起用

思うところあって、Downes-Payne体制のAsiaが2001年にリリースした『Aura』を聴いてみました。

冒頭の「Awake」。オマル・ハイヤームの「ルバイヤート」に題材をとり、The journey will be over, Awake!と歌い上げるこの曲は本当に素晴らしい!ゆったりしたリズムに乗った輝かしいシンセアルペジオの後ろで空間系の全音符が作るコードの流れが優しく、このイントロだけで十分に惹き付けられます。『Aqua』を聴いたときにも感じたことがですが、Geoff DownesのKORGシンセサイザーを使った音づくりの美しさはJohn Wetton時代とは明らかに一線を画しています。そしてJohn Payneのヴォーカルが入ってくるとシンセの白玉と控え目だが効果的なリズムギターが絶妙に絡み、中間部の穏やかなシンセソロでは最初の上行する3音にピアノをもってきて場面転換を印象づける巧みなアレンジも見せて、Downesの音楽センスを存分に認識させてくれます。

このアルバムは参加ミュージシャンも素晴らしく、DownesとPayne以外のパートは曲ごとに異なっており、たとえばギタリストではSteve Howe 、Elliot Randall、Pat Thrall、Ian Crichton (Saga!)、Guthrie Govan。ベースでは1曲だけですがあのTony Levin。ドラムもSimon Phillips やVinnie Colaiuta、Michael Sturgis、パーカッションにLuis Jardimといったラインナップ。こうしたメンバーが惜しげもなく投入されて、実に見事な大人のロックを展開しています。

……ん?「大人のロック」ということは、AOR?もしかして『Aura』ではなくて『AORa』だったか?

いや実際のところ、冒頭の「Awake」こそ興奮したのですが、以下全編を通じてたいへん落ち着いた演奏が展開し、John Payneの思い入れたっぷりの歌い方もまさにAORシンガーのそれ。凄腕のミュージシャンがインタープレイで火花を散らすスリリングな展開、といったものとは無縁の世界。もちろんそれぞれのゲストは持ち場でさすがのプレイをしており、たとえば3曲目「The Last Time」でのVinnie Colaiutaのドラミングは一聴の価値があるし、Steve HoweとIan Crichtonとがそれぞれの個性を発揮しているのも聞き逃せません。しかし「Ready To Go Home」などを聴くと、確かに朗々とした素晴らしいバラードだとは思うものの、そこにTony Levinを起用する必然性が感じられません。もっとも、それは曲に対してプラスに作用できなかったTonyの側の問題なのかもしれませんが。同じバラードなら7曲目「On the Coldest Day In Hell」の胸を締め付けられるようなアレンジの方がよく(ベースはPayne自身と思われます)、歌詞もJohn Wettonのソロに出てきそうな内容ですが、Payneのヴォーカルの方がはるかに味わい深いものがあります。ロックテイストという点ではSimon Phillipsの激しいドラミングの上でSteve Howe 、Pat Thrall、Ian Crichtonの三人のギタリストが競演する「Free」が聴きどころになるはずですが、残念ながら8分を超える曲の長さのわりに持ち込まれているアイデアが少なく、単調な印象。これがYesだったら、たった3つのモチーフで20分くらいの曲に仕立てることだって雑作もなかったでしょうに。

などなどシビアなことも書いてきましたが、Asiaというバンド名が引きずる大艦巨砲主義的呪縛を離れて素直に向き合って聴けば、全体としてはとても安心感のあるアルバムだと思います。それにしても、これだけのミュージシャンを集め、ジャケットのイラストにはRoger Deanを起用しているのですから、相当な制作費がかかっているはず。このアルバムのセールスはどうだったのだろうか?と今さらながら心配にもなってしまいました。

ジャケットと言えば、本来のデザインは左の写真のもののようなのですが、Amazonから送られてきたCDのそれは右の暗〜いブルー。この色遣いでは絶対買う気になれないので色違いのヴァリエーションというより印刷工程でのミスプリンティングだと思いますが、マーケットプレイスではなく普通に買ったつもりなのにこういうのが送られてきたのが不思議。Amazonよ、なぜだ?