塾長の渡航記録

塾長の渡航記録

私=juqchoの海外旅行の記録集。遺跡の旅と山の旅、それに諸々の物見遊山。

ブレヴァン「Crakoukass」

2019/08/02

予報通り、この日の天気は曇り気味。いつ降り出してもおかしくない空模様です。

朝9時にホテルのロビーで合流したのは、この日から3日間を担当してくれるイタリア人ガイドのテオです。ネットで検索していて「Les Drus climbing traverse」のプログラムを公開していたExplore-Shareを見つけ、4月に申込みをしたところアサインされたのが彼で、旅の日程が近づいたところでプランを具体化するべくメールをやりとりし、最終的には旅立つ直前に行き先を決めました。その最終調整の中で彼曰く、この15年間ガイドの仕事をしているがこれほど暑い日が続いたのは2003年以来で、随所で落石が発生しているし先週はマッターホルンで死者も出たくらいだからドリュは危険。for your safety and my safety I prefer to change the planning and so I suggest different options……ということでスポートからクラシックまでいくつかの案を提示してくれており、ドリュに向かうべきではないという彼のプロとしての判断を尊重した上で私がチョイスしたのは初日がブレヴァン周辺、2日目と3日目がモン・ブラン山群のイタリア側でのマルチピッチです。

ゴンドラで上がったプランプラは、ご覧の通りのガスの中。しかし、ここまで上がってみると上空には青空が覗いていました。そして、この日登るルートは昨日その麓を通った「Clocher du Brévent」を越えていくマルチピッチルート「Crakoukass」です。

こちらは2016年6月にロープウェイから見たルートの様子。そのときはセキネくんが先陣を切って取り付いたものの、1ピッチ目をセキネくんが登ったところで雨が降り出したためにあえなく退却となりました。今回はいわばそのリベンジです。

この日も怪しげな天気ではありますが、運を天に任せるしかないだろうということで登攀を開始しました。

1ピッチ目、先行パーティーが右側のすっきりした壁を登っていましたが、我々はリッジの左側の易しいラインを採用しました。

2ピッチ目、出だしがちょっと細かいものの後は容易。

3ピッチ目、ディエードルをダイナミックに登るラインで気分爽快です。先行パーティーがここで我々を先に行かせてくれました。Merci beaucoup!

4ピッチ目の途中から振り返ると、後続(になった)パーティーのトップがピナクルの上に。ここに登るのであればピナクルの基部でピッチを切るようですが、我々はその右側にあるクラックを抜けたのであのピナクルには乗っておらず、そのためトポよりピッチ数が少なくなっています。

4ピッチ目も容易ですが、その向こうにこのルートのハイライトとなるClocherが突き立っています。

5ピッチ目のClocherへの直登は、トポでは「6b」または「A0」となっていますが、確かに別格の難しさでした。薄いフレークを使って身体を右に振り込みながら登るのだということはわかりますが、特に出だしで足の置き場を見つけるのが難しく、あれこれ試しているうちにバランスを崩してぶら下がってしまいました。

半ば引っ張り上げられるようにClocherの上に立ったあとの6ピッチ目は頂稜上の短い歩きで、その後に20mの懸垂下降となります。

懸垂下降の際に、バックアップとして私はダブルフィッシャーマンで輪にした7mmスリングによるマッシャーを使っているのですが、ここでテオからもらったアドバイスによれば、スリングをハーネスにつけたカラビナに単にかけるのではなくスリングの結び目のところがカラビナの位置で固定されるようにインクノットで止めた方が良く、そのためにはマッシャー用スリングはもう少し長い方が良いとのこと。なるほど……。

緩傾斜帯を歩いていく先に並ぶ、右と左のジャンダルム。このようにルートの途中で歩きが入るのは隣の「La Somone」と共通する特性です。

7-8ピッチ目は右ジャンダルムを登りますが、見るからにフレンドリー。グレードを聞いてみたところ「どちらも5a」とのことなので、志願してリードさせてもらいました。取り付いてみれば見た目通りにホールド豊富、しかし見た目以上に長さがあり、7ピッチ目は途中でクイックドローが足りなくなってランナウトすることになりました。

易しくても、眼下遥かにシャモニーの町を見下ろすこの高度感は気持ちの良いものです。

右ジャンダルムの上に立ったら、左ジャンダルムの方向へ少し歩いて、両ジャンダルムの間の凹角をクライムダウンします。

9ピッチ目は美しく立った垂壁で、ここは再びテオがリード。下部は細かいながら豊富なホールドを拾いつつ高さを稼ぎ、中間部ではダブルクラックにジャミングを効かせ、最後は立体的な岩をぐいぐいと登る変化に富んだピッチで、テオも「このピッチがルート中で一番面白い」と語っていました。

終了点にあたる左ジャンダルムの上からクラッグスまでは歩いて降りることができ、そこからブレヴァンの上まで登り返して帰路に就きました。

クライミング初日としては幸先の良いスタートを切ることができ、テオのホスピタリティも文句なしで、明日以降のイタリアでの2日間が楽しみになってきました。