二指

渋谷のDJバーEdgeEndで、DJイベント「眩惑の3人が残った」。前回から一年振りのこのイベントの訳のわからないネーミングは、今月上旬のSteve Hackett来日に引っ掛けて、Genesisのアルバムの中から『The Lamb Lies Down on Broadway』(邦題『眩惑のブロードウェイ』)と『…And Then There Were Three…』(邦題『そして3人が残った』)をミックスしたものですが、仕掛けとしては三人のDJによる6つのパートを通じて『The Lamb Lies Down on Broadway』の曲を6曲、アルバムの曲順に掛けるという約束事を設けていました。

その「3人のDJ」ですが、昨年もこのイベントに参加し、今年5月の打合せにも参加していたrobin☆氏が足首を骨折してしまい、一時は延期か中止かということになりかけたのですが、robin☆氏自身の希望もあって代役を立てることになり、Hatchさんからのつながりでkayakerさんがブースに立って下さることになりました。

Hatchさんとkayakerさんは実にスタイリッシュな曲をかけて下さいましたが、いかんせんお客が来ない……。いったいこのイベントはどうなってしまうのだろう、と不安な気持を抱えたまま、私の1stセットになりました。コンセプトは、いろんな意味でのGenesisつながりです。以下、「曲名 / ミュージシャン名 / アルバムタイトル」の順です。

Watcher of the Skies / Genesis / “Foxtrot” (1972年)
プログレッシヴなGenesisの名曲として人気の高いこの曲からスタート。上述のSteve Hackettのライブでも最初に演奏されましたが、荘厳なメロトロンによるイントロから、いったん音量が落ちた後にフェードインしてくる怒濤のシンコペーションリズムは圧倒的で、特に終盤のピアニシモの後にやってくるフォルテシモの「ダダダダッダッダッダッダ・ダダダダッダッダッダダッ・ダダダッダダダッ」はリズムパターンを覚えるのが大変。しかも、F#からG#に上がった後は、一番目立つキーボードが6/4拍子なのにベースとドラムはこの「3/4+3/4+2/4」を繰返して行くという仕掛けがあるので、「2/4」の場所に入るドラムのフィルをしっかり耳に捉えないと空中分解必至です。
Spanish Tide / Family / “Fearless” (1971年)
FamilyのRoger Chapmanは、その独特のヴォーカルスタイルがPeter Gabrielに影響を与えたとも言われる人物です。そしてこの「Spanish Tide」では、あのJohn Wettonもダブルネックのベース / ギターを抱えてRogerと共にツインヴォーカルを披露しているのが売り。GenesisのMike Rutherfordもダブルネックのベース / ギターを駆使することで有名ですが、もしやこの頃は、そういうのが流行だったのでしょうか?
Black Market / Weather Report / “Black Market” (1976年)
なぜにWeather Report?しかもどうせ「Black Market」をかけるなら、『8:30』でのJaco Pastoriousの演奏をセレクトすべきではないのか?という疑問が湧くところですが、このアルバムのポイントは、ドラムがChester Thompsonであるという点にあります。ご承知のように、Peter GabrielがGenesisから脱退した後、ドラマーのPhil Collinsがヴォーカリストとしてフロントに立つことになったため、ツアーではサポートドラマーを用意する必要が生じたのですが、そのサポートメンバーとして不動の地位を築いたのが、Zappaスクール出身でもあるこのChester Thompsonです。ちなみにアルバム『Black Market』でベースを弾いているのはAlphonso Johnsonですが、彼もSteve HackettがGenesisを脱退した後にGenesisのオーディションを受けたそう。ただ、ベース寄りではなくギター寄りの人材が必要とされていたため、参加はかなわなかったようです。
Feels Good To Me / Bill Bruford / “Feels Good To Me” (1978年)
上述のChester Thompsonの前に、最初にツアーでのサポートドラマーとなったのは、YesやKing Crimsonでの活動で名高いBill Brufordでした。このアルバムは彼のソロアルバムで、時期としてはU.K.としての活動を開始する直前にあたり、キーボードのDave Stewart、ギターのAllan Holdsworth、ベースのJeff Berlinとは、U.K.分裂後に彼のパーマネントバンドであるBrufordを結成することになります。タイトルナンバーのこの曲は、明るいメロディと引き締まったリズムが格好よく、一度聴いたら忘れられません。
The Court of the Crimson King / King Crimson / “In the Court of the Crimson King” (1969年)
プログレファンなら知らない者のない『宮殿』のタイトルナンバー。なぜここで出てくるかといえば、GenesisのTony Banksが使用したメロトロンは、King Crimsonから譲り受けたものだという話があるからです。ということは、この曲で聴かれる雄大なメロトロンが、そのまま「Watcher of the Skies」に使用されたのでしょうか?ま、そういうトリビア的な話を抜きにしても、この曲はプログレの金字塔としてかける価値があるのですが。
Fylingdale Flyer / Jethro Tull / “A” (1980年)
ちょっとこじつけが苦しくなってきましたが、これはフルートつながりで選んだ曲です。Jethro TullのIan Andersonはフラミンゴ奏法と呼ばれる片足立ちでのフルートがトレードマークですが、この曲でも(片足立ちではないとは思いますが)鋭いフルートが曲に絡んできます。なお、いかにもプログレッシヴなキーボードで曲の骨格を作っているのはもちろん、あのEddie Jobsonです。
Enigmatic Ocean, Part ll / Jean-Luc Ponty / “Enigmatic Ocean” (1977年)
フュージョンヴァイオリニストとして名高いJean-Luc Pontyの、とてもスピーディーでスリリングな曲。この曲はアルバムに参加したメンバーの挨拶替わりのソロの応酬で構成されていて、エレクトリックヴァイオリン、シンセサイザー、そして2台のギターが次々に技を繰り出してきます。ギタリストの一人はAllan Holdsworth、そしてもう一人がGenesisのツアーをChester Thompsonと共に長年にわたって支え続けたDaryl Stuermerです。
Counting Out Time / Genesis / “The Lamb Lies Down on Broadway” (1974年)
今回のイベントのお題である『The Lamb Lies Down on Broadway』から、明るいポップ調の「Counting Out Time」。なお、Hatchさんは「The Lamb Lies Down on Broadway」、kayakerさんは「In the Cage」でした。この曲のベースは高音を活かしたよく動くタイプのもので、楽譜があれば弾いてみたいものです。
Time / Pink Floyd / “The Dark Side of the Moon” (1973年)
1stセットの最後は、Genesisとは何のつながりもない「Time」。この曲に入る前後にHatchさんの同僚たちが大挙してやってきてくれて、どうにかイベントとしての格好がつき始めました。やれやれ、助かった。

