横岳西壁小同心クラック

日程:2014/09/06-07

概要:初日に赤岳鉱泉まで入ってテントを設営し、ただちに大同心稜を登り小同心クラックを登攀。大同心ルンゼ〜大同心稜を下降して帰幕。2日目は中山尾根に登る予定だったが、雨のために中止してそのまま下山。

山頂:横岳 2830m

同行:よっこさん / ハマちゃん

山行寸描

▲1ピッチ目。よっこさんは支点構築でちょっとパニくった模様。(2014/09/06撮影)
▲2ピッチ目。ずいぶん落ち着いてきた。(2014/09/06撮影)
▲3ピッチ目。太鼓判を押せるレベルになってきた。(2014/09/06撮影)
▲横岳山頂直下の最終ピッチをリードするハマちゃん。山頂ではギャルの歓声に迎えられた模様……うらやましい。(2014/09/06撮影)

馴染みのボルダリングジムのオープン4周年パーティーでワイングラス片手に常連仲間とあれこれ話をしているうちに、ハマちゃん・よっこさんとの間で決まったアルパイン山行。当初は「北岳バットレスへ1泊2日で行こう!」プランで、私がガイドに連れられて初めて第四尾根を登ったときも1泊2日でしたし、その後Niizawa氏と第四尾根から中央稜へ継続したときも1泊2日で行けていたのでこのプランはそれほど難しくはないと思っていたのですが、その後再検討してみると2010年10月の枯れ木テラス崩落でルート状況が変わっていることや、今年は夜叉神峠と広河原の間の林道が通行止めになったことによるアプローチの事情変更などもあってちょっと微妙。そこで勝手のわかっている八ヶ岳に転進することにし、初日を小同心クラック、2日目を中山尾根とする計画を立てました。メインテーマは二人のマルチピッチでのリード体験で、そのためにあらかじめジムでの練習も行ってから当日を迎えました。

2014/09/06

△09:30 美濃戸 → △11:10-12:00 赤岳鉱泉 → △13:10 大同心基部 → △13:25-40 小同心クラック取付 → △15:25-40 横岳 → △15:50 稜線から下降開始 → △16:15 大同心基部 → △17:00 赤岳鉱泉

5時半に私の自宅近くまで迎えに来てくれたよっこさんの「赤い彗星」は石川PAでハマちゃんをピックアップして中央自動車道を信州へ向かいましたが、大月ICの先でまさかの事故閉鎖。大型トラックを含む7台の追突事故のため早期復旧の見込みはなく、大月ICから一部下道を走ることになりました。

それでも思ったほどには遅延することなく、9時すぎに美濃戸に着くことができてラッキー。荷物を振り分けて赤岳鉱泉を目指しました。

テントとロープを持ったよっこさんのリュックサックは重く、途中でロープをハマちゃんにトス。私のリュックサックにはギア一式とロープが入っていますが、荷物調整後でもなお3人の中で一番軽いことに、ハマちゃんもよっこさんも驚いていました。ここらへんの軽量化・コンパクト化は年の功といったところです。

それでも美濃戸から2時間かからずに赤岳鉱泉に到着し、テントを設営して昼食を各自とってから出発です。一昨年の10月にこのルートを経験済みのよっこさんの先導で大同心沢から大同心稜へ上がる頃には西から徐々に雲が広がってきていて暑さが和らいでいましたが、それでも急な登りには息が上がり汗が出てきました。考えてみると私にとってはこの山行はシャモニーから帰国してから初めての山歩きで、実に1カ月以上ぶりです。

やがて、懐かしい大同心と小同心が見えてきました。かつて小同心クラックと大同心正面壁雲稜ルートをワンデイで継続したことがありますが、そのときは他のクライマーが2組ほどいたのに、今日は我々の他に誰も岩に取り付いていませんでした。

まずは大同心の基部を回り込んで大同心ルンゼを下降し、草付を登り返して小同心の基部へ移動。

あらかじめの打合せの通り、小同心のてっぺんまではよっこさんのリードです。取付でロープを結び、よっこさんにギアラックごとギアを渡してハマちゃんがビレイ態勢に入ると、少々おっかなびっくりながらよっこさんは離陸しました。

1ピッチ目は出だしを少し上がってから左へトラバースし、上に見えているチムニーの真下まで移動してからかぶった凹角を直上するライン。よっこさんは慎重にホールドを確かめながら登り、下から2番目のビレイポイントでピッチを切ると後続の確保態勢に入りました。ところが、コールが掛かってハマちゃんが数歩登り始めたところで「ちょっと待って!」コール。よっこさんのビレイデバイスはブロック機能のないただのATCなので支点から折り返してのボディビレイなのですが、そのロープの「折り返し」のところで何か勘違いがあったようでした。

