塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

瑞牆山カンマンボロン鎌形ハングルート

日程:2008/07/06

概要:人工登攀主体のルート、瑞牆山カンマンボロン鎌形ハングルートを、アブミ練習を兼ねて登る。

山頂:---

同行:現場監督氏

山行寸描

▲見上げるカンマンボロン。上の画像をクリックすると、鎌形ハングルートの登攀の概要が見られます。(2008/07/06撮影)
▲鎌形ハング。左寄りから張り出しをダイナミックに越える。(2008/07/06撮影)
▲空中懸垂。この後、振り子トラバースで現場監督氏の待つテラスへ。(2008/07/06撮影)

この夏は人工登攀のルートを登ることにしているのでどこかで練習をしておきたいのですが、過去にさんざんお世話になった広沢寺弁天岩はいまや「ヒルの惑星」と化しているので暑い季節の利用は論外。よって、

  1. カンマンボロン
  2. 丹沢の沢(人工登攀を伴うもの)
  3. 「ストーン・マジック」

のいずれかに行こうという話を現場監督氏としていて、結局天気が良さそうだったので 1. が選ばれました。

このカンマンボロン鎌形ハングルートは、昨年の秋に瑞牆山の大ヤスリ岩ハイピークルートを登った帰り道、現場監督氏がしげしげと見上げていたもの。大日如来を意味する真言に由来するこの岩峰は威圧的な大ハングですぐにそれとわかる特徴的な姿をしていますが、鎌形ハングはその大ハングの左手の壁に、慎ましく2mほどの張り出しを見せています。

2008/07/06

△06:30 瑞牆の森入口 → △07:00-40 カンマンボロン取付 → △13:00-30 終了点 → △14:30-40 カンマンボロン取付 → △15:05 瑞牆の森入口

前夜、都内で現場監督氏の車にピックアップしてもらい、中央自動車道を走って双葉SAで仮眠。朝、さらに進んで植樹祭広場で身繕いしてから、車道をわずかに戻った「瑞牆の森」入口に車を置いて歩き出しました。既に勝手のわかっているこの道をわずか30分の歩きでカンマンボロンの裾に到着。そこからも頭上にボルトラダーが見えていますが、これはおそらく左壁ルートで、我々が目指す鎌形ハングルートは右手に下った地点、三角板状の岩のところから離陸することになります。

手元のトポは『日本登山体系』のコピーで、これによると40m-30m-15mと3ピッチつないで、4ピッチ目が核心部のハング越えということになっています。現場監督氏の「塾長さんの方がアブミ巧いからな」という根拠レスなおだてに乗って「じゃ、私が偶数ピッチで」と後攻を選択しました。

1ピッチ目(40m / A1):出だし若干バランシー。そこから先はリングボルトに導かれて頭上のピナクルのてっぺんを目指していきます。途中のピナクル右手基部にも貧弱な支点があると現場監督氏から申告がありましたが、ロープ長から見てもまだ上まで行けるはずと声を掛けて、さらにピナクルの右手の凹角状を登ってもらいました。

2ピッチ目(25m / A1):続いて私のリード。最上段に立たなくても届く距離にボルトが続きなかなか快適ですが、この頃からガスが背後に漂うようになり岩が濡れてきました。このため、最後に支点のあるレッジへ這い上がる1手のフリーでアブミを回収する自信がなく、後続の現場監督氏に回収を依頼することになりました。

3ピッチ目(25m / IV+,A1):ここで迷いました。見たところハングの下にはピッチを切れる支点がありそうには思えませんが、順番でいえば現場監督氏の番なので、しばし協議の末にトポを信じて現場監督氏に突っ込んでもらいました。最初の3手はレッジ真上のフェースに打たれたボルトをアブミで直上。そこから左に足を伸ばして、レッジの左手からハング下まで伸びているごく浅いクラックのラインに移るのですが、ここが難しいフリー混じりとなって人工登攀に慣れきった身体には厳しく、さすがの現場監督氏も呻吟の末、思い切って乗り移って残置ピンにクイックドローを掛けることに成功しました。その上にももう1手、断面がきれいで明らかに最近破断したと思われるフレーク状の上に乗り上がるムーブをこなしてハング下までロープを伸ばしましたが、しかしそこにはトポに書かれているような支点はありません。

現「どうする?」
私「……行っちゃって下さい」

そんなわけでハング越えのリードは、当初のもくろみとは異なり現場監督氏の担当になりました。ハング直下のプロテクションはプアーなようで、これを補強するために脆い岩の間にカムを突っ込み、その上でぐらつくハーケンにかけたアブミに右足でおそるおそる乗り込むと、ハング左横のハーケンから垂れているスリングにアブミを掛けて乗り移り、そのまま思い切り身体を右に倒してハング正面のボルトにクイックドローを掛け、そのまま上へ抜けていきました。

