塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

小川山屋根岩3峰南稜レモンルート

日程:2017/08/05

概要:小川山のマルチピッチ「屋根岩3峰南稜レモンルート」を登る。

山頂:---

同行:セキネくん

山行寸描

▲1ピッチ目。傾斜は比較的緩く、安定した態勢でカムを右壁に決められる。(2017/08/05撮影)
▲2ピッチ目。高度感のあるダイクトラバース。(2017/08/05撮影)
▲3ピッチ目=核心部となる5.9のチムニー。上部のワイドクラックが手強く、セキネくんはOSならず、私はA1で抜けた。(2017/08/05撮影)

8月最初の週末はセキネくんと甲斐駒ヶ岳へ向かう予定でしたが、南の海に長く居座り続けていた台風5号がついに動き始めて九州方面へ向かうために、中部山岳地帯は天気が読めなくなってしまいました。それでも直前まで可能性を探ったのですが、金曜日にも降雨があり、そこに土曜日または日曜日の雨が重なるとちょっと厳しいだろう……と泣く泣く小川山へ転進することにしました。

2017/08/05

△10:00 駐車場 → △10:25-50 取付 → △12:40-13:00 終了点 → △13:15-25 取付 → △13:45 駐車場

8時すぎに甲府でセキネくんと合流し、小川山へ。

車中でどういう会話が交わされたかはとてもここに書けませんが、3週間前と同様に、天気予報を見ながら他人の不幸を願っていたということだけは正直に告白しなければなりません。

廻り目平の駐車場は天気予報を嫌ってか比較的すいており、セキネ号もその一角にすんなり駐めることができました。セキネくんの先導で林間の道を進み、やがて取付へ。そこにはリュックサックが四つ置かれており、頭上からコールも聞こえてきました。我々もそそくさと身支度を調えましたが、そうしている間にも急速に黒い雲が広がってきました。急ごう!

1ピッチ目(5.6)は私のリード。途中に1カ所ボルトもありますが、右壁のコーナーにカムを決めながら、豊富な凹凸に導かれて高さを稼いでいきます。

途中にしっかりした木が立っていて青いスリングが残置されていましたが、ここでロープ半分(25m)。

もう少し伸ばしてみようかと見上げると、右上の小さいテラス状の場所にハンガーボルトを発見。どうやらこのまま進むのが神奈川ルートで、右上がレモンルートらしいと見当をつけ、そちらのテラスへ這い上がりました。

テラスから行く手(壁に向かって右方向)を見ると、既にここは2峰セレクションの終了点と同程度の高さですが、それよりも目の前のトラバースが怖い感じ。このトラバースから始まる2ピッチ目(5.7)はセキネくんのリードで、5mくらいのこのダイクトラバースをこなした後に凹角を10mほど登ったら終了です。

実際に乗り出してみると、つるっとしているかに見えたトラバース区間の壁には細かいながらも突起やポケットがあり、足の方もこのトラバースを意識してチョイスしたバラクーダ(ステルスC4にリソール済)が抜群のフリクションを提供してくれて、難なく渡ることができました。その先、凹角の上の樹木の幹にスリングを回して支点を作っていたセキネくんの左上に、このルートのハイライトである弓状クラック(15mくらい?)が待っていました。このクラックは本来はバリエーションですが、こちらをとらずにそのまま凹角の先のスラブを登ってしまっては易し過ぎるので、レモンルートと言えば弓状クラックを登るのが一般的です。

3ピッチ目(5.9)ももちろんセキネくんのリード。出だしのフィストが決まるクラックを無難にこなし、その上のクラックが狭くなった部分はレイバックで上がっていきましたが、上3分の1のフレアしたワイドクラックで動きが止まりました。「難しい!」「わからない!」「血だらけだー!」と叫びながらセキネくんはずりずりと身体を上げていましたが、ついに途中でテンションがかかりました。

結局なんとか最後まで抜けてくれて、続いて私の番になったのですが、微妙な最初の一歩をこなしてクラックに乗り込んでからレイバックセクションまではまずまずの調子で行けたものの、ワイドセクションでは一歩も動けません。左奥に身体を入れてハンドジャムとフットジャムを決めて、痛い目を見ながら登らなければダメです、と非情の指令が上から降ってきましたが、そもそも私のリーチでは手が奥に届きません。

しかし、このままここで敗退か……というときはなりふり構わないのがアルパイン道。ワイドセクションの出だしに一つだけ打たれたボルトとセキネくんがセットしたカムに手持ちのスリングを掛けてA1で前進しました。やがて左手のハンドジャムが利き、右手も凹凸を使えるようになってから尺取り虫のように進んで、最後はどうにか出口のガバをゲット。セルフビレイをとって一息ついたところでセキネくんの健闘を讃えたのですが、見れば彼の前腕もくるぶしも岩に擦れて真っ赤になっていました。恐ろしい……。

4ピッチ目は目の前のスラブ壁を越えれば後は岩稜の歩き。突き当たりの壁までロープを伸ばして、灌木にセルフビレイをとって肩がらみでセキネくんを迎えました。

最後の5ピッチ目(5.7)はセキネくんのリード。風化したスラブを細かいカチを拾って1段登った先に岩峰が立っており、正面の壁は一部垂壁ながら豊富なホールドとカムが決まるクラックを提供してくれていて、ぐいぐいと気持ち良く登れます。そして登り着いた3峰のてっぺんからの眺めは広闊そのものですが、既に雨雲が周囲の稜線を飲み込み始めていました。時間にゆとりがあれば山頂の奥の方まで遊びに行きたいところでしたが、今にも雨が降ってきそうな雰囲気にそれは断念。水だけ飲んだらロープをセットして、ただちに下降することにしました。

懸垂下降は2ピッチ。まず最終ピッチの出だしまで40m。ついでそこから左の浅い凹角を45m。先に降りたセキネくんからコールが掛かるのを待っている間に、ぽつぽつと降ってきました。

そして懸垂下降を終えて降り立ったところにある岩小屋のような場所でロープを畳んでいる間に、とうとう本降りの雨になってしまいました。踏み跡を下って取付に戻ると、岩壁からは滝のように水が流れ下っていてびっくり。もしワイドクラックの中で行き詰まっているときにこの雨に見舞われていたら、大変な目にあっていたでしょう。

ギアやロープをそそくさとリュックサックに詰め込むと、土砂降りの雨の中を濡れ鼠になりながら駐車場を目指しました。セキネくんはワイドクラックでテンションをかけたことがよほど悔しかったらしく捲土重来を誓っていましたが、私の方はまったく違うことを考えながら歩いていました。

「カムにスリングのA1でも、けっこう登れるものだな。」