塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

正沢川細尾沢

日程:2012/08/25-26

概要:幸ノ川橋から茶臼山に向かう道を辿り、沢登コースから正沢川へ入渓。初日は細尾沢出合までにして幕営。2日目に細尾沢を遡行して木曽駒ヶ岳に登頂し、ここでケイ氏と別れてケイ氏は起点へ、自分は千畳敷へ下山。

山頂:木曽駒ヶ岳 2956m

同行:ケイ氏

山行寸描

▲細尾沢に入ってすぐの細尾大滝40m。上の画像をクリックすると、正沢川細尾沢の遡行の概要が見られます。(2012/08/26撮影)
▲上流の連瀑帯。この辺りは次から次へと易しい滝が続いて楽しいところ。(2012/08/26撮影)

名古屋在住のケイ氏との今回の沢登りは、昨年も計画しながら雨で流れた中央アルプスの正沢川細尾沢。木曽駒ヶ岳に北側から迫るこの沢は中流域の連瀑帯と真っすぐ山頂へ突き上げるロケーションが魅力の易しい沢ですが、アプローチが短ければ日帰りでも行けるので土曜日の朝8時すぎに新宿を発つ高速バスで木曽福島へ向かいました。ただ、途中の「道の駅 日義木曽駒高原」でケイ氏と落ち合うことにしていたものの中央自動車道の渋滞のためにバスは1時間以上遅れ、道の駅に着いたのは14時近くになってしまいました。

2012/08/25

△14:25 幸ノ川橋 → △14:55-15:05 入渓点 → △16:20-25 玉ノ窪沢出合 → △17:05 細尾沢出合

ケイ氏の車で木曽駒高原スキー場(跡地?)に乗り入れ、道案内の看板に従ってくねくね道をどんどん上がって福島Bコースの下山口を少し過ぎた樹林の中の幸ノ川橋のたもとに駐車しました。今日はここから細尾沢出合までの比較的短いゴーロ歩きです。

幸ノ川橋を渡ってしばらく行くと左に茶臼山コース、右に沢登コースの分岐標識があり、ここを右にとると樹林の切り通しのような草ぼうぼう(トゲ草が痛い!)の道が長く続いていましたが、その道は唐突に消えてしまいます。正沢川がすぐ左を流れていることはわかっているのでそちらにルートをとると黄色いテープがさらに続いていて、その少し先で入渓となりました。

きれいなエメラルドグリーンの淵もありはしましたが、下流域は基本的にゴーロに終始してはっきり言って退屈です。大きな丸岩を右に左に交わしながら遡行しているうちに左岸から入る水晶沢か悪沢のどちらかは出合を見逃しましたが、明瞭なインゼルを過ぎたところでやはり左岸から出合う玉ノ窪沢は見逃しようがなく、ここで小休止。さらに進んで右岸に岩壁とそのすぐ上流の10m滝を認めれば先は見えたようなもので、なんとなくゴルジュっぽい狭隘部を過ぎたところがこの日の宿り場になる細尾沢出合です。出合の手前の右岸の樹林の中にも平坦地がありましたが少々手狭なので、ケイ氏があらかじめ調べてくれていたトポの記述に従って細尾沢と正沢川本谷とに挟まれた岬状部の本谷側に格好のテントサイトを見つけ、そちらにテントとタープを張ることにしました。

ここにはつい最近も誰かが泊まっていたらしく、新しい焚火の跡と薪の山が残されておりありがたく使わせていただくことにしましたが、これだけでは不足なので、私はテントを設営し、ケイ氏も持参したビールとワインと日本酒(それも瓶ごと)を沢に沈めた後は、2人してせっせと薪をかき集めました。

諸々の準備が調ったところでまずは缶ビールで乾杯!ケイ氏が私のために用意してくれた夕食は名古屋名物・どて丼(レトルト)で、炊きたてのご飯に八丁味噌の味が甘く絡んで美味でした。例によって一発点火の焚火もいい具合に燃え上がって、気分良くビールからワインへ、さらにケイ氏は日本酒へとお酒を飲みながらまったり過ごしているうちに、いつの間にか21時半を回ってしまっていました。

2012/08/26

△06:00 細尾沢出合 → △06:30 細尾大滝下 → △07:05 高巻き終了 → △10:10-15 稜線 → △10:30-11:00 木曽駒ヶ岳 → △11:30 乗越浄土 → △1150 千畳敷ロープウェイ駅

午前4時起床。この日は細尾沢を木曽駒ヶ岳の山頂まで詰めて、一気に下山する長丁場となります。

すぐに火を熾して朝食の具沢山ラーメンをいただいてからも、あれやこれやと時間がかかって出発は午前6時になりました。あたりはすっかり明るくなり、暑からず寒からず、ちょうどいい気候の中で細尾沢に入ることができました。

すぐに出てくるつるんとした5mの斜瀑を、ケイ氏は右からフリクションとバランスで越え、私は左の階段状から。そしてその先のガレた沢筋を高度を上げながら進んでいくと、前方に左上から豊富な水量で入ってくる細尾大滝が見えました。