2ndセットは、Hatchさんはノンジャンルのアゲアゲ。

そして、kayakerさんは孤高のカンタベリー系、私はポップなGenesisを中心に。

Overture 1928 / Dream Theater / “Metropolis Part II : Scenes from a Memory” (1999年)
Dream Theaterのコンセプトアルバム『Scenes from a Memory』の序曲。めくるめくようなリズムとメロディの交錯が圧倒的なこの曲は聴衆の琴線にヒットしたようで、何人かのリスナーがブースに近づいてジャケットを確認していました。特に、鍵盤上を縦横無尽に駆け回るJordan Rudessのシンセソロとツーバスの利点を極限まで活かしたMike Portnoyのドラミングは、理屈抜きで「これは凄い!」と思ってもらえたことでしょう。
Invisible Touch / Genesis / “Invisible Touch” (1986年)
Phil Collinsを中心にポップバンドと化したGenesisのある意味代表作からタイトルチューン。当時のテクノロジーを最大限に活用した完成度の高いこのアルバムは、かなり売れました。ただ、中間部のサウンドコラージュのようなキーボードパートをライブではサンプラーEmulator IIの鍵盤を押すだけで再現しているという話をTony Banksのインタビューで知って、ミュージシャンらしからぬその安易な解決法にがっかりしたのを覚えています。
Grand Designs / Rush / “Power Windows” (1985年)
塾長と言えばRush。今回は名盤『Power Windows』の2曲目に置かれた「Grand Designs」を採り上げました。明るいコード進行と浮き立つようなリズム、それに中間部でのメロディアスなベースソロが魅力的な曲で、この曲でベース演奏をかぶせましたが、自分としてはそれなりにうまく弾けたような気がします。ただ、やはり緊張していたのか右手も左手にもがちがちに力が入っているのが自分でもわかり、このまま最後まで弾ききれるだろうか?と不安になりながらの演奏でした。
You Can’t Hurry Love / Phil Collins / “Hello, I Must Be Going!” (1980年)
ポップGenesisの牽引車、Phil Collinsのソロ曲。選曲の段階で「Against All Odds」にするかこの曲にするかちょっと悩みましたが、曲の流れからいってこっちだろうとアップテンポな「You Can’t Hurry Love」を選びました。スーツ姿をばっちり決めてフロントで歌うPhil Collinsと、そのバックでコーラスを担当する二人のPhil Collins(一人はサングラス姿)が声を合わせるユーモラスなPVを覚えている人も多いでしょう。
Sledgehammer / Peter Gabriel / “So” (1986年)
「Invisible Touch」から全米シングルチャート一位の座を奪ったのは、この曲。同じGenesisファミリーのPeter Gabrielの「Sledgehammer」です。kayakerさんも『So』から「Red Rain」をかけていて、曲の美しさとしてはそちらの方が数段上なのですが、ここはあくまでポップ路線で。こちらのPVはPeter Gabriel自身も登場するストップモーションアニメーションで、その制作にはあのクエイ兄弟も参加しているのだそうです。
Heartland / Moon Safari / “Lover’s End” (2010年)
スウェーデンのプログ・ポップバンドMoon Safariは、5月の打合せの際にrobin☆氏から教えてもらって聴き始めたバンドです。この不気味としか言いようがないジャケットから、こんなに爽やかなコーラスとメロディラインが飛び出してくるとはあまりにも意外ですが、冒頭のメロトロンサウンドやテクニカルなシンセサイザーソロ、一筋縄ではないリズムなどは確かにプログレのDNAを持っているように思えます。
It’s Time (Chapter Three) / Saga / “Images At Twilight” (1979年)
