遡行

人は、新しい音楽とどのようにして出会うのでしょうか?私の場合、もうまっさらなところから新しい才能を見つけ出す機会というのはそうそうなくて、せいぜいrobin☆さんたちのDJイベント「Shining Star」などで「おっ、これいいんじゃない?」と思えたものを試しに取り寄せてみる程度。それよりもここしばらくの自分の探し方は、長らくファンをやっているミュージシャンのキャリアを逆に遡る聞き方です。この場合、YouTubeはかなりの力を発揮してくれて、次の映像もそうして見つけたうちのひとつ。

いきなりJohn Wettonの手元のアップから始まる映像は、Familyの「Spanish Tide」(1971年)です。看板ヴォーカリストRoger Chapman(Mike Oldfieldの「Shadow on the Wall」でも有名)と共にJohnもヴォーカルをとっていることに驚きますが、この映像は恐らくJohnがまだ22歳くらいの頃のもの。先日のU.K.でのステージ姿(御年61歳)と比べれば、当然ながら非常に若いですな。ともあれ、この映像を見て「おっ、Familyもいいんじゃない?」と思った私ですが、そうとなればこの際彼のKing Crimson以前の作品を集めてみるか、とディスコグラフィーをWikipediaでチェックしてみました。

  • With Mogul Thrash
    • Mogul Thrash, 1971
  • With Gordon Haskell
    • It Is and It Isn’t, 1971
  • With Family
    • Fearless, 1971
    • Bandstand, 1972
  • With Larry Norman
    • Only Visiting This Planet, 1972
  • With Malcolm and Alwyn
    • Fool’s Wisdom, 1973
  • With Peter Banks
    • Two Sides of Peter Banks, 1973

これら7作品のうちGordon Haskellの『It Is and It Isn’t』は既に持っており、またMalcom and Alwynはアルバムとしては入手できなかったのですが、その他の作品をゲットすることができました。その中でも一番の収穫は、John Wettonのディスコグラフィーのトップに位置する『Mogul Thrash』です。

いやー、これはびっくりです。もうほとんど全編ベース弾きまくり、とてもこれがデビューしたてのベーシストとは思えません。このMogul Thrashは、Jon HisemanのColosseumに参加していたギタリストJames Litherlandが結成した、ブラスセクションを持つギターロックといった感じのバンドなのですが、そのギターソロの後ろでギター以上の手数を見せるベースに耳が釘付け。

CD化に際してベースを強調するリミックスがされているのではないかという気もしますが、とにかく楽曲の調和を無視してひたすら歌いまくりのベースは、ある意味感動的ですらあります。おまけに一曲、John Wettonがリードヴォーカルをとっている曲もあるのですが、これはクレジットに彼の名前があるところからすると、彼がこのバンドに持ち込んだマテリアルであるようです。

念のために言うと、このアルバムはJohn Wettonへの興味だけに尽きる作品ではなく、それ自体十分に鑑賞に耐えうる聞き応えのある作品に仕上がっており、このバンドがこの一枚で終わってしまったのが不思議なくらいですが、「ベースを抱いた渡り鳥」ことJohn Wettonの次なる営巣地は、Familyとなります。

Peter Gabrielにも影響を与えたという独特のヴォーカルスタイルを持つRoger Chapmanのカリスマ性とFamilyのカラフルでいてしかし比較的落ち着いた音楽性のゆえに、ここでのJohn Wettonのベースは抑制をきかせツボを押さえたものになっていますが、それでも曲によっては(「Take Your Partners」「Bolero Babe」など)自在に弾きこなしているものもありますし、随所に聞かれる細かい装飾音やセンスのいい経過音は後のKing Crimsonでの彼を彷彿とさせるもの。それ以上に、Familyというバンド自体がかなりクセになりそうな魅力を持っていて、これはフェイバリットバンドのひとつになりそうな予感がします。

続いて、こちら。

Larry Normanというのは今まで私は知らなかったのですが、調べてみるとクリスチャン・ミュージック(というジャンルがあること自体初めて知りました)の世界では著名なシンガーで、”Father of Christian rock music”とか “Godfather of gospel rock”、”Christianity’s first rock star”などと呼ばれているそうです。100枚以上にわたる彼の作品の中でも、1972年にロンドンでレコーディングされたこの『Only Visiting This Planet』は彼の傑作のひとつに数えられるそうですが、このアルバムでベースを勤めたのがJohn Wetton。アメリカ人のLarry Normanがロンドンで録音するに際してロンドン側でミュージシャンをセレクトした誰かがJohn Wettonを推したのでしょうが、Larry Normanがもし『Mogul Thrash』を聴いていたらJohn Wettonを選んだかどうか疑問。とはいえ、このアルバムに収められているフォーク調からロックンロールまでの多彩なスタイルの音楽の中で、特にアップテンポの曲ではJohn Wettonらしい太いベースを聞くこともできます。また、John Wettonは常々自分の音楽的ルーツのひとつに教会音楽があると言っていますし、入手することができなかったMalcolm and Alwynも宗教的テーマの歌詞をビートに乗せるタイプの音楽だそうですから、John Wettonとキリスト教関係の音楽界との間に何らかのコネクションがあったのかもしれません。

最後は、これです。

Yesのデビュー時のギタリストであるPeter Banksのソロ作品がこの『Two Sides of Peter Banks』ですが、豈図らんや、John Wettonが参加している曲は1曲(2分12秒)だけ。ただし緊迫感に満ちたリフの繰り返しが印象的なこの曲、ドラムはGenesisのPhil CollinsだしギターはSteve Hackettだし(Peter Banksはシンセサイザーで目立っています)と侮れません。アルバム自体は、Peter Banksが主にFocusのJan Akkermanと組み、その他ゲストミュージシャンを集めて組み上げたインストゥルメンタル作品となっていて、エレクトリックもアコースティックも巧みに弾きこなすPeter BanksがYesと袂を分かった理由も垣間見えるような独特のテイストが感じられます。しかし……なんなんだ?このカントリー調の最後の曲のエンディングのおちゃらけは!

というわけで当たりもあればハズレもありましたが、概ね打率の良い新譜(?)探しになりました。