塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

両神山

日程:2017/05/21

概要:上落合橋登山口から八丁峠に上がり、八丁尾根を縦走して両神山の山頂へ。下降は山頂の南から廃道を辿って直接落合橋へ。

山頂:両神山 1723m

同行:トモミさん / ジュンコさん

山行寸描

▲西岳から見た東岳と両神山。ここからが鎖場の本番だが、それより何より、とにかく暑い一日だった。(2017/05/21撮影)
▲暑さにもめげず登頂したトモミさんとジュンコさん。お疲れさまでした。(2017/05/21撮影)

「5月20-21日の週末が空いているんですけど」とFacebookのメッセージグループで呼び掛けたところ、これに反応してくれたのはトモミさん。行き先に両神山を選んだのもトモミさんで、岩稜歩きをしたいという動機に基づくものでした。おお、いいぞ。いくらでもつきあうぞ。さらに2月の蓼科山でご一緒したジュンコさんも加わって、「塾長と塾生2人」ならぬ「令嬢2人とその執事」という組合せが再現しました。

2017/05/21

△09:30 落合橋 → △10:35-40 八丁峠 → △11:30-35 西岳 → △12:35-45 東岳 → △13:20-40 両神山 → △14:40-45 1389mピーク → △15:10 落合橋

5時半に下北沢で待ち合わせて、ジュンコさんの運転する車で関越自動車道を経由し八丁峠の南側の落合橋へ。てっきり北の坂本側からアプローチするのかと思っていたのですが、そちら方面の道が落石によって封鎖されていることをジュンコさんはリサーチ済みでした。さすがジュンコさん、相変わらず頼りになります。

上落合橋登山口の近くの駐車スペースは広くなく、既に車でいっぱいの状態でしたが、一つ手前の落合橋の袂にある数台分の場所が空いていて、難なく車を置くことができました。足回りを整えて、登山口に設置されたカウンターのボタンを押してから、八丁沢沿いに上がる山道に入ります。

樹林の中の道は緩やかに登り、やがて八丁沢から離れて左へ斜面をジグザグに上がるようになるのですが、車での移動で乗り物酔いになっていたトモミさんは調子が上がらず、途中で気分が悪くなって大休止となってしまいました。これはピンチ。しかしジュンコさんも私も両神山に登ったことはあるので、発案者であるトモミさんがギブアップするようなら潔く敗退して秩父観光でもするか、と気楽にトモミさんの回復を待ちました。もっとも、ただ待っているだけでは芸がないので、持参したテープスリングで簡易チェストハーネスの作り方を教えたり、ロープの末端にカラビナを掛けるエイトノットでの輪っか作りを実演したり。

そんなことをしているうちにトモミさんも復活し、ゆっくりと登高を再開しました。高度が上がるにつれ林相が変わって、新緑の林の中に明るい日の光が差し込みとても綺麗。思わず取り付きたくなるような岩も顔を見せ始め、ついテンションが上がってしまいます。

やがて到着した八丁峠でヘルメットを装着し、ここからいよいよ岩稜縦走の始まりです。

登りの途中で抜かしていった大部隊と前後しつつ縦走を進めましたが、それにしても今日はいい天気……なのは良いのですが、異常に暑い!尾根筋の北側から吹き上げてくる冷たい風が身体を冷やしてくれなかったら、熱中症を真剣に心配しなければならなかったでしょう。

最初からちょっとした鎖場がいくつかあり、こまめに休憩も入れながら登ったので西岳までは予想外に時間がかかりましたが、岩稜の本番はこの西岳と向こうに見えている東岳の間です。しかしここまで、少なくとも技術的にはトモミさんもジュンコさんも問題になる様子はなく、頼もしい限り。私はといえば「鎖を使わないで登って下さい」という命令を受けてこれを忠実に実行していたのですが、西岳からの下りのちょっとスラビーな斜面では危険を感じ、懇願して鎖の使用を許可いただきました。やれやれ。

私が鎖に触れたのは結局ここだけだったのですが、八丁峠から両神山に向かうコースは登り基調になるので、それも当然と言えば当然です。岩質はチャートかな?硬くしっかりしたホールドを提供してくれるので、フリーで上り下りすることに不安はありません。もっと難しいイメージがあったので、正直に言えば拍子抜けです。

顕著なルンゼが切れ込んでいる鞍部から登り返したところには、祠と注連縄。両神山は古くから信仰の山で、修験道が盛んに行われ、この尾根はもちろんのこと、周囲の尾根筋にも随所にそうした歴史を感じさせる地名や宗教遺構が点在しています。また、この祠も尾根上の単なる通過点というわけではなく、北麓の尾ノ内にある竜頭神社の奥宮であって、沢伝いにここへ直接上がってくる登拝路があるようです。

祠のあるピークから少し進んだところで振り返ると、早くも西岳と同じ高さまで上がっていました。東岳の標高は西岳とあまり変わりません(西岳 1613m / 東岳 1660m)から、もう厳しいアップダウンはなさそう……などと思っていたら本当にぽんと飛び出したのが東岳の山頂でした。小広い山頂にはテーブルとベンチも設えられ、10人ほどの登山者が休憩していました。

