塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

登川米子沢

日程:2010/10/02

概要:米子沢を遡行し、巻機山避難小屋へ。そのまま巻機山の頂稜に出て、割引岳、巻機山、牛ヶ岳と連なるピークを逍遥し、井戸尾根を下山。

山頂:巻機山 1967m / 割引岳 1931m / 牛ヶ岳 1962m

同行:ケイ氏 / ゴディーさん

山行寸描

▲へつりが面白い6m樋状滝。上の画像をクリックすると、登川米子沢の遡行の概要が見られます。(2010/10/02撮影)
▲ゴルジュ出口の20m滝。見事な造形美を堪能。(2010/10/02撮影)
▲天国につながるような大ナメ。上部に行くほど傾斜が緩やかになっていく。(2010/10/02撮影)

10月最初の週末は、手持ちの「いつか行きたい沢リスト」の中から越後の名渓・米子沢を選びました。単独で行くことも考えましたが、明るいナメが特徴の米子沢は複数人でわいわいと登りたいもの。そこで8月に岳沢のコブ尾根を一緒に登ったケイ氏に声を掛けたところ、ケイ氏の知り合いのゴディーさんも同行することになり、3人での遡行となりました。

2010/10/02

△06:30 駐車場 → △06:40-07:00 最後の堰堤 → △07:40 ナメ沢出合 → △09:55 2段15m滝 → △11:20 二俣 → △11:35-55 避難小屋水場 → △12:00 避難小屋 → △12:20 御機屋 → △12:40-45 割引岳 → △13:00 御機屋 → △13:10 巻機山 → △13:30-45 牛ヶ岳 → △14:00 巻機山 → △14:05 御機屋 → △14:20-25 避難小屋 → △16:25 駐車場

前夜東京を発って関越自動車道を北上し、巻機山登山道の入口近く、米子沢にかかる橋の手前の駐車場に着いたのは午前1時より前。そのままケイ氏の車の中にシュラフで3人で寝て、5時半起床で食事、身繕い等を済ませてから、駐車場のすぐ前に見えている左岸の舗装道に入りました。その入口には「危険 米子沢 遭難事故多発中」の看板、そして「工事関係者以外立入禁止」と書かれた車止め。前者は「十分に気をつけます」、後者は「車でなければいいんでしょう」と言い訳をして緩やかな舗装路を進み、ここと思われる分岐から沢に向かうと、米子沢の橋から上流に連なる堰堤群の最後の一つの手前にぴったり下り立ちました。ここで沢装備を身に着けて堰堤の真ん中の割れた部分を通過すると、しばらくは伏流になってごろごろの河原になり「本当にこの上にナメ沢なんかあるのか?」と疑いたくなるところですが、そこを我慢しながらしばらく進むうちに水音がし始め、流れも現れて「そろそろかな」と思っていると前方に5mほどの2条滝が見えてきました。ここからが滝場の始まりです。

2条滝は右端から簡単に登り、その上のくねった水流の勢いや急に大きさを増した岩のフリクションを確かめながら登ると、右岸にナメ沢を合わせる二俣に到着しました。ここからは本流とナメ沢の間の巻道を抜けていくのが一般的なのですが、極力水流通しを歩きたいので巻道の入口からちょっと上がってすぐに本流に戻ると目の前には細長い瀞があり、その奥にあるのが6mの樋状の滝。右岸の壁は立ってはいますが、岩のひだひだがランペを重ねたようになっていて、これをうまくつないでいけば落ち口に達せられることは事前にネットで調査済みなので「ここは私が」と水面近くまで下りてノーロープで奥へ進みました。動きとしてはランペを上がっていっては次のランペに乗り移ってということの繰り返しになるのですが、しかし見た目とは裏腹にホールドがどれも甘く意外に微妙(たぶんIV級)。これは予想外だ!と思っても後の祭りで、緊張しながらじりじりと前進して落ち口の近くまで到達すると、そこには古いテープスリングがお助けとして設置されており、これをつかんで最後の一歩を落ち口の上に伸ばしました。ふ〜助かった、と思って振り返ると後続のパーティーの人たちも手を叩いて喝采してくれたのですが、「いや、いいものを見させてもらいました」といった感じでさっさと巻道に戻ってしまいました。えっ、後続してくれるんじゃないの?と呆然としていたらゴディーさんまで「私はここは遠慮します」と巻道へ。一人残ったケイ氏が果敢に同じルートを登ってくれて、最後の一歩でずるっといきかけましたがスリングに助けられ無事に突破しました。

