました。車は1時間ほど走ると幹線から別れて右に曲り、キリマンジャロとメルー山の間を走るオフロードの道を進みます。さらに1時間ほどでアルーシャ国立公園のゲートが現れ、銃を肩から下げた係員に見送られながら車は公園内に入りました。ダートながらよく走り込まれた道をくねくねと進むうちにも、ウォーターバックやらキリンやらが目の前に姿を見せてくれています。やがて、17時すぎに平原の一角に小振りな建物がたくさん並んでいる場所に着きました。ここがアフリカでの最後の宿、モメラ・ロッジです。

A氏と再び同室のコテージに入り、何はさておきシャワーを浴びました。蛇口をひねっても最初は水しか出てこなかったのですが、15分ほども根気よく待っているうちに熱いお湯がたっぷりと出てきて、久しぶりに頭のてっぺんから足の先まで清潔にすることができました。寝床も寝心地のよさそうなベッドで、頭上には蚊帳が丸めて吊るしてあります。A氏と共にコテージのテラスに置かれた椅子に腰掛けて、日本から持参した蚊取線香を焚きながら、A氏はビール、私はコーラで乾杯しました。そのままあたりが暗くなるまで2人で今回の山行のことや過去の旅のことなどをとりとめもなく話しながら、空の青が徐々に深みを増し、やがて夜の黒へと移り変わるさまを眺め続けました。

20時からロッジ内のレストランで遅い夕食となり、そのときに早川TLから登頂証明書を受け取りました。ウフル・ピークへ登った者には金のふち、ギルマンズ・ポイントへ登った者には緑のふちで囲まれた中に、登頂した者の氏名と登頂日、登頂を証明するブライソンの署名などが書き込まれていました。夕食の後、文字通り降るような星空の下をコテージに戻ると若いK氏が我々のコテージに遊びに来てくれて、3人で深夜まであれこれ楽しく話し込みました。こうして心おきなく夜更かしができるのも、本当に久しぶりのことなのでした。

▼この日の行程
06:45 ホロンボ・ハット 3720m
09:40-50 マンダラ・ハット 2700m
11:50 マラング・ゲート 1860m