地獄谷本谷左俣

日程:2018/12/22-23

概要:八ヶ岳東面の出合小屋をベースに、地獄谷本谷左俣を登り、ツルネ東稜を下る。

山頂:---

同行:かっきー

山行寸描

▲氷が薄い大滝をデリケートな足使いで突破。(2018/12/23撮影)
▲左俣に入ってからの支沢のナメ氷を登るかっきー。(2018/12/23撮影)

12月下旬の三連休はアイスクライミング、というのは前々から決めていたことですが、この暖冬では行ける先を探すのに苦労します。それでも私は2週間前に裏同心ルンゼを登っていますから多少は身体がアイス向きになっていますが、かっきーは今回が今季初アイス。よってアルパインな香り漂う八ヶ岳東面に入ることにしました。

2018/12/22

△11:00 美しの森 → △13:20 出合小屋

この日は出合小屋までの短い入山日なので、高尾に7時半頃に待ち合わせて中央自動車道に乗りました。美しの森に着いたのは10時頃ですが、これでもまだ早いくらい。よってしばらく車の中で休憩しようかと話していたのですが、隣に駐まっている車から降りて身支度をしているご夫婦らしき2人組の気合に押され、我々もそそくさと準備をして歩き始めました。かっきーも私も、リュックサックの重さはおよそ25kgです。

美しの森から出合小屋までの道はこれまでに何度も歩いていますが、今年はやはり雪が少ない。そして西面の登山道と同様に、こちら側も秋の台風の影響で部分的に荒れています。

地獄谷に入ってからもところどころに台風の爪痕を見ながらの歩きになりましたが、赤ペンキや赤テープのおかげで道は明瞭。やがて懐かしの出合小屋に到着しました。ここに来るのは3年ぶりです。

同宿者は、我々が到着したときに上ノ権現沢に入っていた男性2人組と、美しの森で隣り合わせた男女2人組の2パーティー(さらに翌朝、小屋の上流側に大きなテントが1張りあることに気付きました)。彼らはそれぞれテントを用いましたが、この連休の前半は気温が高いことがわかっているので我々は持参したテントを使わないことにしました。

荷物を広げて腰を落ち着けたところで、毎度おなじみのかっきー特製つくね鍋を作りながら乾杯です。鍋に投じられたのは400gのつくねと大量の生野菜、春雨と餅。そして夕食の鍋を作りながらの男女パーティーとの会話の中から、お二人が我々の共通の沢友・故ひろた氏と面識があることがわかりました。聞けば北アルプスの双六谷で接点があったとのこと。相変わらず、世間は狭いものです。

お腹がいっぱいになってもまだ16時ですが、もう他にすることもないのでそのままシュラフにもぐり込みました。我々が食事の用意をしているときに小屋に戻ってきた先客パーティーの言によれば、上ノ権現沢は「ドボン祭り」とのことだったので、翌日は予定通り地獄谷本谷を目指すことにしました。

2018/12/23

△06:35 出合小屋 → △07:30 ツルネ東稜取付 → △08:20-50 大滝 → △10:00 二俣 → △10:25 支沢出合 → △11:55 ツルネ東稜上 → △12:55 ツルネ東稜取付 → △13:10-14:25 出合小屋 → △16:20 美しの森

朝方はやはり冷え込みが緩く、テントなしでも寒さを感じることはありませんでした。そしてまだ暗いうちにドボンパーティー、ついでやや明るくなってから男女パーティー、最後にのんびり我々も小屋を発ちました。

久しぶりの八ヶ岳東面とあって、かっきーも私も地形がうろ覚え。先行する男女パーティーも地獄谷本谷へ行くと聞いていたのでその後を追うかたちになったのですが、周囲の地形を見ていぶかしんだかっきーがGPSで現在位置を確認すると、どうやら上ノ権現沢に入り込んでしまっているようです。これはいかんと引き返し、ツルネ東稜の取付を再確認しました。道迷いの原因は、最初に左に分かれる権現沢を上ノ権現沢と勘違いしたことで、そこにある標識が「ツルネ東稜」の取付を示すものだと思い込んだ(実際は「ツルネ東稜はさらに先」という標識)のも失敗でした。

