裏妙義木戸壁右カンテ

日程:2014/05/25

概要:群馬県の裏妙義・木戸壁右カンテで5ピッチのマルチピッチクライミング。

山頂:---

同行:チオちゃん

山行寸描

▲裏妙義木戸壁右カンテ全5ピッチ。ムーブは易しく、岩は脆い。(2014/05/25撮影)
▲3ピッチ目に咲いていたかわいい花。名前は不明……。(2014/05/25撮影)

好天に恵まれそうな5月下旬の週末を無為に過ごす手はないとジム仲間に声を掛けたところ、チオちゃんが応えてくれました。行き先は谷川岳一ノ倉沢(烏帽子沢奥壁南稜あたり)も候補にあがったのですが、もう少しライトなところがいいというチオちゃんのリクエストもあり、近頃静かな人気を集めているらしい裏妙義木戸壁右カンテを目指すことにしました。

2014/05/25

△07:55 国民宿舎裏妙義 → △08:35-50 木戸壁右カンテ取付 → △11:30-12:00 木戸壁右カンテ終了点 → △13:10-15 木戸壁右カンテ取付 → △13:40 国民宿舎裏妙義

私の自宅近くでの待ち合わせが5時半、チオちゃんの車のナビが示す素っ頓狂なルートセレクトに冷や汗をかきつつ国民宿舎裏妙義に着いたのが7時半頃。

国民宿舎の受付に駐車の了解をもらってから身繕い。裏妙義には1999年に登っており、この国民宿舎にもそのときに立ち寄っているのですが、完全に忘却の彼方です。籠沢沿いの道に入って少しの間は舗装路ですが、やがて右へ入る山道になって、籠沢沿いに最初は右岸、ついで左岸に渡り返して徐々に高度を上げていきました。

最初の鎖が出てくる手前に黄色いペンキで道が曲がっていることを示す直角の矢印マークがあり、その右側に下部をオーバーハングさせた岩壁が広がっていました。これが木戸壁であることは一目瞭然で、そこから岩屋の前を進んで1段上がり、さらに先に進んでみるとバンドが木戸前ルンゼとおぼしき沢筋へと続いていましたが、これでは行き過ぎです。そこで少し戻ってみると、頭上にぴかぴかのハンガーボルトが光っているのが見えました。

取付で準備をしていると、チオちゃんが突然「うわー!」と大声をあげました。どこで取り付いたのか小さなヒルがチオちゃんの手に吸い付いており、あわててそのヒルを振り払ったチオちゃんは半分涙目になりながら用意してきたヒルよけの薬を噴霧しまくりましたが、どうやらその辺りには他にヒルはいない模様。ということは、登山道を登ってくる途中にいたヒルだったのかな?ともあれ気を取り直して、ジャンケンで勝ったチオちゃんが1ピッチ目のリードを開始しました。

1ピッチ目(15m):チオちゃんのリード。出だしが垂直の湿り気味の壁を、それでも落ち着いた動作で登っていったチオちゃんでしたが、10mも登らないところで「ラク!」の声。慌てて身を避けるとバスッ!という音と共に拳二つ分ほどの大きさの岩が地面に置いてあった私のリュックサックを直撃しました。ガバだと思って手を掛けたホールドが剥がれ落ちたのですが、これでチオちゃんも私もこのルートの岩が信用できなくなってしまいます。最初は2ピッチ目とつなげて登ってもらう予定だったのですが、この岩の脆さにすっかり恐れをなした我々は「とれるランナーは(流れが悪くならない限り)とる作戦」に切り替えて各ピッチを短く切ることにしました。なるほど、ボルトの間隔が異常に短いのはこういう理由があったのか。

2ピッチ目(15m):私のリード。ぼこぼこの緩斜面を右上してから、左の傾斜のきついフェースに乗り移って直上。技術的にはIV級程度ですが、ガバはかえって信用できないのであえてカチやパーミングに頼らざるを得ないためにIV+くらいに感じました。そしてここはクイックドローを節約するわけにもいかず、手持ちのクイックドローがあと2本になったところで支点が見えなかったために中途半端な位置で支点工作をしなければならなくなりましたが、あと3m登って左に小さくトラバースすればそこに支点が用意されていたことを後で知りました。

チオちゃんも落ち着いた登りで後続してきましたが、下山してからチオちゃんに聞いたところ「こんなところ(2ピッチ目)リードできない」と思ったそう。確かにあのホールド剥離の後では、ここはメンタルが要求されるピッチだったかもしれません。

3ピッチ目(25m):チオちゃんのリード。本来の2ピッチ目の最後の3mを登ってから、易しいフェースを直上して松の木テラスまで。イワヒバや名前のわからない白い花が目立つピッチでしたが、この辺りからだんだん高度感が出てきます。

4ピッチ目(15m):私のリード。松の木テラスから右上し、バンドを右に進んでからカンテを直上。ここにきてホールドがしっかりしたものになり、ダイナミックなムーブを起こせるようになってきました。これは楽しい!

5ピッチ目(30m):チオちゃんのリード。そのままカンテを登って草付ランペを右上したところにある中間支点(4ピッチ目はここまで伸ばしてもよかったかも)を越え、III級程度のフェースを頭上のかぶった岩の基部まで。そこが終了点でした。

終了点の左奥には木や草に覆われたルンゼがあって、そこからさらに高みを目指すこともできるのですが、安定した支点があるのはここまでです。午後から天気が下り坂という天気予報をいい口実にして、ここで行動を終了することにしました。

今回はせっかくだからアルパインっぽくリュックサックを背負って登ってみようということにしていたので、安定したテラスに腰を下ろして靴を履き替え、のんびりと昼食をとりました。

先行パーティーも後続パーティーもいない我々だけのテラスから見渡す景色は奇勝の名にふさわしいものでしたが、目を凝らせば出発点となった国民宿舎の駐車場が樹林の間に見えていました。

後は懸垂下降を繰り返すだけですが、ダブルロープでの懸垂下降ではぼこぼこの岩肌に結び目が引っ掛かるのは必定なので、このルートはロープ1本で短く切りながら下るのが定石となっているようです。我々も60mロープ1本での懸垂下降を繰り返しましたが、松の木テラスのところでは微妙にロープの長さが足りず、最後も2ピッチ分を一度に降りきることができなかったために、全部で5回の懸垂下降となりました。

この木戸壁右カンテは、アルパインというには整備され過ぎており、かといってゲレンデというには不確定要素が大きく、不思議なルートでした。信用できないホールドがもたらす重圧を久しぶりに実感しましたが、アルパインの経験がほとんどないチオちゃんにとってもかなり印象の強いクライミングになったのではないでしょうか。

しかし、いくら怖いからと言っても動揺を顔に出すのは控えめにしましょう。嫁入り前の身なんですから……。