乗鞍岳

日程:2019/03/02-03

概要:Mt.乗鞍スノーリゾートのリフトを3本乗り継いだかもしか平からツアーコースを経て位ヶ原を登り、乗鞍岳最高点=剣ヶ峰に登頂。その日は位ヶ原山荘に泊まり、翌日下山。

山頂:剣ヶ峰 3026m

同行:トモミさん / エリー / らんらん

山行寸描

▲乗鞍岳山頂からの展望 その一。(2019/03/02撮影)
▲乗鞍岳山頂からの展望 その二。(2019/03/02撮影)

折々に催行しているトモミさんとの「塾長山行」。昨年7月の金峰山の後にも計画は複数あったのですが、いずれも私の雨男パワーのせいで流れてしまい、いつの間にか冬山シーズンになってしまいました。次なるターゲットの相談が始まったのは昨年の12月のことで、候補に上がった谷川岳・乗鞍岳・八ヶ岳(赤岳)の中からトモミさんがチョイスしたのは、これらの中で最も標高が高い乗鞍岳です。さらに、このプランにトモミさんの山友2人が加わることになりました。彼女たちは昨年2月に高見石小屋で知り合った仲で、その後頻繁に山行を共にして友情を深めていた模様。私にとっても初対面というわけではないのですが、こうして再びお会いする機会があるとは思ってもいませんでした。

2019/03/02

△10:00 かもしか平 → △11:20-35 位ヶ原山荘分岐 → △12:30-55 肩の小屋口 → △14:15-40 乗鞍岳(剣ヶ峰) → △15:20-35 肩の小屋口 → △16:00 位ヶ原山荘分岐 → △16:30 位ヶ原山荘

各自、金曜日の午後〜夜移動で松本市内に泊まり、朝7時に松本駅で待ち合わせ。トモミさんと合流し、その山友であるエリー・らんらんと再会の挨拶を交わしてから、上高地線のホームへ。この路線の電車に乗るのはたぶん2013年以来で、質実剛健(言葉を変えれば「古い」)のイメージだった松本電鉄の列車と打って変わり、マスコットキャラクターの渕東なぎさがラッピングされた「なぎさTRAIN」になっていてびっくり。しかし後で調べてみたところ、「なぎさTRAIN」が走りだしたのも2013年なのだそうです。

女性3人はリュックサックの外にスノーシューやらストックやらピッケルやらを括り付けて、まるで五条大橋の上で牛若丸を待ち構える弁慶のような姿になっていましたが、ひときわトゲトゲ度が目立つエリーのリュックサックの中からは大きなお菓子の袋が登場して、朝っぱらから大笑い。

新島々でバスに乗り換え、乗鞍高原のスキー場で降りて、ここからリフトを3本乗り継いでかもしかリフト終点のかもしか平へ上がります。実は、私は1996年の年末に同じルートで乗鞍岳に登ったことがあるのですが、そのときはカメラの電池切れで写真を1枚も撮れていなかったので、今回の山行はいわば22年余りぶりのリベンジです。幸い今日は、真っ青な空と真っ白な雪。彼方の乗鞍岳のピーク群を眺めて、テンションが上がります。雲もなく、風もなく、まさに絶好の登山日和です。

かもしか平から樹林の中の切通しを進むツアーコースは、最初の方で急坂を登った後はおおむね緩やかな登り道が続いており、やがて樹林が疎らになったあたりで肩の小屋方面と位ヶ原山荘方面との分岐に到着します。当初はこの日はのんびり位ヶ原山荘泊まりにして、翌日山頂を目指す計画だったのですが、直前の天気予報では今日が好天で明日は崩れるということだったため、予定を変更してこの日のうちに登頂することにしています。そのため、ここで小休止してからさらに前方=肩の小屋方面を目指しました。

分岐の看板からひとしきりの急坂をこなすと、広大な位ヶ原の雪原に到達しました。遮るもののないこの地形は風が強いときには厳しい登高を登山者に強いることでしょうが、この日はポカポカ陽気で暑いくらいです。

行く手の左寄りに聳えているピークは、左端の穏やかな円頂が高天ヶ原、右の尖った山頂が目指す剣ヶ峰(最高峰)です。乗鞍岳は比較的若い複合火山なので、このように平坦な高原の上に穏やかな山容のピークが並んでいてとても優しい姿をしています。深田久弥が『日本百名山』の中で乗鞍は登ると言うより、住むと言った方が似つかわしい山である位ヶ原……からの眺めを、私は日本で最もすぐれた山岳風景の一つに数えていると書いたのも頷ける光景です。

少しずつ高度を上げていくと、北の方に穂高連峰の姿が見えてきて女性陣はますますテンションアップ!3人揃って「美しい!」「最高だ!」「ヤバイ!」を連呼しながら写真を撮りまくっていましたが、この日の行程にはあまり時間的なゆとりがないので、とにかく足を前に運ばなくてはなりません。そうして歩いていくと、ところどころ雪が薄い箇所があってその下はカチカチの氷。2月19日に降った雨でスケートリンク状になった上に新雪がうっすらかぶっている状態です。この氷雪コンディションのせいで2月24日から3日連続で下山中の滑落事故が発生していることが、位ヶ原山荘のウェブサイトでアナウンスされていました。気をつけなくては。

夏なら車道が伸びてきている肩の小屋口のWCの横に荷物をデポし、ここでつぼ足・ストックからアイゼン・ピッケルに切り替えます。ここまでは暑いくらいに気温が高かったものの、山頂では風に吹かれて体感温度が下がることを予想して、サブザックには追加の衣類とお湯の入ったボトル。残りはわずか、頑張ろう!