30分のロスタイムでツルネ東稜の右側を流れ下る地獄谷本谷に入ることができ、ここでチェーンスパイクから本式のアイゼンに履き替えました。沢筋はおおむね雪に覆われていますが、やはりこちらもところどころに落とし穴が隠れており、踏み抜くたびに「うわー!」「ひゃー!」と情けない悲鳴を上げてじたばたする始末です。やがてゴルジュ状になり、その突き当たりに大滝らしい氷瀑が左奥から落ちてきている場所に着きました。

その手前の釜を右側からぐるりとへつって奥に隠れている滝を見てみると、薄く透き通った氷の中を水が流れているのが見えており、穴も空いていてかなり脆そうな状態です。それでもどうにか行けるのではないかと1段上がってみると、水流が見えている場所の上は多少氷が厚くなっており、側壁も使って丁寧に足を運べば登れそう。そこでロープを出して私がリードすることにしました。

案ずるより産むが易しとはよく言ったもので、氷を壊さないようにそっとアックスを打ち込み、足も蹴り込まずに置くようにしてじわじわと登れば難なくこの滝を抜けることができました。後続のかっきーもさくさくと登ってきて、これでこの沢のメインディッシュは終了です。

大滝の少し上流で左岸に天狗沢が入ってくるところで小休止しつつ、ここで同ルート下降とするか先に進むかを協議しました。先ほどから雪ならぬ雨が軽く降ってきており、この先も氷らしい氷は望めそうにないからですが、現在地がそれなりに高いところまで来ていることを確認し合って、遡行を継続することになりました。

とは言うものの、本来なら氷床が続くはずの谷の中は釜を隠す雪に覆われており、ガスも降りてきて、だんだん苦行の様相を呈してきました。ラッセルがほぼ膝下程度ですんでいるのがせめてもの救いですが、これはもはやアイスクライミングではありません……。

ゴルジュ内の二俣を左へとしばらく進んだところで、右岸に氷のナメ滝が落ちている場所に出ました。地形図を確認し、この辺りで左へ上がればツルネ東稜に最短で乗り上がれるだろうと見当をつけて、この日2度目の氷瀑登攀。かっきーのリードで45度ほどの斜度のナメ滝をロープいっぱいまで登ると、そこから先は斜度がやや落ちた広い沢筋が続いていましたが、ここも雪に覆われてしまっていました。

しばらくはこの沢筋を上流に向かって詰め、最後に右手の尾根に乗って藪漕ぎ混じりの登りを続けます。いかにも泥臭い日本のアルパインといった趣きですが、これはこれで自分の好みに合っているかも(つらいけど)。

ナメ滝の上からほぼ1時間のアルバイトで、ツルネ東稜の上に出ることができました。やれやれ。ここからは明瞭な踏み跡を辿って下山するばかりです。幸い雨は本降りにならずにすみ、1時間弱でツルネ東稜の取付に降り立つことができました。

休日はあと1日残っていますが、この日の遡行の途中で「どの沢に入ってもまともな氷にはありつけないだろうから、今日中に下山しよう」と話がまとまっていました。ただし鍋は2日分、お酒もそれに見合う量を担ぎ上げていますから、昼食代わりにこれらを消費していかなければなりません。

手際よく鍋を作り、お酒も運転時にアルコールが残らない程度に軽くいただいてから、出合小屋を後にしました。なお我々が小屋を閉めたとき昨夜同宿していた二つのパーティーはまだ戻ってきていませんでしたが、彼らはいったいどこを登りに行ったのだろう?

今回はアイスクライミングとしては不完全燃焼に終わってしまいましたが、冬季アルパインクライミングとして考えればそれなりに充実したものとなりました。さらに歩荷トレーニングとしても価値はあったと思いますが、このトレーニングの成果を活かすための「本番」の機会はこの暖冬の中で本当に訪れてくれるのかと少々不安です。

アイスの後に、いのちをいただく。これはかっきーと私との冬のルーチン。この山行の帰りにももちろん甲府の「美味小家」を訪れました。年内はこれが最後ですが、年が明けたらまたこのお店に通うために、今シーズンもアルパインアイスの回数を重ねるつもりです。