塾長の渡航記録

塾長の渡航記録

私=juqchoの海外旅行の記録集。遺跡の旅と山の旅、それに諸々の物見遊山。

ミディ〜プラン縦走(復路)

2015/08/06

寒さと寝床の硬さとで少々辛い夜になりましたが、幸いにして雨も雪も、そして風もない穏やかな夜でした。時折目を覚まして空を見上げると満天の星がきれいで、そこで時計を見ると思ったよりも速く時間が進んでいることに励まされながら、ひたすら朝を待ちました。

5時すぎ、ジョラスの左に朝の気配。

6時前、雲は多いものの明るくなってきました。

さあ、帰ろう。一夜の宿を借りた岩棚に別れを告げて、再び雪の斜面に取り付きます。

ロニヨンの登り返しは、上の写真の中央に見えている斜めの急なスロープから。

1ピッチ目はスロープ右端のクラックを使って登ります。体感IV+(日本のアルパイングレード)くらいかと思いますが、最上部のリードはリュックサックを背負ってでは少し厳しかったため空身になりました(フォローの私は荷を担いだまま)。登り着いたところは前日に現場監督氏が達したバンドの先で、そこを逆に進んで前日の2度目の懸垂下降支点の手間の岩の割れ目から2ピッチ目(これもIV+)を登ると、ロニヨンの頂稜に辿り着きます。

この登り返しを無事にこなせて少し安心しましたが、次に待っているのはあの絶望的な垂壁です。

ところがその「絶望的な垂壁」の足元から左下へ、雪の上に足跡がついていました。ここは左から巻けるのか!なるほど、あの「なぜそこにあるのかわからない残置支点」はそちらへ懸垂下降するための支点だったわけです。少なくとも技術的な核心部はこれでなくなりました。

ガレた広いルンゼを慎重に下って安定したリッジに出たところで水と行動食を補給。もう急ぐ必要はありませんが、急ぐ体力も残っていません。

氷の壁は再び私のリード。今回はトラバース後にクライムダウンとなるため、トラバースの途中で1本、さらに下降の途中でもう1本スクリューを用います。それにしても氷は相変わらず硬く、アイゼンの前爪を効かせるためには爪先の痛みに耐えながら何度も蹴り込まなければなりませんでした(それが原因で足を傷めることになりました)。

氷のパートを終えれば易しい岩場のトラバースで最低鞍部に出るはずでしたが、ここでも踏み跡を見失い右往左往することになってしまいました。しかし、乏しい勘を働かせながら岩場の先から右下へ急な細い雪のルンゼをクライムダウンしたところ、昨日渡った「最初の凍った雪」の途中に降り立つことができ、どうにかこれで道迷いの心配もなくなりました。III級程度の岩場を登り返し、往路で後ろ向きに下った氷のリッジを前爪を効かせながら登りきれば、後は穏やかな雪稜がミディへと続くばかりです。

ただいま。

途中でルートに迷ったこととシャリバテになったこととで、ロニヨンの下からミディまで8時間もかかってしまいました。テラスに戻ってギアを全てリュックサックに収納し、観光客に混じってロープウェイで下る途中、ロープウェイの窓からはやはりすぐそこにプランの山頂が見えています。やれやれ、あんなに近いのに往復で2日もかけてしまったとは不覚……。

ともあれ、下界に降りてすぐ近くのレストランで無事生還の祝杯をあげました。ビールも旨かったしピザも美味。しばし開放感に浸りましたが、実はロープウェイに乗っているときから左足の親指に「靴下に穴があいているような感覚」がまとわりついています。そこで食事を終えてホテルに戻り、シャワーを浴びてさっぱりしてからじっくり観察してみると、親指は腫れ上がって内出血していました。どうやらアイゼンの前爪を氷に打ち付けているうちに突き指をしてしまったようですが、これには愕然としました。まだ旅の前半だと言うのに早くも負傷?このまま後半のクライミングができなくなったらどうしよう……。

▲この日の行程。