剱岳本峰南壁A2

日程:2014/09/22-23

概要:剱岳山行の3日目は、剱沢のテントサイトから平蔵のコルまで登って、本峰南壁A2から登頂。4日目に下山。

山頂:剱岳 2999m

同行:よっこさん / チオちゃん / ヒロセ氏

山行寸描

▲剱岳本峰南壁全景。上の画像をクリックすると、剱岳本峰南壁A2の登攀の概要が見られます。(2014/09/22撮影)
▲3ピッチ目。いかにもアルパインな感じの立った凹角。(2014/09/22撮影)

◎「剱岳源次郎尾根」からの続き。

2014/09/22

△05:30 剱沢キャンプ場 → △07:45-08:00 平蔵のコル → △08:15-25 A2取付 → △11:30-12:15 終了点 → △12:30-40 剱岳 → △14:30-15:10 剣山荘 → △15:45 剱沢キャンプ場

前日、帰幕後にいち早く寝込んだ私は19時頃にむっくり起き上がってテントの中で夕食をとると、再びシュラフにもぐり込んで爆睡しました。いったい何時間寝たのかわからないくらい寝て、4時半に起床。朝食をとり、朝のお勤めを済ませて昨日と同じく5時半に出発しました。

今日は一般登山道を平蔵のコルまで登るアプローチですが、昨日と同じく素晴らしい快晴です。しかしこの美しい光景の中で、またしても私がやんごとなき理由で途中寄り道を余儀なくされ、さらに昨日私がシュラフの中でのびている間にその前日の私と同じくよっこさん提供の長期熟成ジャッキーカルパスに手を出していたヒロセ氏までも、前剱あたりで道をそれていきました。恐るべし、カルパスの呪い……。

次々に一時戦線離脱していく情けない男どもを尻目に、よっこさんとチオちゃんはすいすいと前剱の門のトラバースを続けていきます。やがて到着した平蔵のコルで再集合した4人はリュックサックを降ろし、ハーネスを装着しました。コルから取付までは夏の早い時期であれば雪渓が残っているものなのですが、今では雪渓上部の雪はすっかり消えてただのガレ斜面と化していることを昨日の剱岳からの下りのときに確認済みです。

見ればA1とA2とに先行パーティーが取り付いており、彼らがつけたと思われる踏み跡を辿ってまず私とチオちゃんがガレ斜面の下降を始めましたが、真っすぐ下へ向かうそのラインよりもA2へは左手の壁沿いを目指した方がよかったらしく、しばらく間を空けて下ってきたヒロセ氏とよっこさんがそちらの安定した踏み跡を下るのを見て、チオちゃんと私も軌道修正しました。

A2の取付は遠目にもはっきりわかる大きな外傾テラスで、その真ん中にあたる壁の浅い凹角には残置ピンもあり、ここが登路になっているようです。そこでセルフビレイをとってからシューズを履き替え、ロープを結んでいよいよ登攀開始。組合せは本来であればアルパインの経験が多い私とヒロセ氏が分かれてそれぞれよっこさん・チオちゃんのいずれかと組む混合ダブルス方式がベターなのですが、事前の打合せで「万一落ちたときにヒロセ氏の体重を止められない」というよっこさんの至極もっともな主張が通り、男組と女組に分かれて男組が先行することになりました。

1ピッチ目(25m / III):敬老の精神で先を譲ってくれたヒロセ氏の言葉に甘えて、まずは私からスタート。ホールド豊富で傾斜もさほどない浅い凹角を登っていくと、残置ピンもそこそこあって安心です。やがて左上に支点が作られているのが目に入り、遠目に見た先行パーティーも確かあの辺りでピッチを切っていたはずと思い出して短いながらピッチを切りました。支点自体はあまり信用できそうにない荷造りロープのようなスリングを残置ピンに掛け回したものでしたが、安定したテラスになっている上にそこから傾斜が寝てピッチの性格が変わるので、ここで切るのがたぶん正解だと思われます。

2ピッチ目(40m / III):ヒロセ氏のリード。テラスの右からハイマツ混じりの岩の斜面を登り、突き当たりの岩壁まで。ヒロセ氏が登っている間に、後発組の先陣を務めるチオちゃんも上がってきました。

3ピッチ目(40m / III+):リッジの左側面の立った凹角を登る、A2の全行程中最も面白いピッチ。こりゃ楽しい!と喜びながら登っていくと、凹角の先がかぶった場所に行き当たりました。そこにハーケンも打たれているので一見するとハング越えか?と思わせるのですが、III級にしては厳しい……と勘を働かせていると右手の方から「こっちよ」と呼ぶ声(幻聴?)がして、思わずそちらを見ると古びたハーケンが私を誘っていました。正面突破ではなく右から巻き気味に上がるラインが、このパートの弱点だったのです。この後も、角度は立っているもののホールド豊富な10mをこなし、ハーケンが固め打ちされた小テラスに達したところで「あと10m」のコールを聞いたのでピッチを切りました。

その体重とは裏腹の軽やかなクライミングで登ってきたヒロセ氏をこの日陰の小テラスに迎えたところで、チオ・よっこ組との間が開いてしまったので時間調整することにしました。リュックサックを下ろしてヤッケを羽織りながら見下ろしていると、2ピッチ目をリードしているよっこさんはロープが擦れて重くなってしまい、かなり苦労している様子です。そこで、ピッチをそれ以上伸ばすことは諦めて手近のハイマツの幹に支点を作るように上から指示を出しました。