Rushが出てくれば、同じカナダのバンドであるSagaも紹介しないわけにはいきません。美しいシンセサイザーの響きとMichael Sadlerの説得力のあるヴォーカルがフィーチュアされたこの曲は、Sagaとしては初期のものですが、その後のブレイクを十分予感させる仕上がりになっています。なお、当初この場所にはGenesisの「Follow You Follow Me」を入れていたのですが、イベント前日になってセットリストを変えてこの曲を入れることにしたために、イベントのタイトルの一部をなす『そして三人が残った』からの曲がひとつも入らなくなってしまいました。
Roundabout / Yes / “Fragile” (1971年)
Yesの代表曲のひとつ。スピーディーなベースリフが印象的な曲で、Yesのライブではたいてい最後に演奏されるキラーチューンです。「In the Court of the Crimson King」共々ちょっとベタな選曲という気もしましたが、Steve Howeのアコースティックギターによるイントロ、Chris SquireのゴリゴリベースとBill Brufordの奇怪なスネア音、Rick Wakemanのかっこいいオルガンソロ、そして少年合唱団がそのまま大人になったようなJon Andersonのヴォーカルと、Yesの魅力がコンパクトに全部詰まっているロックナンバーだと思います。
It / Genesis / “The Lamb Lies Down on Broadway” (1974年)
最後は、『The Lamb Lies Down on Broadway』の掉尾を飾る「It」。シュールで幻想的な旅の果てに、Brother Johnの顔の中に自分の顔を見た主人公Raelがショックを受けた次の瞬間、物語はこの曲と共に唐突に大団円へと転回してフェードアウトしていきます。ところで今回、CDは2008年のリマスター盤を用いたのですが、ドラムの音がオリジナルに比べ決定的にクリアになっており、Phil Collinsのかなり細かいスネアワークが曲をドライブさせてゆく様子をはっきりと聴き取れました。やはりPhil Collinsは、うまいんだなと再認識。

全曲をかけ終えて、アウトロにはアコースティックギターによる「There’s No Business Like Show Business」(邦題「ショウほど素敵な商売は無い」)を流しました。Genesisファンならニヤリとしたと思いますが、ライブ盤『Seconds Out』の最後にコンサートホールに流れたこの曲を意識したものです。

機材は、例によってiPadにdjayを載せて使用。そして、今回も懲りずに拙いベース演奏を披露しました。ベースを弾いたのは、1stセットの「Watcher of the Skies」、2ndセットの「Grand Designs」「Roundabout」の3曲ですが、「Watcher of the Skies」はエフェクターの操作を誤って最初のうち音が出ず、「Roundabout」は途中でピックを取り落とす失態(どないしょー!と一瞬焦りましたが、そのまま気合のツーフィンガーで弾ききりました)。

そして、唯一うまくいったと思える「Grand Designs」は、動画を撮るのを忘れていました……が、yokkoさんが一部を撮影して下さっていました。

セキネくんの写真ともども、thank you so much!!なるほど、客席からだとこういう風に見えるんですねー。もっとカメラ目線にしたり、アクション入れたりしないといけないなと反省しました(←ポイントそこか?)。

ともあれ、最後まで聴いて下さった皆さん、本当にありがとうございました!DJイベントでは毎度おなじみのじゅんこさんとMickyさん、私の仲間ではラン友マドカとクライミング仲間のツジタ夫妻・セキネくんが来て下さいましたが、果たして楽しんでいただけたでしょうか?セミプロのギタリストであるセキネくんに「ベースがうまい」と言ってもらえたのはお世辞にしてもうれしく思いました。また、急な依頼にも関わらずDJブースに立って下さったkayakerさんと、集客に甚大な貢献を果たして下さったHatchさんにも、大感謝です。また次の機会も、よろしくお願いします。

さて、5月はTOEIC一夜漬けモード、6月はベース特訓モードで少々つらい日々を過ごしましたが、7月に入ったら気分をがらっと入れ替えて、いよいよ夏山モードです。