ここまで来ればもう難しいところはないはずなので安心ですが、帰りも同じ道を逆に辿る予定なので気楽にはなれません。それどころか、相変わらずの暑さにやられて気が重くなりかけていたのですが、そのとき他の登山者が大声で「両神山頂から落合橋まで楽な『作業道』を下る」という話をしているのが耳に入りました。作業道?どうやらそれは、私の持参した2001年版(古い)の地図に点線と「廃道」の文字で表示されている旧登山道のことのようです。この道を使って下山するオプションがあることはトモミさんも調べてあって、どうやら今もそこそこの数の登山者が下山に活用している様子です。山頂を目指して歩きながら、当初の計画通り八丁尾根往復とするか「作業道」で楽をすべきかを3人で協議しましたが、トモミさんが「私の体調不良のせいで計画を短縮することになって申し訳ありません……」と泣き真似をしてくれたので、それじゃ仕方ないな(笑)と衆議一致して「作業道」を下ることになりました。

かろうじて残っていたアカヤシオを愛でながら尾根の上を歩いて、ついに両神山の山頂に到着しました。山頂は大勢の登山者で賑わっていましたが、その合間を縫って最高点の岩によじ登って記念撮影をしたら、その岩の裏手に場所を占めて食事休憩としました。執事たるもの、本来ならここで「お嬢様方、お疲れ様でございました」とスコーンと紅茶でも提供すべきところですが、今回の私の主たる業務は安全管理。使いこそしませんでしたがロープ、スリング、カラビナ類を少々、それにツェルトを担いで上がっていたので許して下さい。

この山頂に私が立つのは2度目で、前回ここに登ったのは1989年のこと。実に28年ぶりの両神山登頂です。そのときは白井差から上がって両神神社経由で山頂に立ち、八丁尾根を縦走して八丁峠から坂本に下るコースどりでしたが、さすがにほとんど記憶が残っていません。ただ、山頂の祠がこんなに真っ白で小ぶりなものではなかったことだけは覚えていました。

下山してから自分の記録を見返したところ、1989年当時の山頂の祠の写真がありました。

それがこちらの写真で、石組みの台座の上に木製胴葺屋根の小柄ながらも風格ある姿です。おそらく老朽化でこのままでは維持できなくなり、比較的最近、石製の祠に置き換えられたのでしょう。ただ、台座を取り除いたせいで位置が下がってしまい、現在の祠はなんだか遠慮しているように見えるのが気の毒です。

一休みしたら下山開始。帰路に入浴、夕食、そして下北沢まで3時間の道のりが待っていることを考えるとあまりゆとりはありません。

まず山頂から日向大谷方向へ下り、立派な道標のところから南の梵天尾根へ向かう道に入ります。ここはトラロープで通せんぼがしてありましたが、梵天尾根コース自体は廃道ではないので、このロープは日向大谷へ向かう表登山道の利用者が間違って入り込まないようにするためのものなのでしょう。

そこから気持ちの良い尾根道を少し歩いたところで、尾根の右手に下る道の入り口にもトラロープが渡してあり、こちらにははっきりと「立入禁止」の表示がありました。もしこれが植生保護のために通行禁止になっているのならもちろん踏み込むことはしませんが、廃道なので危険だからというのが理由でしたので、オウンリスクで行けばよいのだなと解釈することにしました。この道は、西側へ降りながら徐々に北に向かってトラバースして金山沢源流を横断し、東岳の南のピークから西へ下っている尾根に出てその尾根を落合橋へ真っすぐ下降するもの。途中には沢の水源があり、岩のすき間から少量ながらもこんこんと水が湧き出ているのを見て、妙に感動しました。

道筋はおおむね明瞭で歩きやすく、要所にはピンクのテープもあってルートファインディングには困らないものの、部分的には崩れかけて足幅分の細さでトラバースしている箇所もあります。

さらに、沢筋を横断する箇所ではスラブ状の岩の上を渡る場面もありましたが、トモミさんもジュンコさんもなんら不安なくスムーズに進んでくれました。確かに一般登山道に比べれば安全ではありませんが、沢登りなどのバリエーションクライムに慣れていれば危険を感じることはありません(逆に、そういう経験がない方だけでこの道を下ることはお勧めしません)。そして、こうした現在地の同定が容易ではない場所で効力を発揮するのがGPSアプリGeographicaです。等高線を見ながら「あと二つ沢筋を横切ったら尾根に出るよ」と予告するとトモミさんとジュンコさんは尊敬の眼差しで私を見てくれましたが、アプリが今いる場所を勝手に表示してくれるのですから実はなんということもありません。

やがて1389mピークを擁する尾根に入れば、後は明瞭な登山道を下るだけ。車道を走るバイクの音が聞こえ始めたところで再びGeographicaで現在位置を確認したら落合橋が予想外に間近になっており、これに驚きながらさらに下ると本当にあっという間に落合橋の上側の袂に飛び出しました。

下山したら、何はなくともまずは風呂だと「道の駅 大滝温泉」の遊湯館でph8.4のアルカリ性温泉につかってお肌つるつるになり、ついで秩父市内の「雅紀屋」でわらじカツ丼御膳を食しました。

わらじカツを求めて秩父市内を走っている間中、石灰石の採掘で痛々しい姿になってもなお威厳を失わない武甲山が我々を見下ろしてくれていましたが、かつ丼を食べ終わって店を出たときには夕闇が迫り始めていました。

出だしでのトモミさんの体調不良には心配しましたが、しっかり回復して山頂を踏み、最後は希望通りわらじカツまで食するあたりは、トモミさんのこの山行にかけていた気合(?)が感じられました。また、ジュンコさんの底なしの脚力は今回も健在でしたが、岩登りも実はうまいことが判明。この調子なら、北アルプスの点線ルートでも問題なく歩けそうです。