復活

ある程度の期間音楽を聴いてくると、誰しも長年のつきあいになるミュージシャン / バンドの一つや二つはできるもので、それは良く言えば「お気に入り」、悪く言えば「腐れ縁」ということになるわけですが、私の場合はRushがそれに当たります。

最新作『Vapor Trails』はスタジオ盤としては『Test For Echo』以来6年振りで、なぜそんなに間が開いたのかと言えば、バンドのドラマーで作詞家でもあるNeil Peartが相次ぐ家族の不幸(1997年に娘さんを交通事故で亡くし、さらに翌年には奥さんをガンで失う)から立ち直るための時間が必要だったからにほかなりません。しかし「可哀想なNeil……」などと思いながらこのCDをかけると、のっけから強烈なツーバス連打のドラムのフレーズにぶっ飛ばされてしまうから油断がなりません。全体にドラムの定位はかなり前に来ていてこもり気味のバスドラの音量が今までになく大きく、ほとんどタムを使わずにシンバル・ハイハット・スネアで空間を埋め尽すように強引に押してくるスタイルも彼らしからぬものですが、随所に見られるスピード感あふれるプレイはNeil復活を十分に印象づけてくれました。

Rushは既に30年にもなる彼等のキャリアの中で何度も作風を変化させてきており、今作はその中でも最もヘヴィな部類に入るかもしれません(音楽的にも、リスナーにとっても)。とうとうシンセサイザーを弾かなくなったGeddy Lee(B,Vo)、何重にも分厚くギターを重ねてサウンドメイクしながら最後までソロをとらないAlex Lifeson(G)。私がこのバンドにはまった頃の彼等のスタイルは、華麗な高速タム回しに代表される極端に手数の多いNeilのドラム、存在感のあるメカニカルなベース・リフを繰り出しながらキーボードとヴォーカルも兼務するGeddyのマルチプレイ、白玉系のバッキングにスペイシーなソロが美しいAlexのギター、そしてそれらが織りなす複雑な変拍子とポップなメロディラインの共存といったところで、最新作で表現されている音世界とは対極にあるかのよう。しかも、その多彩な音を紡ぎ出していた頃の方が3ピース・バンドとしてのステージ上での再現性を強く意識したライブ映えのする楽曲ばかりであったのに対して、『Vapor Trails』はギターはもちろんベースさえもオーバーダブされていて一種オーバー・プロデュースの感すらあります。

それでも『Permanent Waves』(1979年)以来一貫してRushファンを自認している私としては、1984年に武道館で体験した彼等の最初で最後の来日から18年間待ち続けている再来日を、今回も半ば諦めつつも期待せずにはいられません。こちらからカナダまで飛ぶのが本当のファン、という気もしないではないのですが……。