塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

日原川鷹ノ巣谷

日程:2012/05/26

概要:ジム仲間チオちゃんと奥多摩の日原川鷹ノ巣谷へ。私にとっては今年最初、チオちゃんにとっては初体験の沢登り。

山頂:---

同行:チオちゃん

山行寸描

▲側壁を登る。久しぶりの沢登りのため私もソールのフリクション感覚を要再構築。(2012/05/26撮影)
▲2段18m大滝。上の画像をクリックすると、日原川鷹ノ巣谷の遡行の概要が見られます。(2012/05/26撮影)
▲鷹ノ巣谷の随所で見られた古代遺跡のようなワサビ田跡。どこかに仕事道が走っているのだろうか?(2012/05/26撮影)

ボル友チオちゃんから沢登りをしてみたいと言われたのは今年の春だったか、あるいは以前御岳渓谷でボルダリングをしたときにこちらから誘ったのか記憶が定かではありませんが、とにかく今回はチオちゃんの初沢登り。行き先選定を委ねられた私はどこにしようかとガイドブックのページを繰って、そこそこ人気もあり、かつ私がまだ行ったことがない日原川鷹ノ巣谷をチョイスしました。ガイドブックには登れる滝が連続し、入渓者も多い人気の沢である。標高差1000mを遡行した後は、稲村岩尾根の急下降を一気に下山するという体力ルートとありました。

2012/05/26

△10:10 東日原 → △10:25-45 入渓点 → △12:45-13:20 2段18m大滝 → △13:25-45 二俣 → △16:10-25 稲村岩尾根登山道 → △17:10-40 稲村岩 → △18:20 東日原

ホリデー快速でハイカーだらけの奥多摩駅に着いて、バスで東日原へ移動。ここからわずかの距離の車道歩きで、鷹ノ巣山へ向かう登山道に通じる狭い階段が左に下っています。向こうにはクメール様式の堂塔を連想させる特徴的な姿の稲村岩が見事にそそり立っていました。

階段を下って上流方面へ下降気味にしばらく歩くと巳ノ戸橋に着き、これを渡ってすぐに鷹ノ巣山への登山道を分け、今度は下流に向かいます。ほんの少しの歩きで朽ちかけた橋が現れたらそれが鷹ノ巣谷ということになるのですが、この辺りの渓相を見るとなんだかしょぼい感じ。それでも橋からわずかに上流に進んだところを入渓点として装備を身に着け、いよいよ沢に入りました。

遡行を開始してすぐにトイ状の小滝が出てきて、これは右のカンテから。続いて比較的高さのある複雑な形状のナメ滝を、最初は水流の右を登り、上の方で引っ掛かっている流木を使って水流左に渡って突破しましたが、初沢登りのチオちゃんにはこの出だしの小滝群がいい足慣らしになった模様です。その先の石積み堰堤を右から越えるといったん河原状になり、きれいに石垣を組んだワサビ田の跡も出てきました。腰までつかる釜を右から抜けて、諸行無常を感じさせる石積み堰堤をさらに三つ通過してしばらく進むと、ゴルジュ状の地形の中に最初の3段12m滝。これは下段を右壁に乗り上り、その先のくの字形になった滝を右から登って上段のカンテの途中から水流を左へ渡ります。先行した私はノーロープで登り、水流が強かったので後続のチオちゃんには上からロープを投げましたが、カンテの途中の小テラスに残置ピンがあったので、最初からロープを出した方がよかったようです。

この滝を越えると正面に細くて急な沢が見えていますが、これは枝沢。本流は左に折れた方向で、そちらに進むとすぐに前衛滝を持つ二つ目の3段12m滝(合わせて4段滝と言うこともできそう)が現れます。下段は簡単で、中段は右壁を気分良く登れますが、最後に待っている3mほどの滝が曲者。見れば横長の滝の右端の凹角部に残置ピンが2本あり、ロープを出してそちらを登ることにしましたが、実際に取り付いてみると手掛かり足掛かりが少々乏しく、自分でかけたクイックドローをつかんでのA0で突破しました。今回はここが一番難しかったのですが、ネット上の他の記録を見てもあまりこの滝に言及していないので、もっと易しく登るラインがあったのかもしれません。

二つの多段滝を過ぎてしばらく進むと、この沢のハイライトである2段18m大滝が出てきました。豊富な水量で上段は垂直に水を落とし、下段も激しく溢れ出す感じで迫力がありますが、右壁は比較的傾斜が緩くホールドも豊富そうですし、ビレイ用のリングボルトも2本打たれていて確かにここが人気の沢であることを窺わせます。チオちゃんはスポートルートのクライミングでは私よりずっとスキルが高いのですが、マルチピッチで後続を迎えるための支点構築は未経験。しかしこの易しい壁なら下手の私でも落ちてチオちゃんを巻き添えにする危険もなかろうと、試みにチオちゃんにリードを任せることにしました。上に着いたら真っ先にセルフビレイをとることを強調し、おおまかな支点構築の方法と後続とのコミュニケーションルールを伝え、声が聞こえないだろうからと笛も渡して送り出すと、チオちゃんはするすると登っていきました。

