北岳バットレス第四尾根

日程:2009/08/22-23

概要:初日に広河原から一気に第四尾根登攀を終えて稜線に泊まる予定だったものの、あいにくの気象条件のために取付を確認しただけで白根御池小屋へ転進。翌日、Bガリー大滝から下部岩壁を登って第四尾根取付へトラバースし、第四尾根を終了点まで登って山頂から草すべり経由で広河原まで下降。

山頂:北岳 3193m

同行:常吉さん / トラジロさん / マッキーさん

山行寸描

▲おなじみ第四尾根。1日ずらしたおかげで良好なクライミング日和に恵まれた。(2009/08/23撮影)
▲Cガリーの向こうの第四尾根。青空に吸い込まれるようにラインが伸びている。(2009/08/23撮影)
▲第四尾根出だしのクラック。こんな感じで大賑わい。(2009/08/23撮影)

常吉さんとのつきあいは3年ほどにもなりますが、意外にもアルパインでロープを結んだ経験はありません。そこで今年はどこかでご一緒を!とお願いしていたのですが、ある日常吉さんから電話が入り北岳バットレスの第四尾根へ行きたいとのこと。既に3回も登っている第四尾根でしたが、0.5秒後には「行きましょう!」と返事していました。これに同行することになったのは、常吉さんの所属する山岳会のトラジロさんとマッキーさんです。

2009/08/22

△06:50 広河原 → △08:45-09:00 大樺沢二俣 → △10:20-50 Bガリー大滝取付 → △12:10-20 大樺沢二俣 → △12:40 白根御池小屋

前夜JRで着いた甲府駅前で仮眠してからバスで広河原に着いたところで、車で芦安駐車場まで来てバスに乗り継いだ常吉さんたちと合流。初対面の挨拶もそこそこに大樺沢を登る道に入りました。このだらだら登りはストックが有効ですが、アルパインやるくせに軟弱なと思われたくなかったので持参しないで来たところ私以外の3人はしっかりストックを持参していてがっくり。山に登るのに見栄を張るものではありません。ともあれ計画ではこの日のうちにバットレスを登って一気に稜線に達し北岳山荘に泊まる予定ですが、あらかじめ山荘に確認したところでは毛布1枚に客2人という混み具合だと予告されていました。

トラジロさんの先導でいいペースで二俣に着きましたが、頭上はガスが垂れ込めてコンディションとしてはイマイチ。とりあえずBガリー大滝までは行ってみようと先に進みましたが、いつもながら二俣からバットレス沢までの登りは意外に遠くちょっとしんどい思いをしました。やがて目印のボルダーを見つけ、明瞭な踏み跡を辿ってBガリー大滝の下に到着しましたが、あたりはすっかりガスの中で壁は濡れてしまっています。これを見ての協議の結果、この日は白根御池小屋に転進して翌日早立ちでの登攀とすることにし、元来た道を下りました。

二俣からやや登り気味の水平道を20分ほどで去年も泊まり場とした白根御池に着きましたが、今回は優雅に小屋泊まりです。リュックサックを部屋の前に置き北岳山荘には宿泊キャンセルの電話を入れてから、さっそく小屋の前で生ビール(850円也)で乾杯しました。ビールのおかわりやらマッキーさん持参の焼酎やらですっかり出来上がりそれぞれに昼寝タイムとなりましたが、そうこうしている間にガスは上がって、小屋の前庭から第四尾根のマッチ箱がはっきり望めるようになりました。

2009/08/23

△02:40 白根御池小屋 → △03:00 大樺沢二俣 → △04:45-05:10 Bガリー大滝取付 → △06:40-07:10 第四尾根取付 → △08:30 マッチ箱のピーク → △09:15 枯れ木テラス → △09:35-10:20 靴脱ぎ場 → △10:40-45 北岳山頂 → △11:20 肩ノ小屋 → △12:35-13:10 白根御池小屋 → △14:25 広河原

