塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

赤岳西壁ショルダー左リッジ

日程:2016/03/26

概要:美濃戸口から歩き出して南沢沿いの道を行者小屋を通過、文三郎尾根の途中からトラバースしてショルダー左リッジに取り付き、稜線上のショルダーピークまで実質4ピッチ。赤岳山頂を踏んで文三郎尾根を下り、行者小屋から赤岳鉱泉へ。

山頂:赤岳 2899m

同行:セキネくん

山行寸描

▲ルート中の数少ない岩稜ピッチ。上の画像をクリックすると、ショルダー左リッジの登攀の概要が見られます。(2016/03/26撮影)
▲下山途中に文三郎尾根から見上げた赤岳西壁と左リッジのルート。(2016/03/26撮影)

仕事が不定期休のセキネくんが奇跡的にとれた土日の休みにつきあい、この週末は八ヶ岳の積雪期最後の岩稜登攀に向かうことにしました。行き先は前々から気になっていたショルダーリッジと、このところぽつぽつ登攀記録が見られるようになっている大同心北西稜です。

金曜日の午前0時すぎに大月駅前で待ち合わせ、セキネ号で美濃戸口へ移動。八ヶ岳山荘の駐車場に駐めたところでセキネくんはそのまま車中泊ですが、私は山荘の仮眠室を活用することにしました。ここを使うのは初めてですが、クリスマスのようなイルミネーションが鮮やかな階段を登ってガラス戸を開けるとそこには清潔な2段ベッドが並ぶ仮眠室があり、布団と枕も用意されていてすこぶる快適です。料金は2,000円で、早出するなら備付けの封筒にお金を入れてポストに投函することになりますが、山荘が稼働し始めてからの出発なら1階の受付で支払ってもOK。2,000円を高いと見るか安いと見るかはその人の感性次第ですが、私は大いに利用価値アリだと思いました。

2016/03/26

△06:20 美濃戸口 → △07:10 美濃戸 → △09:20-50 行者小屋 → △11:00 文三郎尾根途中 → △11:20 ショルダー左リッジ取付 → △14:30-50 稜線 → △15:00-15 赤岳 → △16:25 行者小屋 → △16:50 赤岳鉱泉

美濃戸口から美濃戸までの道には雪も氷もほとんどありませんでしたが、美濃戸山荘の手前からはアイスバーンが出るようになり、例によってチェーンスパイクを装着しました。

南沢の登山道をだらだらと歩いて、途中で摩利支天沢や阿弥陀岳北西稜の入り口も確認しつつ進むとやがて前方に横岳から赤岳にかけての岩屏風が広がりました。お天気は良好、風も穏やかそうで、どうやら格好の登攀日和に恵まれたようです。そうこうするうちに到着した行者小屋から赤岳を見上げると、奥から順に南峰リッジ、主稜、ショルダー右リッジ(第一リッジ)、第二リッジ、ショルダー左リッジ(第三リッジ)が並んでいるのをはっきり視認することができました。ことに長い左リッジには赤岳沢を詰めて取り付く方法もあるようですが、既存の記録を見る限りでは主稜同様に文三郎尾根からアプローチした方が楽である模様。よって我々も、行者小屋前で身支度を済ませると直ちに文三郎尾根を目指しました。

文三郎尾根の登山道は雪がよく踏まれて締まっており歩きやすかったのですが、それでもこの急登には息が上がります。どこから降りられるかなと左側を気にしながら登るうちに、主稜の取付に向かってトラバースを開始するポイントの1段下から赤岳沢へ下れそうであることがわかりました。ちょうどそこには先行していた2人組が下降の準備に入っており、話を聞いてみると「目標は左ルンゼ……だが、氷瀑がしょぼいので、ショルダー右に変更するかも」とのこと。ではお先に、と挨拶してまず我々から下降を開始しました。

下降点からはショルダー左リッジの取付がはっきりと見えており、アプローチのラインは明瞭です。まずは急な雪壁をぐんぐんと下り、次に右リッジを登るときのために上方の様子を眺めながら、きれいに雪に覆われた赤岳沢をトラバース。さらにもう一つ沢筋を越え、左リッジの一部となる岩尾根の下を回り込んで、雪壁〜草付の登りにかかりました。

しばらくは雪、ついで草付の斜面をアックスを振るいながらそれぞれ勝手に登り続け、やがて岩の段差が出てきたところで、左側から上がってきている岩尾根に乗り上がるラインが正しいように思えたので、草付をそのまま直上するのではなく左寄りの浅いルンゼに軌道修正することにしました。そのルンゼ直下の灌木でビレイ点を作り、セキネくんにビレイしてもらってまずは私のリードからスタートです。

