塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

横岳西壁中山尾根

日程:2014/01/16

概要:美濃戸口から行者小屋を経て中山尾根を登攀。地蔵尾根を下りその日のうちに下山。

山頂:---

同行:セキネくん

山行寸描

▲下部岩壁の全容。上の画像をクリックすると、中山尾根の登攀の概要が見られます。(2014/01/16撮影)
▲上部岩壁の傾斜。このクイックドローの向こう側の急壁を登っていく。(2014/01/16撮影)
▲最後のハングを越えて明るい空間に身を乗り出したセキネくん。背後は阿弥陀岳、遠くに御嶽山。(2014/01/16撮影)

八ヶ岳西面にあって歯ごたえのある中級ルートとされる中山尾根に最初に挑んだのは2004年2月のことでしたが、このときは技量不足に加えて心が岩に負けてしまい、まったく不本意な登攀に終わりました。その後、2010年12月にリベンジをもくろんだものの、このときは気象条件が悪く取付敗退。そしてようやく再度リベンジの機会が巡ってきました。パートナーはセキネくんです。

2014/01/16

△05:20 美濃戸口 → △06:05-10 美濃戸 → △07:55-08:15 行者小屋前 → △09:45-55 下部岩壁取付 → △11:15 下部岩壁終了 → △12:15-30 上部岩壁取付 → △13:20 上部岩壁登攀開始 → △13:05 上部岩壁終了 → △14:45 終了点 → △15:00 地蔵ノ頭 → △15:35-16:10 行者小屋 → △17:10-20 美濃戸 → △17:55 美濃戸口

前夜、諏訪南IC近くのファミマで十分な睡眠をとり、4時起床でコンビニおでんの温かい朝食をとって美濃戸口へ。八ヶ岳山荘前の駐車場に車を駐めて、ここから歩き慣れた道をヘッドランプ頼りでどんどん歩きました。

ここを前回歩いたのは先月17日の阿弥陀岳北稜〜赤岳西壁主稜のときですからそれからちょうど1カ月がたっていますが、やはりはっきりと雪が深くなっていました。まさに冬まっただ中です。

やがて、前方に横岳の屏風のような岩壁が見えてきました。いつもなら大同心・小同心の岩峰に目が行くのですが、今回ばかりは日の岳から一気に落ち込んでいる中山尾根のラインに目が釘付けです。行者小屋でトイレ休憩とし、私は前回支払い損ねた分も合わせて200円をチップ箱に入れると、しっかり「軽量化」を果たしました。

そのまま中山乗越まで移動して今度こそ大同心と小同心の眺めに見惚れながら、ここでハーネスとアイゼンを装着しました。中山尾根の基部までは数日前のものとおぼしき踏み跡が残っていましたが、その上に新雪が積もりプチラッセル状態。つまり、我々がこの日の最初(で最後?)というわけです。委細構わずどんどん高度を上げていくと左の方に赤いものが動くのが見えて、目を凝らすと2人組のパーティーが石尊稜の1ピッチ目から2ピッチ目にかかるところでした。石尊稜は2003年2月に登っていますが、こうして横から見るとすごい急傾斜で、よくその頃の下手なテクニックであの急壁を登れたものだと我ながら感心したり呆れたり。

樹林の中の踏み跡はどんどん高さを上げていって、やがて細いリッジ上を進むようになると前方に下部岩壁が見えてきました。ゴーグルを持参するのを忘れていた私は寒風にさらされることを恐れていたのですが、どうやらこの高度では風に吹かれずにすみそうです。

リベンジその1は下部岩壁の1ピッチ目。そのため取付にはセキネくんに先に入ってもらい、しっかりしたハンガーボルトでビレイ態勢を組んでもらって私のリードです。ここから右下へ少し下ったところがスタート地点ですが、そこからの1歩目がまたしても苦労しました。一度は登ったことがあるはずなのに手足をどう組み合わせて登ったらよいのかわからず離陸に手間取りましたが、それでも何とかムーブを見つけて身体を引き上げたら、屈曲したロープの重みに悩まされつつ左上するランペ状の登路を雪かきをしながらじわじわと登ります。ところどころに鈍い光を放つハンガーボルトに励まされながらランペを抜け、露出度の高いフェースからさらにひと登りで安定したテラスに着いて、そこに設置されているがっちりしたビレイステーションにセルフビレイをとりました。

後続のセキネくんはほとんど淀みのない登りで私のところまでやってきて、そこから2ピッチ目のリードにかかりました。ここからのラインは二通りあり、頭上の岩の凹角を直登する難しいラインと、大きく左に回り込んで草付をダブルアックスで登るもの。当初の計画では左へ出るつもりでしたが、真上を見上げたセキネくんは何らかの確信をつかんだらしく直上ラインを選択しました。