細尾大滝は正面に回り込むと高さも水量も立派で、根性があれば水流の右側を直登することもできなくはなさそうですが、この水量だと相当水をかぶることになるので未練の欠片もなく却下。高巻きルートは滝の左にも右にもあることになっていますが、左から脆い岩壁を登っていくラインはちょっと取り付く意欲が湧かず、よく登られている右のガレ沢を詰めることにしました。手元のトポでは左岸のガレのルンゼを登り、草付を斜上し樹林帯に出る。さらに高度感がある草付をトラバースし、踏み跡をたどり再び樹林帯を直上し、沢に戻るとありますが、Web上の知り合いであるsudoさんの単独行での記録によれば途中からトラバースに入らずにルンゼをさらに詰めて上の方から左の尾根を乗り越せば安全に高巻くことが可能とのことだったので、そのラインを試してみることにしました。

滝を左後方に見て右上するガレ沢を詰めていくと、確かに滝の落ち口ほどの高さの位置で左の樹林帯に続く踏み跡が見えましたが、上述の理由でここはスルー。さらに高度を上げると左から枝沢が入ってきて、そちらへ自然に導かれていくとごく簡単に尾根筋へ乗り上ることができました。そこから乗り越した場所にも踏み跡があり、少し下ると悪そうなザレにぶつかったのでいったんはロープを出してここを渡ろうとしましたが、ふと、単にザレを上から回り込めばいいだけでは?と思い付いてロープをしまいほんの少しの高さを登り返すと案の定ザレの上縁の樹林の中をトラバースするラインがあって、そこからロープを要することなく細尾大滝の落ち口の少し上に下り立つことができました。

なるほどsudoさんが見出したように、このラインは高度感がある草付をトラバースすることもなく安全に細尾大滝を高巻けるようになっており、多くの記録が草付トラバースの際にロープを出して時間をくっていることを考えれば、こちらがむしろ合理的なルートであると言えそうです。

細尾大滝の高巻きを終えてからがこの沢の楽しいところで、まずはゲートのような形状をした小滝が次々に現れますが、どれも左や右からごく簡単に越えていくことができます。途中2カ所で焚火跡を見ましたが、結局この沢旅では山頂まで我々以外の誰にも会うことがありませんでした。

やがて滝の形がゲート状から階段状に変わってきますが、傾斜は緩くてロープの必要性は感じません。

立派なナメ滝も続けざまに出てきますが、ラインを見出すのは容易で、初日のゴーロ歩きの退屈さを補って余りある楽しさです。

途中何カ所かの二俣はごく自然に右にルートをとって、1カ所だけ雪の残るゴーロから顕著な巨岩を過ぎると、水量のぐっと少なくなった二俣になりました。水を追えば右なのですが、地形図とコンパスをにらめっこして山頂に向かうならこちらだろうと左を選択しました。水はすぐに涸れ、ハンノキとナナカマドのトンネルをくぐるようにして高度を上げて、最後の二俣は本流っぽい左にとりましたがこれは失敗だったようです。右に向かえばダイレクトに木曽駒ヶ岳の山頂へ出られたかもしれませんが、実際に我々が向かったところは山頂から馬の背方向へ外れたところになってしまいました。

傾斜はそれほどきつくないものの、それでも岩の脆さに緊張する長いルンゼを日に炙られながらひたすら詰めてやっとの思いで稜線に到着すると、そこには馬の背の登山道が走っており、木曽駒ヶ岳山頂や駒ヶ岳頂上山荘も10分ほどの距離に見えています。沢装備を解除して快晴の空の下をのんびりと木曽駒ヶ岳山頂に向かい、祠の前でケイ氏と握手を交わしました。

団体客も含めて大賑わいの山頂の一角にリュックサックを下し、ケイ氏が大事に担ぎ上げてくれたパイナップルや白桃で無事の遡行終了を祝ってから、ここでケイ氏と別れることにしました。ケイ氏は福島Bコースを下って車を置いてある木曽駒高原へ降り、私は千畳敷へと下ります。

中岳は右から巻き、浄土乗越から千畳敷カールへ下る道は渋滞していましたがそれでもそこそこスピーディーに下ることができて、少々盛りを過ぎた感のあるお花畑の中を歩いて千畳敷ロープウェイ駅に到着すると早くも下りのロープウェイ待ちの行列ができていましたが、30分ほどでロープウェイに乗ることができました。

正沢川細尾谷は、出合までの2時間半を我慢すれば後は中央アルプスの楽しい沢登りを満喫することができる良渓でした。適切なラインをとればロープを出す必要もなく、また山登りの経験をある程度積んでいれば最後のガレの詰めもさほど問題にはなりません。東京を土曜日の朝に出ても十分1泊2日で遡行できる手軽さも魅力で、沢登り初心者を連れて行くには格好の沢だと思いました。そういう意味では、ケイ氏には少々物足りない沢だったかもしれませんが、そうであれば来年はより意欲的な課題を見つけてまたご一緒したいものです。

これは下りのロープウェイから見た中御所谷のスラブ滝群。ここは2009年に遡行していますが、上から見ると「よくあんなところを登ったな!」と感慨しきりです。実際は簡単だったんですが。