樋状滝の上はすぐに3段40m滝ですが、これは右から樹林や草付の中の踏み跡をたどって巻き上がり、上流で右岸巻きを終えて我々を待ってくれていたゴディーさんとも合流できました。そこから5m滝を一つ左から巻いて、ぼこぼことした感じの滝(というか傾斜というか)を越えると、目の前には10mほどの滝。左壁を登り、水流をまたいでその上の滝を右から越えると、しばらくは歩きやすいナメや釜をもった小滝、そして短いゴーロの先の壁で矍鑠たる大ベテランばかり5人パーティーに追いつきました。ご本人のみならず履いている沢靴までも年季が入った感じの皆さんでしたが、米子沢は初めてらしく「この後難しいところはあるかな?」。いや、まだ始まったばかりだと思いますよ。

さらに少し上流で、両岸が思い切り狭まったところに強い水流をほとばしらせている樋状の小滝が現れました。年配の女性を含む4人パーティーが水流のすぐ左のラインを越えようとしているところで、けっこう苦戦している様子です。手前の釜を突破して水流の右側に取り付ければ比較的易しそうですが、この時期に水に浸かる気にはなれず、ロープを引いた私が後続することにしました。4人パーティーのラストの男性は年配女性をアシストして登らせると自分はすいすいと登っていき、その様子を見ていた私も手順足順を真似。水流左のちょっと高い位置につるんとした細い樋状の凹みがあって、その下方に右足の位置を決めてから左足を左壁の出っ張りに固定し、同じく左壁のホールドをつかんでよっこらしょと身体を引き上げれば簡単に右足を凹みの位置まで上げられて、後は簡単な登りでした。ケイ氏もロープなしで、ゴディーさんはロープで確保された状態でそれぞれ上がってきたところで振り返ると、先ほどのベテランパーティーが到着しています。人生の先達たちの無事の遡行を祈りながら先に進むと、前方に大きなスダレ状の美瀑が登場しました。沢筋の左側に横向きに水流を落とし、その上には日に当たって明るくなった樹林や岩を見せている一風変わった景観を楽しみながら滝の右手の斜面を登ると、滝の上には先行者たちがぞろぞろと休憩していました。

小休止の後、遡行継続。緩やかな岩の斜面の真ん中を断ち割ったような多段滝を左右から適当に登ると、左岸に小さい支流(日影沢)を合わせて2条滝が落ちていました。ここがゴルジュの始まりですが、見れば先ほどの年配女性を含む4人パーティーはゴルジュを右から巻くようについている巻き道に入ろうとしています。米子沢はこのゴルジュ突破が楽しいところらしいのに……と思いましたが、声を掛ける間もなく4人の姿は樹林の中へ消えてしまいました。そしてゴルジュに入ったのは単独行の男性と男性2人+女性2人の4人パーティー、続いて我々です。

ゴルジュに入って最初の滝は左から、続く滝は右から。狭いゴルジュですが威圧感はなく、滝を越えるルートはいずれもはっきりしており技術的にも問題になるところはなく、ロープを出す必要性はまったく感じません。

水面下にテーブルストーンが沈んでいる穏やかな瀞の先にチョックストーンの小滝があり、ここは左壁の上を歩いて小さくクライムダウン。チョックストーンの上を渡ると円形ホールのような釜があり、その奥に2段8mほどの滝がかかっていて一見迫力がありますが、ホール釜を右に回り込んで右壁に取り付けば簡単に越えられます。その奥がゴルジュの一番狭いところで、右壁の上の踏み跡をたどれば眼下にS字状の流れ、そしてゴルジュの出口となる20mほどの大滝。ここも自然の造形の妙を堪能できるところで、先行パーティーはゆっくり写真を撮っているので先を行かせていただき、滝の右壁から簡単に登りました。