定石では朝日岳・摩利支天岳間の鞍部にある肩の小屋までいったん上がって、そこから左に折れて朝日岳へと登るのですが、どうやら雪が落ち着いている様子なのでWCから短くショートカット気味に朝日岳の尾根を目指しました。最初のうちは雪面に風が作る模様を愛でながらの穏やかな登りでしたが、やがてクラストしてテカテカに光る硬い雪面にアイゼンを利かせながらの登高となりました。アイゼンの爪がよく刺さるので不安はありませんが、万が一にも足を滑らせたら、それなりの距離を滑落することになりそうです。

先行者のトレースを頼みとしながら尾根筋を登り、朝日岳の東斜面を慎重にトラバースして蚕玉岳手前の鞍部へ。ここまで来れば、目指す剣ヶ峰は目の前です。周囲の展望もますます雄大なものになってきて、3人の興奮はMAX。

山頂直下の岩にはギザギザの氷がへばりついていましたが、これはエビの尻尾が溶けて原形をとどめなくなったものに違いありません。春は確実にそこまで来ています。

乗鞍本宮奥宮の鳥居をくぐって、いよいよ山頂に到着。無風快晴の中、遮るもののない絶景は素晴らしく、遠くに中央アルプス、南に噴煙を上げ続ける御嶽山、西北にトモミさんたちが昨春登った加賀の白山、そして北にはもちろん穂高を前に置いた北アルプスのほぼ全山が見えています。ただ、山頂はやはり寒気が厳しく、上衣を重ねた上で持参した「命のお湯」を飲んで温まりながら写真を撮り続け、ひと段落ついたところで下山を開始しました。

北アルプスの大展望を正面に見ながら、硬い斜面のトラバースも慎重にこなして元来た道を下ります。

背後からの陽光が作る影を面白く眺めてポーズをとったりしましたが、影の長さは斜面のせいばかりではなく、太陽の位置が下がってきていることを示してもいます。

肩の小屋口のWCでデポ品を回収して、ここから私はアイゼンを履いたまま、3人はスノーシューに履き替えて、位ヶ原の雪原をどんどん下りました。

分岐の看板まで下ってから、スキー場に向かって左(北)の樹林帯の中に続く赤布の目印を辿ってトラバース。途中から雪の積もった車道になって歩きやすくなり、やがてこの日の宿となる位ヶ原山荘に到着しました。この間、背後でヘリのホバリングする音が続いていたのは、何か事故があったのかも?

後日知ったところでは、スキー登山の4人パーティーの1人が剣ヶ峰付近の稜線から滑降途中、キックターン失敗により滑落して骨折し、ヘリ搬送されたそうです。

4人で一室の広い個室をあてがってもらい、荷物の整理もそこそこに撮りたての写真を見せ合いながら「マジでヤバイ」「幸せ〜♫」などと言っているうちに夕食の時間。待望のディナーは鹿肉の鍋をメインとする豪華版です。鍋は臭みもなくすこぶる美味でしたし、その他の副食も質・量ともに豊かでした。おいしい夕食を堪能してから部屋に戻った後、女性陣は3人揃ってフェイスパックでお肌のケアに余念がありませんでしたが、消灯時間になってからヘッドランプの明かりで見る彼女たちの姿は『オペラ座の怪人』のファントムを3人並べたようでした。

2019/03/03

△07:00 位ヶ原山荘 → △08:00 位ヶ原山荘分岐 → △08:50 かもしか平 → △10:10 Mt.乗鞍スノーリゾート入口

この日は下山するだけ。遅めの朝食をとってから、山荘のご主人に御礼を言って宿を後にしました。

この日の予報は午後から悪天ですが、朝方から既に雲が広がり太陽も間接光のようになっています。

それでも昨日下ってきた車道を緩く登り返す途中からは、陰影に富んで趣のある穂高の姿を眺めることができました。

分岐の看板まで戻ってから、ツアーコースをさくさくと下ります。途中で振り返ると、どんより曇った空の下ではあっても剣ヶ峰や高天ヶ原の姿ははっきりと見えていました。この景色に別れを告げたら、女性陣の滑降タイムの始まり。ソリを持ってきていたエリーの爆走はご覧の通りですが、スキー場に入ってからのトモミさんのスピード狂ぶりにも驚かされました。

近年、このように純粋に雪山歩きを楽しむ山行の回数はめっきり減っていましたが、こうしてトモミさんたちと山に入り、彼女たちが冬山ならではの美しい山岳展望に心の底からの歓喜の声を上げているのを見ると、かつてピュア(?)な気持ちとシンプルな装備で山の大きさと向き合っていた頃の自分を思い出して、こちらまでうれしくなってきました。そうした機会を作ってくれた上にプランニングから各種手配まで全部引き受けてくれたトモミさんに感謝。さらに、終始明るく山を楽しみ尽くしてくれていたエリーとらんらんにも感謝です。