予期に反してゆったり眠れた一夜が明け……てはいない午前2時に起床。テント組がごそごそしている中をヘッドランプの明かりを頼りに水平道から二俣、そしてバットレス沢へと登ります。前後にクライマーのヘッドランプが動いているのを見たり、一般道を登るはずが誤ってバットレス沢へ引き込まれていた登山者に正しい道を教えたりしながら、明るくなりかけてきた頃にBガリー大滝に到着しました。こんなに早く出たのに取付にはビバーク組も含めて少なくとも3パーティーは先行しており、やがて彼らが順次離陸を開始するのを見送りながら我々も準備万端で待機していたのですが、ここが頻繁に落石を受ける場所だということを(恥ずかしながら)初めて知りました。上からひっきりなしに「ラク〜!」の声が掛かり、場合によっては予告なしにいきなりブン!という唸りをたてて石が耳元をかすめたりもするので「ここは谷川岳か!」と首をすくめ、よほど先行パーティーが下手なのか?と若干むっとしてもいましたが、それは誤解だったことに後で気が付きます。

しばらく待機していると順番がやって来て、我々はアプローチシューズのまま、まずは私とロープを結んだ常吉さんが1ピッチ目をリードし、後続した私がそのまま2ピッチ目を登りましたが、2ピッチ目の終了点のテラスはがらがらの砕石が散乱していてロープが触れただけで石が落ちる状態です。腫れ物にさわるようにロープを操作して常吉さんを迎え、さらにトラジロ・マッキー組を待ってBガリーを詰めましたが、こちらもよほど丁寧に足を置いていかなければ石を落としそう。それでもやがて左側に横断バンドを見つけ、ほんのわずかの歩きでCガリーに達しました。見れば先行パーティーの何人かはCガリーをペンキ印に従って上に詰め、そこからロープを出して苦労しながら第四尾根取付へトラバースしていましたが、我々はCガリーに下り着いたところから少し上で対岸に見えているバンドに入り、すぐに出てくる岩の登路を登って難なく取付に達しました。

第四尾根の取付も大賑わい。先行パーティーが出だしのクラックを苦労する様子をにやにや眺めたり、後続の速い3人組に先を譲ったりしながらここでシューズを履き替えて、ここもあらかじめの打合せ通り常吉さんのリードでスタート。実は、今回の山行の言い出しっぺである常吉さんにおいしいところは全部持っていってもらおうという算段です。期待を背に常吉さんはまずは簡単に1段上がって、そこからは覚悟を決めて痛いフットジャムを利かせれば難なく抜けられるのですが、そこで一瞬バランスを崩しセットしたばかりのランナーにつかまってしまってまさかのA0になりました。残念!

つるべで先へ進んで次の核心部はつるりとした5mの垂壁で、ここでの常吉さんは最初こそ取り付く場所選びを試行錯誤していましたが、自力でポイントを見つけると巧みに身体を引き上げていきました。ここでつい残置ピンを踏みそうになった常吉さんにビレイしている私が後ろからアラームを鳴らすと「厳しいな〜」と笑われましたが、注意した甲斐あって常吉さんはここを見事にフリーで抜けていきました。

その先のリッジ上を詰めていけばマッチ箱のピークで、左には赤いスレート状のDガリー奥壁、前方には白くそそり立つ中央稜、そして頭上には真っ青な空が広がり最高の気分です。懸垂下降で左のバンドに下り、残り2ピッチで実質的な終了点である枯れ木テラスに到着しました。

このまま中央稜に継続しようというプランもあるにはあったのですが、この日の広河原の最終バスは17時で、諸々考えると2パーティーで中央稜を抜けるには時間が微妙です。マッキーさんは前方の中央稜に取り付いているパーティーの姿を見やりながら残念そうな表情でしたが、協議の結果、無理せずこのまま登攀を終えることとしました。そのままさらに2ピッチで靴脱ぎ場に達して握手を交わし、澄んだ空気を通して鳳凰三山や富士山、南アルプス南部の荒川岳方面の眺めを堪能しながら、ギアをリュックサックに納めて大休止です。

眺めの良い北岳山頂はいつものように登山者で賑わっていましたが、先ほどまで青かった空に西から黒雲が広がってきています。記念撮影をしてから草すべり経由で白根御池小屋まで下り、小屋の食堂で昼食をとってから、下りの速いトラジロさんに引きずられるように一気に下山しました。

1年ぶりの北岳バットレスは、同行の方々の親しみやすさと確かな技術もあってやはり楽しいものでした。山はどこを登るかも大事ですが、誰と登るかも同じくらい大事だと改めて思った次第です。常吉さん・マッキーさん・トラジロさん、ありがとうございました。