しばらくしてロープの動きが止まったので見上げてみると、うまい具合に壁の上に立ったチオちゃんとアイコンタクトが可能でした。ロープを引き上げてもらい、チオちゃんがビレイOKのマークを出したところで私も登り始めましたが、残置ピンは下段に1カ所、上段にも1カ所。その間にテントも張れそうなほど広くて平らなテラスがあり、これをはさんで上段はほぼ階段状でしたが、下段は大きな浮き石や剥がれそうなフレークなどがあって、若干の慎重さが必要でした。それでもすぐに上に着いてみると、こちらにもやや古いリングボルト2本が打たれてあって、チオちゃんはそこにカラビナを介してスリングをセットしていましたが……支点の作り方については、日を改めてじっくり話し合おう(笑)。ともあれ、ビレイしている間に2人とも少々身体が冷えたのでもう少し歩き続けることにしました。

この沢に入った最初のうちは、私が先行して沢の中を進むラインを示していたのですが、この辺りになるとチオちゃんも沢での歩き方が身に付き、私の前を歩く場面が増えてきて沢登ラーらしくなってきました。その後ろ姿を頼もしく見ているうちに到着した二俣は左が金左小屋窪、右が水の戸沢で、我々が向かうのは後者ですが、ここまで3時間近くも行動しづめだったので大休止をとることにしました。

行動食をとり、簡単に支点構築の方法のおさらいをしてから右俣にあたる水の戸沢へ入ると、随所にかなりしっかりと造成されたワサビ田の跡があって驚きました。まるで古代遺跡の世界に踏み込んだかのよう……といっても朽ちた網などを見るとせいぜい数十年前まで現役で使用されていたようですが、石積みはとても人力のみで組めるような代物とは思えず、ここまでどのように仕事道を通していたのか不思議でなりません。

その先でポイントになるような滝は短いゴルジュ地形のトイ状の小滝のみで、ここをステミングで楽しく越えたら後はおおむね河原が続くばかり。そして標高1300mの二俣で水流を左に見送って右俣に進めば、あっという間に伏流になって沢はツメの様相を呈しました。傾斜のきつい沢形の登りは山登りの経験があまり豊富ではないチオちゃんには苦行だったらしく、この辺りから息が上がり始め、さらに何度かふくらはぎをつらせて立ち止まる場面が出てきます。沢筋が左に曲がって細い倒木に覆われるあたりで左の緩やかな尾根筋に進路を変え、斜面上を蛇行するうっすらした踏み跡(獣道?)を柔らかい土に足を滑らせながらひたすら高度を上げていくと、前方にタワが見えてきました。きっとあそこを登山道が走っているはず。あと少し、頑張ろう!

広葉樹の中の明るい斜面を登り続け、最後まで藪漕ぎなく稲村岩尾根の登山道に到着。健闘を称え合って握手を交わし、沢装備をリュックサックにしまってハイカースタイルに戻ると、急降下ながらよく整備されてとても歩きやすい尾根道を下りました。広葉樹の新緑がとても美しく、途中にはツツジの群落がピンクの花をたくさんつけていたり、大きな鹿が白いお尻を見せてこちらを眺めていたりと飽きることがない道をずいぶん下ったところで行く手に岩山が現れましたが、標識を見て初めて、これが下から見上げていた稲村岩だということがわかりました。幸いバスの時刻までは余裕があるので、帰りがけの駄賃にと稲村岩のてっぺんを踏むことにし、少々へこたれ気味のチオちゃんには下で待機してもらって私だけが稲村岩山頂に登ったのですが、岩山ながら道は明瞭で危険もなく、祠をまつった山頂からは東日原の集落が間近に見下ろせて好展望でした。

後は、ひたすら登山道を下るだけ。急斜面につけられた滑りやすい道はすぐに斜度を緩めて、稲村岩の下部の岩壁を回り込むように下界を目指します。とうとう見覚えのある巳ノ戸橋に戻ったとき、チオちゃんは思わず「感無量〜!」。

チオちゃんにとって初めての沢登りにしてはちょっとハードだったかもしれませんが、滝の登攀はそこそこ手応えがあり、歩きの長さやツメの辛さも存分に味わえてガイドブックの記述通り。鷹ノ巣谷は、ある意味沢登りらしい沢登りができる沢でした。そしてどうやらチオちゃんは、その沢登りを十分過ぎるくらいに楽しんでくれたようです。お疲れさまでした!よく頑張った!

沢登りが終われば、やはり温泉に入りたいもの。奥多摩駅近くの「もえぎの湯」がこの辺りでは定番ですが、東日原のバス停に着いた時刻からするととても営業時間に間に合いません。そこでチオちゃんがiPhoneで検索して見つけてくれたのが、河辺駅の目の前にある「梅の湯」でした。アクセスは抜群、施設も充実しており、食事もちゃんととれて、おまけに23時30分までの営業というのがありがたいところ。奥多摩方面でのアクティビティを終えた後にお風呂に入りたい向きにはかなりのお勧めです。湯につかってさっぱりした我々がここで生ビールでの祝杯をあげたことは、言うまでもありません。