1ピッチ目:浅い雪のルンゼを登って1段上がったところが下から黒々と三角形に見えていた岩峰の左端で、これを右から巻いている記録もありますが、私の心の中の声が「この岩峰に左寄りから登れ」と囁いてきます。目の前には草の付いた易しげな凹角があってそちらに引き込まれそうになりますが、よく観察するとそれより1本右寄りの凹角の方が岩がしっかりしていて登りやすそう。そのままロープを引いて凹角に入り、長さいっぱいになったところで岩角とハイマツとで支点を作りました。

2ピッチ目:セキネくんのリード。凹角左の小リッジを直上していって岩峰の左稜線に達すると、どうやら残置ピンなどもあって正しいラインに入った模様です。そのまま左稜線を登っていって突き当たった岩壁に支点を作ったセキネくんにビレイされて後続すると、岩はやや脆いものの気になるほどではなく、豊富な凹凸に手掛かり足掛かりを求めることができて、むしろ気分良くリッジクライミングを楽しむことができました。途中にはハーケンが固め打ちされた場所もありましたから、やはりここが正規ラインであるようです。

3ピッチ目:私のリード。セキネくんがビレイしていたのは左稜線の最上部手前の岩壁状の場所で、そこから1段登るとリッジは灌木混じりの雪稜になりました。岩峰の最上部からリッジは左へ折れて主稜線(赤岳と横岳を結ぶ稜線)を目指すようになり、馬の背状にたわんだスノーリッジを越えてロープがいっぱいになったところで、灌木でピッチを切りました。

4ピッチ目:再び岩がちのリッジになり、真っすぐロープを伸ばして頭上に見えている岩場で左に小さく折れるピッチです。リードのセキネくんはいかにも楽しげにここを越えて行きましたが、技術的には何ら問題になるところはありません。

実質的な登攀はこれで終了で、後は主稜線までの緩やかな斜面をひたすら登るだけ。背後の中岳や阿弥陀岳を眺めて自分の高さを測りながら、ロープの重さに耐えつつ我慢のコンテが続きます。極力雪をつないで登り続け、最後に稜線直下の岩場を越えると、ショルダーピークのほんのわずかに横岳寄りの登山道にひょいと飛び出しました。計画通りの登攀ができたことに満足しつつ、ロープをたぐってセキネくんを迎え、そして今来たルートを覗き込んでみるとはるか下の方にショルダー右リッジを登ってくる2人組の姿が見えましたが、それは文三郎尾根の途中で言葉を交わしたあの2人組であったようです。

終わってみればショルダー左リッジは気分爽快なラインで、もっと登られてよいルートであるように感じました。一応の核心部と言える岩峰登りの2ピッチ目(岩峰の基部までノーロープで登ったとすれば1ピッチ目)でもカムを使う場面はなく、岩角にスリングを回してのランナーやビレイに終始しましたが、技術的にもIV級を感じる箇所がないのでプロテクションのプアさはさほど気になりません。もっとも、この日は穏やかな春山日和でしたから気軽に登れましたが、これが厳冬期でルートが氷雪に覆われシビアな西風に吹きまくられている状態であったとしたら、印象はがらっと変わるのかもしれません。

ロープを畳んだら地蔵尾根からさっさと下山してもいいのですが、ここは赤岳山頂を踏みに行くのが山屋としての正しい振舞いです。すぐに到着した赤岳山頂には誰もおらず、小休止をして行動食を口に入れてから阿弥陀岳方向への下山にかかりました。

文三郎尾根の下降路はこれまでに何度も下っていますが、ショルダーリッジを登った後の目線で見ると、また違ったラインが風景の中に浮かび上がって見えてきます。あの2人組の足跡はやはり最初に左ルンゼの取付を目指しており、おそらくは氷瀑の状態が思わしくなかったために当初のプランを断念してショルダー右リッジを目指すことにしたようですが、そのアプローチも左へ右へと試行錯誤を重ねていた様子でした。

我々も来年の冬は右リッジを落としたいもの……と語らい合いながら行者小屋に降り立てば、今度は前方に明日登る予定の大同心が見えてきます。ここで気分を大同心モードに切り替え、まずは今宵の宿となる赤岳鉱泉を目指しました。

赤岳鉱泉に着いたら、まずはビールで乾杯。ついでステーキの夕食には日本酒をつけ、あてがわれた部屋に戻って布団の上に横たわったところで、私は一瞬のうちに眠りに落ちていきました。寝床が変わると寝付けないタイプのセキネくんは私があまりに早く眠り込んだのに驚いたそうですが、日頃の睡眠不足のせいもあって私のこの晩の眠りは極めて深いものでした。

◎「横岳西壁大同心北西稜」へ続く。

◎右リッジに登れたのは「来年の冬」とはならず、2020年になりました。