続いて私のフォロー。下部のフリーは上から確保されているセカンドの特権でクリアしましたが、ハング越えはなかなかシビアです。くだんのぐらつくハーケンに掛けたアブミに右足を乗せ、左足は壁にスメアで伸び上がるとハング左横のスリングには簡単に手が届き、そちらでスリングの2段の輪を利用して位置を整えてから右へ腕を伸ばしましたが、それでもボルトは遠く感じました。現場監督氏はよく届いたな……と感心しつつ、こちらはリードが残したクイックドローにアブミを掛けてここを突破しました。

4ピッチ目(25m / A1):ハング上でアブミビレイしている現場監督氏を残して、頭上に伸びるボルトラダーを辿ります。いったん傾斜が緩む箇所では残置ピンに3mmスリングを掛けてアブミを通しましたが、そこから上の立った壁はアブミの2段目に乗れば次のボルトに指先が届く程度の距離が続き、やがて灌木をかき分けて安定したテラスに到着しました。

5ピッチ目(25m / V,A1):テラスの上、凸状のカンテの右横を登るリングボルトのラインが正規ラインですが、見ればカンテの正面にピカピカ光るハンガーボルトのラインがありました。そちらの方が安全だろうと現場監督氏はカンテ正面のラインを登っていきましたがこれが罠で、途中からボルト間隔がやたら遠くなり、最上段はおろかリストループに足を入れても届かない箇所もあります。3ピン目あたりで珍しくボヤいている現場監督氏に「そこから敗退したら?(自分も後続できる自信ないし)」と声を掛けましたが、それは現場監督氏のプライドが許さなかったようで「(落ちたら)お願いします」を繰り返しながら、じりじりとフリー混じりで上昇していきました。とうとう上に抜けた現場監督氏のコールを受けて私も同じラインを登りましたが、このボルト間隔では、現場監督氏のグリップフィフィアブミと違ってノーマルなカラビナを使った私のアブミを回収することができなくなります。してみるとこのラインは人工登攀ではなくフリーのラインなのか?ともあれ、ゴボウまで駆使してなんとかこのピッチを切り抜けました。

後日調べたら、このハンガーボルトのラインは鎌形ハングルートをフリー化した「Happiest You」(5.12c)という7ピッチのフリーラインだったようです。勉強不足でした。

6ピッチ目(30m / A0, III):支点の上にはプロテクションのないざらざらのスラブが上に続いていました。傾斜は緩いのですが、プロテクションなしで上まで抜けるには相当度胸と足先の保持力がいりそうです。カンテの左側のわずかな出っ張りにスリングが設置されていたのでそちらに怖々乗り移って見上げましたが、相変わらずラインが見えてきません。てっぺんは諦めてここを終了点としようかと思いましたが、ふとカンテの左下のルンゼを見下ろすと、どうやらこのルンゼの中なら登れそう。それによく調べてみると、単に残置スリングだと思っていたものはルンゼに降り立つために先端に輪っかがセットされたものでした。これをつかみ、かつ現場監督氏が握るロープに支えられながらルンゼに降り立って、ぼろぼろの壁にバックアンドフットも利かせながらルンゼ内を登り、太い木が生えているところから右手のバンドをトラバースしていくと、現場監督氏の上の位置に出ることになりました。屈曲のせいで極端に重くなったロープを必死に引きずりつつトラバースを続け、1段上がったところから緩やかなスラブをソールのフリクションで登れば、小灌木も生えて穏やかな雰囲気のてっぺんに到着しました。

後続してきた現場監督氏と握手を交わし、行動食をとりながら大休止。風化した花崗岩が流線型の不思議な形を見せる山頂部からは、隣の大面岩を登るクライマーの姿も見えています。ここまで時折ガスに視界を遮られながらも登攀には支障のない天気がもってくれていましたが、そろそろ空の忍耐力も限界らしく、遠くからは雷鳴が聞こえ始めました。

灌木に掛かっているスリングとカラビナを支点に懸垂下降開始。1本目の下降はテラスまで届くかとも思えましたが、ロープが届いているかどうか目視できないので安全をとって2ピッチに分けてテラスへ。ここから鎌形ハングを一気に越えて空中懸垂し、振り子でハング左下のレッジまで。さらに雨の中を撤収モードで2ピッチ下り、ほぼぴったり離陸地点に下りつきました。終了点を除けばいずれの支点も残置カラビナを含めよく整備されており、下降には何の心配もいりませんでした。

20分余りの歩きで車に戻ると、後は温泉に入って食事をして帰るだけ。増富はラジウム鉱泉で有名なので帰路目についた「津金楼」に入りましたが、冷泉にもかかわらず浸かっていても身体が冷えない不思議な湯に、これがラジウムの力なのか?と大いに感心した次第です。

練習なんて失礼なことを書きましたが、カンマンボロン鎌型ハングルートは、ハングの乗り越しに微妙なフリーや山頂の景観まで含めて個性的で面白いルートだと思いました。人工登攀が嫌いではない人には日帰りの1本としてお勧めしておきます。もちろん、力のある方はフリーでどうぞ。