攀譜

この日は、珍しく横浜へ。

この日は朝方に雨が降ったものの、午後はいい天気になりました。向かった先は赤レンガ倉庫。倉庫と言ってもそれは過去の用途の話で、今は二棟あるうちの一棟は文化施設、もう一棟は商業施設として再生され、多くの観光客を集めています。

この日ここにやってきたのは、世界中を巡回しているアウトドアスポーツ映像の祭典「Banff Mountain Film Festival World Tour 2016」を観るためでした。

メインのスポンサーはパタゴニアなので、パタゴニアのカタログや商品の展示が目立ちましたが、気になるのは当然、アルパインクライミング用のレイヤリングシステムとして話題の「ハイ・アルパイン・キット」です。

しかし、パタゴニアが同時に「パタゴニア・プロビジョンズ」というブランドを立ち上げてフード・プロダクトの方にも手を広げていたとは知りませんでした。

さて本題の「Banff Mountain Film Festival World Tour 2016」は今年で41年目ですが、足を運んだのは今回が初めて。それと言うのも、プログラムBに含まれているトミー・コールドウェルとアレックス・ホノルドのフィッツ・トラバースをどうしても観たかったからです。この歴史的な縦走の記録を含むプログラムBに含まれる以下の作品(上映順)は、いずれも興味深く、映像の美しさとスポーツの高揚感を存分に味わうことができました。ただし、本職の映画監督が制作した作品というわけでもないので、いろいろとツッコミどころ満載です。そこが「自分にもできる」的な興味をかきたてるのかも知れませんが。