ここからの彼のクライミングも見事でした。アイゼンの爪を丁寧に利かせながら一歩一歩確実に身体を引き上げていき、岩の途中2カ所にランナーをとったセキネくんの姿は岩の向こうに消えて、しばらくしてからビレイ解除のコールが掛かりました。後続した私にとっても手応えのあるピッチで、ここをあっさりフリーで抜けきったセキネくんのアイゼン登攀能力に舌を巻きつつ岩の上、数m先の木でビレイしてくれていたセキネくんのもとに着いて、これで下部岩壁は終了です。

下部岩壁が終わればしばらくは易しい雪稜登りとなり、私→セキネくん→私とトップを交替しながらのんびりスタカットで高度を上げましたが、上部岩壁手前のピッチは雪の着き方が中途半端でちょっとばかり緊張しました。

やがて見えてきた上部岩壁は相変わらず屏風のように横に広がった威圧的な姿でこちらを見下ろしていますが、こうして改めて見れば何カ所かに凹角が入っていて、そこが弱点になっていることがわかります。ここでもしっかり整備されたビレイステーションに落ち着き、先ほどからキンクして取り回しに苦労していたロープをいったん外して結び直しました。この上部岩壁1ピッチ目もリードを譲ってもらって私が先行です。

登路はビレイステーションの右の凹角で、その下部は傾斜も緩く問題ありませんが、最初のハンガーボルトにクリップしてからが急傾斜です。かつて登ったときはここを右上してから左へトラバースするラインを選んだと記憶していますが、今回はクラック沿いの急傾斜のフェースを直上することにしました。そちらの方がラインとしては素直だと思えたからですが、落ち着いて探せば手も足も置きどころがあり、丹念な足置きと思い切りとで身体を上げていくことができました。ロープの重さにはここでも往生しかけましたが、なんとか左上に抜けるような形でいったん安定したテラスに達し、そこからかぶった凹角を大胆に態勢を切り返しながら登って、最後は凹角の上の足場が不安定なビレイステーションにセルフビレイをとりました。グレードで言うとIV+、アイゼントレーニングの成果を試されるこれぞアルパインというピッチをリードできて満足。平日に休みをとって足を運んだ甲斐がありました。

後続のセキネくんは、このピッチでもシュアなクライミングでついてきてくれました。せっかくビレイステーションの信頼度が高いのだから、一度くらいは落ちてくれてもいいのに……。

続く1ピッチは比較的緩やかな雪壁の登りとなりますが、ここでセキネくんは想定外のトラブルに見舞われました。出だしの早いタイミングで2カ所の残置ピンにランナーをとった後、セキネくんはするするとロープを伸ばしていったのですが、やがてロープの動きがぴたっと止まってうんともすんとも言いません。しばらくじっと待っているうちに半分ハンギングビレイ状態の腰が痛くなってきた私が「どうした〜?」とコールすると、上からは「ちょっと待って下さ〜い!」のコールが帰ってきました。実は、このピッチの途中の傾斜が変わるところでダブルロープの1本が岩にZ状に絡まってしまって動かなくなり、これに焦ったセキネくんはさらにATCを落としてしまうというミスまで犯してしまっていたのでした。動かなくなった方のロープを束ねながら後続した私は、セキネくんのビレイを肩絡みから半マストに変えてもらって彼が落としたというATCを探そうとしましたが、彼の位置からは見えているというそのATCをどうしても見つけることができず、申し訳ないながら回収を断念することになりました。

続く私のリードのピッチは出だしを左上に巻き上がり、そこから右上して顕著なハングを強引に越えリッジの上に乗り上るというもの。ここまで来ると終了点は目の前で、周囲の景観も急に広々としたものになってきます。

後続のセキネくんを迎え入れていよいよ最終ピッチ。日の岳のてっぺんを目指すラインと目の前のバンドをトラバースして肩状の場所から登山道に合流するラインとがありますが、直上にこだわらなくてもここまでで十分満足しているので前回同様にトラバースするラインを採用しました。途中のハンガーボルトでロープの流れる方向を制御しながらセキネくんがまず肩に達し、ついで私。ほとんど登山道なみに歩きやすいバンドを渡りきれば目の前に赤岳や富士山の姿が一望できる稜線上の小平地となり、そのすぐ下に登山道が走っていました。

これで中山尾根の登攀は終了です。セキネくん、お疲れさまでした。

ロープを畳み、後はよく踏まれた稜線上の雪の上を地蔵ノ頭まで歩いて地蔵尾根を下るだけ。さすがに稜線に出ると多少の風はありましたが、朝方に見た雪煙が舞う烈風の印象とは裏腹におおむね穏やかな散歩道でした。

そして地蔵尾根の途中からも行者小屋の前からも、この日我々が登った中山尾根の岩壁を眺められましたが、こうして登り終えた後では一つ一つの岩の凹凸に数時間前の自分たちの記憶が宿っていることを見てとることができました。