頃合いを見て4ピッチ目(40m / III+):ピッチを切った場所からすぐ上の岩塔状をヒロセ氏は正面から登り、そのまま高度感のあるリッジを辿っていきましたが、そこを右から巻いていけばおそらくIII級あるかないかだったでしょう。やがてヒロセ氏からコールが掛かった後も事前のすり合わせ通りによっこさんたちが3ピッチ目を登ってくるのを待ちましたが、先ほどハイマツでピッチを切ったためにこの立った凹角をリードする巡り合わせ(4ピッチ目)になったよっこさんは案の定、かぶった壁に正面から挑もうとして「悪いっ!」と悲鳴を上げています。「よっこさん!そこは右!」とアドバイスを飛ばし、よっこさんが無事に切り抜けるのを確認してから、私も待ちくたびれているヒロセ氏のところまで後続しました。

ここでは岩塔の上に乗り上がる一手が一瞬奮闘的ですが、そこからナイフリッジの左側面を辿る高度感満点のラインは気分の良いものでした。隣のA1では頻繁に岩を落とす音や錯綜したコールがこだましていて登攀のシビアさを窺わせましたが、こちらは早くも核心部を抜けた安堵感が漂います。

5ピッチ目(40m / II):水平に近いリッジを心持ち右寄りから絡むように進み、顕著なピナクルを左から回り込んで岩壁の手前まで。

ちなみに、後から来たよっこさんはこのピナクルを右から回り込んできていましたから、どちらからでも問題ないようです。

6ピッチ目(45m / II):引き続き、ほとんど歩きのようなピッチ。この後も間隔調整を行いました。

7ピッチ目(40m / III):リッジのライン通りに直上しても良かったのですが、何となく右側から巻いてクラックの入った岩壁をバランシーに登るあたりからロープが岩に擦れて重くなってしまいました。このためうーん、うーんと唸りながらロープを引いてリッジ上に戻り、あと10mのコールを聞いたところでハイマツの根を使って支点を作りましたが、セカンドでやってきたヒロセ氏が支点を越えて先まで進んでみたところほんのわずかで安定した小広場があり、そこが事実上の終了点だったようです。

よっこさん・チオちゃんも無事に到着。お疲れさまでした。反省点はいくつもあったようですが、無事故で安全地帯まで達することができればとにかく満点です。それに、この組合せで登ったことによって1ピッチごとに得られた収穫も多かったことでしょう。私にとってもこのA2は、取り付くまでは「たかだかIII級ルート」と軽く見ていましたが実際に登ってみれば予想以上に面白く、長さもそれなりにあって(『日本登山体系』等に書かれている「3ピッチ」というのは過少であるように思います)満足できるアルパインルートでした。

ハイマツに囲まれた小広場でロープを解き、シューズを履き替えて一般登山者と同じ格好に戻ると、後は正面に見えている山頂を目指すだけ。ガラガラの斜面は一見崩れやすそうに思えましたが、実際に登ってみると案外しっかりしていて、不安なく登ることができました。

約15分の登りで昨日に引き続き剱岳山頂に到着すると、A2を先行していたパーティーやA1を登っていたパーティーが集結していましたが、登頂時刻が遅いせいかこの日が月曜日であるせいか一般登山者は数えるほどしかいませんでした。

昨日の下山はつらいばかりでしたが、今日は先ほどまでそこを登攀していたA2を左手に眺めながらの下りなので辛さも半減。おまけに一服剱の登り返しも「あれを越えれば生ビールが待っている」とわかっているので我慢のしようがあるというものです。

その生ビールは、チオちゃんのおごりです(thanx!!)。何となれば、剱岳への登りで再三ルートファインディングのまずさを露呈していたから。一人前の山屋になるためには、もっと脚力とルートファインディング力を身に付けなければね。

2日間の登攀を無事に終え、夕方の斜光の中に自分たちが登ったラインを目で追いながら、テントの前からゆったりと剱岳を眺める気分は格別のものでした。

最後の晩餐はご覧の通り、ワインやらスコッチやら日本酒やらのビンが次々に空になり、ヒロセ氏特製ポップコーンの弾ける音まで鳴り響く楽しいものになりました。近隣のテントの皆さんには迷惑だったかも?でも明日は誰しも下山するだけだったでしょうから、多少の羽目外しは大目に見ていただけたことでしょう。

2014/09/23

△06:25 剱沢キャンプ場 → △07:15-25 別山乗越 → △09:25 室堂バスターミナル

最終日は室堂経由で帰るだけ。前日より若干寝坊しましたが、それでも6時半前にはキャンプ場を後にしました。

この日、朝のうちは少々曇り気味でしたが、出発する頃にはまたしても青空が広がっていました。この4日間ずっと天気に恵まれ続けたことに感謝です。

別山乗越から振り返り見た剱岳の最後の姿。またいつの日かお目にかかれますように。

弥陀ヶ原への下り道の日が当たっているところは紅葉が進んで錦繍の色合いでしたが、日陰で霜に覆われた草は冬の訪れが遠くないことを告げています。

雷鳥平から室堂バスターミナルまでのつらい登り返しをこなした我々は、アルペンルートで扇沢に下り、大町温泉郷で風呂に入ってすっきりさっぱり。天気にも仲間にも恵まれて底抜けに楽しかった4日間を、信濃大町駅近くの「昭和軒」の「元祖ソースがけかつ丼」で締めくくりました。