しばしの間の後に再びコールが掛かり、ハマちゃん、私の順にフォローしました。私はアプローチシューズのままで登ったのですが、技術的にはまったく問題ないものの、今年5月に登った裏妙義木戸壁右カンテでぼこぼこの岩が剥がれた経験をしたトラウマが残っているのかホールドが信用できない怖さが蘇り、少々ぎこちない登りになってしまいました。

2ピッチ目はチムニーの中をひたすら上へ登るピッチ。1ピッチ目に比べると傾斜が落ちてきており、最後に両手両足突っ張りでテラスへ抜け出る楽しいピッチです。

今回はよっこさんも落ち着いて支点を構築でき、スムーズに後続を迎えてくれました。善哉。

3ピッチ目は出だしの飛び出した岩をかわして狭いランペ状を小同心最上部の安定した場所まで。このピッチを登るよっこさんをビレイしている間に、隣の大同心の頂上からこちらを眺めている登山者(というよりトレイルランナー風)の姿がありました。彼はよっこさんが2ピッチ目を登っている間にビレイしているハマちゃんと我々の姿を小同心の基部から見上げていたのですが、驚くほど短時間の間に大同心ルンゼを登り詰めてあそこまで行ったことになるわけで、世の中ホントにいろいろな人がいるものです。ともあれこのピッチもスムーズに進んで、さして時間をかけずに横岳山頂が見通せる小同心上部の肩に飛び出しました。

よっこさんがビレイしてくれたところからほんの少し登ったところが小同心の頭で、ここでロープをいったんほどき、横岳の山頂を目指しました。行く手の山頂からこちらを眺める登山者の視線や、山頂直下(硫黄岳寄り)の鎖場からこちらを見て飛んでくる「すごーい!」という黄色い歓声を意識しながらてくてく。

山頂の真下からの最終ピッチは、これも事前の打合せ通りハマちゃんのリードです。まったく危なげなく登っていったハマちゃんは山頂で先ほどの黄色い声の主であるギャルたちの歓迎を受けたようですが、ついでよっこさん、最後に私が山頂に達してみるとギャルたちの姿は既になく、先ほどのトレイルランナー風の若者ともう1人の男子が待っていただけでした。

無念……。

横岳山頂でロープを畳み、行動食をとってしばしまったり。登ってきた小同心を見下ろし、遠くの赤岳や阿弥陀岳、反対側の硫黄岳を眺めて無雪期の八ヶ岳の展望を楽しんでから、下山を開始しました。

折しも東側から吹き上がってきているガスの中にブロッケンが浮かんでいましたが、我々はそちらとは反対の西側、大同心ルンゼの源頭部を下降します。

易しいクライムダウンも交えて小同心と大同心の間を下り、再び大同心の基部を巻いて大同心稜に復帰してから、元来た踏み跡を急降下しました。

登山道に戻ってほっと一息。ここから生ビールが待っている赤岳鉱泉までは5分もかかりません。

赤岳鉱泉でまずは乾杯!NO BEER, NO CLIMBING。テントにギア類を放り込んで、夕食は自炊場のテーブルを借りました。小屋で調達した赤ワインを飲みながらのんびり食事をしているうちにあたりは暗くなってきましたが、就寝前に一つやっておくことがあります。

それは反省会です。よっこさんは支点構築には十分に慣れてきた感がありますが、ロープの引上げが遅く、クライマーがロープの動きを待つ場面がしばしばあったため、その対策を確認する必要があったのです。しかし実は、ビレイデバイスをATCガイド等のオートブロックビレイデバイスに変えて支点ビレイにするだけでこの問題はかなり解消されるはず。安全性に加えてロープの操作性が格段に向上するのですから、これを使わない手はありません。私のATCガイドを使ってみてその有用性を確認したよっこさん、またまたギアが増えることになりそうです。

2014/09/07

△07:50 赤岳鉱泉 → △09:00 美濃戸

4時に起床し5時半に出発の予定でしたが、昨夜夕食が終わる頃から時折激しい雨が降るようになっており、その雨は朝方まで断続的に降り続いていました。残念ながらこの日の中山尾根行きは中止です。

6時頃までシュラフの中でうだうだしてから朝食、そしてテント撤収。

しっとりと濡れた草木や苔を愛でながら歩いて、わずか1時間10分で美濃戸に到着しました。

よっこさん、ハマちゃん、お疲れさまでした。今回、小同心クラックだけしか登れなかったのは残念でしたが、それでもマルチピッチルートを自力で登ることの楽しさを実感できたことと思います。ゲレンデでの練習を重ねて、またどこかの本チャンへ行きましょう。