55Hours in Mexico
タイムリミットは55時間。サラリーマンの週末は限られている。金曜日に飛び立ち、月曜日の朝には会社の机に戻る。週末を余すところなく楽しむための計画を立てた四人の仲間。北米で3番目に高いメキシコのオリサバへ行き、スキーを楽しみ戻ってくる。全力で遊び倒す。たまにはこんな週末もいいのではないだろうか。
アメリカからメキシコのオリサバ(5,636m)への週末登山。この高度での弾丸登山らしく、主人公が高度障害にへろへろになりながらも顕著な噴火口を持つ山頂を踏み、スキーで豪快に滑降する様子が描かれて爽やかです。ただ、時間勝負の計画でありながら、車の手配にもたついたり空港から山小屋への地図を持っていなかったりと行き当たりばったりな要素もあって、なんだか微妙。日本人だったらこんなラフなプランニングはしないぞ。
Climbing Ice: The Iceland Trifecta
フォトグラファーのティム・ケンプルとアイスクライマーのクレメン・ブレムルとラヘル・シェルプが、新たな氷壁を求めて、アイスランドのヴァトナヨークル氷河へ遠征する。地球上とは思えないような壮大な大地に広がる氷の異世界。二度と同じ表情の氷に出会うことはないこの美しい世界に魅了された三人が、冒険を繰り広げる。
アイスランドの圧倒的な自然の中でのアイスクライミング。氷河に空いた巨大な縦穴を登ったり氷河の中の氷のトンネルでルーフクライミングを楽しんだり安定性に不安のある氷山を登ったり。映像は文句なしに美しいものの、撮影者自身を主人公とする構成がやや疑問。あくまでクライマーと自然との交歓に集中してほしかった気がします。
Balloonskiing – Heimschnee
バルーンスキーイングという言葉を聞いたことがあるだろうか。熱気球で山頂まで行き、パウダースノーを楽しみながら滑り降りてくる、全く新しい試みだ。ゴンドラやヘリコプターなどではなく、風などの自然環境に左右されやすい熱気球を利用するというのだ。気の合う仲間が気球に乗り込み、パウダースノーを求めて飛んでいく。彼らの笑顔がその楽しさを物語っている。
コンセプトはわかりますが、スキーヤーが自ら熱気球を操っているわけではないので、ヘリコプターを使わず熱気球を使うことにどれほどの意義があるのか説明しきれていない気がします。しかし、熱気球のゴンドラから垂らされたロープにぶら下がってゴンドラを着地させずに滑走開始ポイントに懸垂下降する様子はスリリング。
The Rocky Mountains Traverse
ウィル・ガッドとギャビン・マクラーグはパラグライダーの新たなスタイルを模索していた。そして考えたのが、カナダからアメリカ国境へとつながるロッキー山脈を横断するという冒険だ。とにかく空を前に飛ぶというシンプルなルールのもと、人よりも熊の方が多く生息するロッキーのフィールドを横断していく。35日間に及ぶ美しくも過酷な空の旅。しかし、2人の目は喜びに満ちていた。
上記の解説では「横断」と訳していますが、実際は「縦走」というのが正しい。風の状態を読みながら飛び立ち、着地し、キャンプすることを繰り返して北から南へとロッキーを下ってゆく二人のパラグライダーとロッキーの山並みの映像はすばらしい迫力。長尺の作品でしたが、飽きさせませんでした。ただ、映像はサポートの存在を示唆してはいませんでしたが、本当に35日分の食料を最初から持参したのか?水の補給はどうしたのか?など、冷静に考えてみると疑問がなきにしもあらず。
unReal
誰にも邪魔されることなく無心でフィールドを駆け巡るマウンテンバイク軽快な音楽がその楽しさを表現している。そして、その場にいると錯覚するほどの圧倒的な映像技術が、見るものをそのフィールドへ引きずり込んでいく。いつまでも覚めてほしくない夢のように魅力的な世界。あなたの望む完璧なフォールドはどんなフィールドですか?
マウンテンバイクの妙技の数々をドローンによる空撮や高速度撮影でダイナミックに表現した作品。残念ながらバイクに興味がないので、これといった感動を得ることはできませんでした。
The Important Places
フォレスト・ウッドワードは偉大なフォトグラファーだ。そして、彼の父、ダグ・ウッドワードは、グランドキャニオンのコロラド川をカヤックとラフティングで冒険したパイオニア的な存在だ。そんな父も歳を取り急速に老いを見せている。そこでフォレストは、かつて父が冒険した道筋を一緒にたどる旅を計画した。父と息子の絆を描いたフィルム。
感動的なコンセプトですが、父・ダグのラフティングのゴールを描いていないので、なにやら中途半端な印象。このように素材だけで勝負していて構成が甘い作品が、今回の出展作品の中には目立つような気がします。
REEL ROCK 10: A Line Across the Sky
フィッツ・トラバースという挑戦は多くのクライマーが挑んだがいまだに成功したものはいない。長らくクライマーの脳裏に刻まれている挑戦の一つだ。セロ・フィッツロイとその6つのピークを結ぶルートは4マイルと13000フィート。その道のりは雪と氷に覆われた岩が果てしなく続いている。この不可能とも言われたルートにトミー・コールドウェルとアレックス・ホノルドが挑戦する。
40分間の今回最長の作品ですが、期待を上回る内容で大満足でした。フリークライミングの領域で傑出した成果をあげてきた二人が、並みいるアルパインクライマーたちを差しおいて成し遂げたパタゴニア究極の課題であるフィッツ・トラバース(2015年ピオレ・ドール受賞)の記録。もちろん岩のセクションでは二人ともその能力をいかんなく発揮するものの、雪山登山の経験がないアレックスがアイゼンの選択を誤ったり、不慣れた寒気に苦しめられたり、何ピッチにもわたる懸垂下降の途中でスタックしたロープを半分に切らなければならなくなったりといったアクシデントにも見舞われながら、着実に前進してゆく様子を丹念に描きます。そして何といっても、フィッツロイを始めとするパタゴニアの山々の姿が圧倒的(ちなみにセロ・トーレは縦走ライン上にはありません)。

見終えてみれば最後のフィッツ・トラバースの記録がやはり圧巻で、横浜まで足を運んだ甲斐がありました。山屋であれば、これを見逃す手はないでしょう。