塾長の渡航記録

塾長の渡航記録

私=juqchoの海外旅行の記録集。遺跡の旅と山の旅、それに諸々の物見遊山。

グローセ・シャイデック〜ブスアルプ

2011/07/19

なんだ、晴れているじゃないか!

どこが雨?というわけでこの日は、バスでグローセ・シャイデックに上がってみることにしました。

バスはグリンデルワルトの街並を抜けて、ヴェッターホルンの岩壁の懐へと向かいます。時折、見通しの悪いところにさしかかるとクラクションを鳴らすのですが、その音が巨大なチャルメラのようでびっくり。

シュレックホルンとヴェッターホルンの間の谷。なんだか凄いところに建物が建っています。

威圧的なヴェッターホルンの岩壁。ただし、ヴェッターホルンの山頂はこの壁の上部ではなく、かなり奥に引っ込んだところにあります。これは隣のシュレックホルンも同様ですが、山頂から伸びてきた岩尾根の末端がすぱっと削り取られた状態だということです。

グローセ・シャイデックに到着しました。ここは峠になっていて、グリンデルワルトの反対側へも緩やかに道が下っていますが、ここからのグリンデルワルト方面の景観は本当に素晴らしいものでした。細く鋭いミッテルレギ稜を見せるアイガー、穏やかな地形のグリンデルワルトの谷、そして遠景にも多くの雪山の連なり。

グリンデルワルトの谷の右側には、フィルスト方面の眺めが続きます。この穏やかな斜面の草原(アルプ)が、かっこうの放牧地を提供しています。

というわけで、アイガー北壁を眺めながら哲学的思索にふけっている(と思われる)牛たち。

左の車道を辿ることもできますが、せっかくなので右のハイキング道へ進みます。道はおおむね等高線に沿った水平なもので、右手の尾根上からところどころに沢が降りてきていました。

この柵は何のため?牛の行動範囲を規制するためなのでしょうか。それとも自転車?

きれいな水が音をたてて流れています。清流、草原、花、岩と雪。素晴らしいロケーションです。付け加えるなら、牛。

のんびり1時間20分ほどの歩きで、フィルストに着きました。ここは、下の町からのロープウェイの終点です。ここまででも気持ちの良いハイキングですが、さらにバッハアルプゼーを経て尾根上の道を長駆シーニゲ・プラッテまで歩けば、かなり充実した山行になります。この日の天気が終日晴れならそこまで足を伸ばしたでしょうが、早晩崩れる予報なのでとりあえずはバッハアルプゼーまで行ってみることにしました。こんなふうに現場の判断でプランを柔軟に変えられる(エスケープできる)のも、このハイキング道の良いところです。

向こうに人が固まっていますが何を見ているのかな?実は、マーモットが姿を見せてくれていたようです。

緩やかに高さを上げていく道の左手には、緑のカーペットに覆われたカール状の柔らかな谷の中に清流が流れていて、放し飼いにされた牛たちの天国になっていました。

途中にはこんな湿地がありました。白く咲いているのはワタスゲ?

フィルストから30分余りで、雲上の湖バッハアルプゼーに着きました。この湖は奥と手前の二つの湖からなっており、周囲には雨をしのげる程度の小屋(複数)とトイレが設置されています。写真ではわかりませんが、奥にはファウルホルン山頂の山小屋が見えていました。

特にこのアングルがすてき。上の湖の向こうにシュレックホルンが見えています。こうして見ると、シュレックホルンはグリンデルワルトの町から見上げる屏風状の姿とは全く印象が異なり、鋭角的な高峰であることがわかります。

そうこうしているうちに右手(西)の方から雲が押し寄せて、あたりはだんだん暗く、寒くなってきています。足を速めなくては。

バッハアルプゼーから息の上がる道を登ることしばし、向こうにファウルホルンが見えてきました。左へと続く道はシーニゲ・プラッテまで続く縦走路ですが、どうやらそこまでは天気がもちそうにありません。この辺りまで進出してきている牛たちに見送られながら、ファウルホルン山頂を目指しました。

ファウルホルンへの最後の登りの途中から見た景観がこちら。茶色の山肌に地層の褶曲の様子がはっきり見てとれて、この地域が激しい造山活動に揉まれた時期があったことが一目瞭然です。

ファウルホルン山上のホテルはヨーロッパ最古の山岳ホテルで、作曲家メンデルスゾーンも滞在したことがあるそうです。他のハイカーは寒さから逃れるようにそそくさとレストラン(左手のドアの中)へ入ってしまいましたが、「なんとかと煙」と同じく高いところへ登りたがる私は、脇目も振らず山頂へと続く奥の階段を登りました。すると、グリンデルワルト方面は雲の中に隠れてしまいましたが、反対側にはインターラーケンをはさむ二つの湖のうちブリエンツ湖が鮮やかな色の湖面を見せていました。

この景色が見られたのはわずか10分ほどで、その後はこの山頂も雲に覆い隠され、展望は失われてしまいました。

下山は元来たフィルストへ戻ってもいいのですが、それも芸がないのでブスアルプへ下ることにしました。

ブスアルプへ下る人はそれほど多くないようで、最初のうちこそちゃんとした道が下っていましたが、徐々に踏み跡が判然としない坂道になっていきました。

とは言うものの、見晴らしは悪くありませんし要所に赤ペンキもあるので、道に迷う心配はありません。

それに彼らがちゃんと見守って(?)くれているので、一人で歩いていても寂しい思いをする気遣いは無用です。それにしても、どうして彼らはこちらをガン見するんでしょうか……。

ブスアルプが見えてきました。地名の通り、この辺りもゆったりとした放牧地になっています。向こうに見えているのはアイガーです。

マーモットもいました!ちょうどイタリア人の中年夫婦が道の向こうからやってきていて、お互いにアイコンタクトをとりながらマーモットを驚かさないよう抜き足差し足で近づきました。

ブスアルプのバス停留所に着いたちょうどその頃から、はっきりした雨になってきました。そこからはバスでグリンデルワルトへ下り、ホテルに戻って自室でワインを飲みながら午後をまったりと過ごします。窓の外は本降り、テレビの中のツール・ド・フランスも強烈な雨の中、明日の天気予報も雨。結局、この日のハイキングがこの旅行の中でのハイライトということになりました。

▲この日の行程。