目の前の2段15m滝は上段の水流左に残置スリングがあり、輪が作ってあったのでそれをアブミにして登ることもできるのでしょうが、これを横目に上段の壁の左奥の凹角を登れば小さく巻くようにして滝の上に出られました。

そして、ここからが待望の大ナメです。真っ青な空の下に飛沫を上げさせながら豊富な水を落とすナメの眺めは最高ですが、大ナメの下部はナメというよりは大まかな階段状といった感じで傾斜が比較的強く、また岩は苔のせいか滑りやすいのでしばらくは細心の注意が必要。それでもすぐに出てくる10m滝を左壁から(練習も兼ねてロープを出して)越えると、斜度は緩やかになって本当に癒し系のナメになってきました。ここからは登っても登ってもナメ。あまりの快適さにゴディーさんも私も「神様ありがとう!」と歓声をあげ、ケイ氏は乾いた岩の上に腹這いになってトカゲの真似をしたりしています。

「このままさっさと登るのはもったいない」と幸福な食事休憩をとった後も、さらにナメは続きます。左右の斜面は草原になって穏やかに低くなり、相変わらず豊富な水はまるで天から滑り落ちてきているかのよう。登れば登るほど沢の傾斜は緩やかになりますが、さすがにだんだん水量が落ちてきて、やがて小滝を連ねるようになってきます。

どの小滝も快適に登れてケイ氏とゴディーさんはてんでにラインを選んで進み、私はといえば2人の後ろについていくのが精いっぱい。そういえば2人とも富士登山競争の完走者、道理で速いはずだ……。

黄色がかった草原に覆われたたおやかな起伏の間を縫うようになった沢はやがて二俣となり、ここを右俣方向に行けば巻機山頂に突き上げることになりますがそちらは植生保護のため入山禁止です。よって左俣に入って15分ほど歩くと、ずっと先の方に登山道があり、そこを登山者が登り下りしている姿が見えてきました。そして終了点は避難小屋の水場になっており、目印になるような人工物はないものの道が沢を離れて左に伸びていることではっきりとわかります。このまま沢筋を詰めても御機屋の下の登山道に出ることはできそうですが、セオリー通りここで遡行終了としました。

沢装備をしまっているうちに、前後しながら歩いていた単独行の男性と男女4人パーティーも到着。我々は一足先に避難小屋まで上がって、後は一般登山道を稜線へと登りました。巻機山には20年前に登っているのですが、そのときは残雪期で、おまけにガスに巻かれて視界がまったくなかったために登頂したという実感がありません。そこで、山頂標識のある御機屋から西の割引岳と東の牛ヶ岳をそれぞれピストンしました。

すっきり尖ったピークの割引岳からは越後三山(八海山・越後駒ヶ岳・中ノ岳)がよく見え、一方、寝そべった牛の背中のように茫洋とした牛ヶ岳の山頂からは巻機山から割引岳にかけての穏やかな稜線が眺められます。それらの間には数は多くないものの池溏も点在し、とても楽しいハイキングコースでした。ところで、実は巻機山の最高点は御機屋ではなくその東に10分ほど進んだところにあり、そこには山頂標識がないかわりにケルンが積まれていました。20年前に登ったときに山頂と認識した場所には標識がありましたから、もしかするとそのときは最高点には達していなかったのかもしれません。

山上漫歩を終えて御機屋から避難小屋に下りニセ巻機(九合目)に登り返せば、背後に巻機山本峰のなだらかな斜面が広がっています。その懐に向かって沢筋が入り込んでいて、右手の山頂に向かっている沢筋は進入を控えた右俣、そして眼下を横断して左の登山道に向かっているのが我々が辿った左俣。その左俣を遡行する沢登ラーたちの姿も見えましたが、我々に対して3時間遅れで到着した彼らがゴルジュ手前の巻道に入ってしまった4人組なのか、それとも大ベテランパーティーだったのかは遠くてわかりませんでした。

去りがたい景色を何度も振り返りながらニセ巻機の突端へ進み、後は長い井戸尾根をひたすら下るのみ。途中の五合目からは米子沢の滝もよく見えていましたが、これも、見えている滝のどれがどの滝なのかを同定することはできませんでした。