玄倉川小川谷廊下

日程:2008/06/01

概要:玄倉川沿いの林道を小川谷方面への道との分岐を分けたすぐ先に車を駐め、そこから徒歩で小川谷にアプローチ。小川谷廊下を遡行後、東沢乗越からの荒れた登山道を下って往路を戻る。

山頂:---

同行:現場監督氏

山行寸描

▲巨大なCSをかかえた滝。上の画像をクリックすると、小川谷廊下の遡行の概要が見られます。(2008/06/01撮影)
▲ゴルジュ内の水流の強い滝。右壁をスリングも使って越えた。(2008/06/01撮影)
▲ラストの5m滝。ここが登れなかったのが残念……。(2008/06/01撮影)

西丹沢の美渓・小川谷廊下は、一度は入ってみたいと思っていた沢。確実に水に濡れるため盛夏向きの沢とされていますが、梅雨入り前の空いていそうな時期に、あえて今年の草鞋初め(といっても履いているのは渓流シューズ)として遡行することにしました。数日来の雨で水量が増えていそうなのでソロでは少々躊躇もありましたが、ちょうど外岩の企画が流れてしまった現場監督氏がこちらに合流してくれることになってラッキー。小田急線新松田の駅前で午前8時に現場監督氏と落ち合い、彼の車で玄倉を目指しました。

なお、滝を特定するためのFナンバーがトポの種類によって異なっており同定できないので、以下の記録ではFナンバーは使用しません。

2008/06/01

△08:55 玄倉林道分岐先 → △09:25-35 広場 → △09:55 小川谷出合 → △11:05-20 大岩 → △11:25 石棚ゴルジュ入口 → △13:30-55 登山道横断点 → △15:10 広場 → △15:40 林道分岐先

玄倉川沿いの林道を進むと、分岐点で小川谷方面の林道がふさがれているのに行き当たりました。仕方なくそこからわずかにユーシン寄りのスペースで車を降りて、ちょっと戻って小川谷方面へとてくてく歩きます。予報通り今朝は快晴、絶好の沢日和だというのに、我々の前後に人の姿は見当たりません。現場監督氏はこれまで何度か小川谷廊下に入っていますが、いずれもCS滝での渋滞に巻き込まれて敗退していたということなので、今回こそはまともに遡行できそうだとうれしそうです。30分ほども歩いたところで右側に広場、右奥高いところに林道が見える場所に出て、確かここから沢に下りるはずだと言いながら現場監督氏がその先の穴ノ平橋を確認してくれてから右下に緩やかな斜面を下ると、そこはコガイ沢。四つ連続する堰堤を左右の鉄梯子で次々に下り、明るく開けた河原で小川谷に合わさりました。

遡行開始。すぐに現れる3mの滝は良いウォーミングアップで、右側の壁をバンドを使って越えるとすぐ目の前に有名な巨大チョックストーンの滝。どうやら心配したほどの水量ではないようですが、それでも左側からアプローチしてみるとかなりの勢いで水が叩き付けてきており、無事に登れるかどうかは微妙です。ここは無理せず右側に回り、残置されているスリングアブミと倒木を使って越えました。続く6mの滝は、水流の左側の壁から簡単に越せます。

緩やかなスロープのような小滝を越えると、立体的な5段5mの滝。水流の左側からアプローチして落ち口を窺いましたが、水勢とつるつるの岩に恐れをなして左壁を登りました。その後も釜にかかった倒木を渡ったり、5m程度の滝を右や左から越して行って、もういくつ滝を越えたかわからなくなった頃、小さなゴルジュを抜けたところにひときわ立派な釜とつるつるの壁をもった5mほどの美瀑が現れました。

一見してこの滝を登るのは無理、しかも右に手招きをするような巻きのラインが見えたので、ためらうこともなく右の巻き道に入りましたが、後で調べてみたらこの滝が「足場のない右壁をスリング3本に体重を預けて登る滝」でした(しかし、写真を拡大して見ても残置スリングは見当たりませんでした)。そうと気付いていればもう少し丁寧に観察するのでしたが、かたや右側の巻きルートも全く容易というわけではなく、少々際どいところは的確な位置に打たれたボルトにスリングを掛けて安全を期しながら進みました。

巻き道から緩やかに沢に降り立ってすぐの滝を左壁から越えると、小川谷名物の斜めに寝た大岩。その右の滝も登れるように思えましたが、どうやら最上部で水に叩かれそうなのでセオリー通り大岩を登ることにしました。この大岩は「助走をつけて一気に駆け上がる」とか「残置ロープにつかまれば簡単」とか言われていますが、まず助走できるような下地ではないし、短めの残置ロープもあるにはあるものの最初の数歩が角度のあるぬるぬるの面になっていて、現場監督氏も私もなかなか上がれません。

こんなはずでは……と内心焦りながらそれぞれに悪戦苦闘して、やっとの思いで登りきりましたが、後ろからは誰も来ないので恥ずかしい姿を見られずにすみました。しかし、実は先ほどから我々の前に濡れた足跡が残っていたので、どうやら先行者が(おそらく単独で)入っていたようです。

少々暗い石棚ゴルジュの中を、ウナギの寝床のような水路に腰までつかったり水流の強い釜を微妙なバランスでへつったりしながら遡行していくと、またまた立体的な滝が現れました。ここは右側から近づくと残置スリングがあって、最初の1本は見逃したものの特に問題なく1段上がり、ついで短いスリングをつかんで落ち口直下まで達するとボルトが打たれているので手持ちのスリングを通してA0で乗り上がりました。

ゴルジュ内に左から落ちてくる滝を見送り、続く釜を持った7mの滝は両足突っ張りで登れるか?とラインを目で追ったものの水流に真っ向からぶつかって叩き落とされそうなので左壁に逃げると、目の前にこの沢で最大の石棚20mが見えてきました。まずはその手前の細長い淵に入って右岸から左岸に渡りましたが、この淵が予想外に深く胸まで冷たい水に浸かってしまいます。最初にこの淵の罠にはまった現場監督氏は悲鳴とも奇声ともつかぬ声をあげながら突破していきましたが、後続の私も水の冷たさに心臓を鷲掴みにされる感覚を味わいながらわずかに泳ぎ、早々に身体を引き上げました。

石棚には人工登攀のラインもあると言われており、我々も家を出るときにはアブミを持参していたのですが、どうせ残置ピンは信用できないだろうしボルトキットまで持ち出すのも何だし、というわけで結局アブミは車に置いて来ていました。こうして目の前の石棚を見上げてみてもラインは見えて来ず、ここは無難に右岸の壁から巻きだろうと沢を渡り返して左にえぐれた地形の奥の壁の前に立ち、「念のために」とロープを結びました。しかし「ホールドはガバ(III-)」というSakurai情報を信じて気軽に取り付いた現場監督氏はすぐにちょっとした思い切りが必要な場面に行き当たったらしく、ランナーもとれずに行き詰まりかけてしまいました。それでも何とかそこを登りきり、右へトラバースしてしばらくの後にビレイ解除のコール。私も後続で登ってみると、2手ほどオポジション系のムーブを駆使するところが出てきてなかなか面白いのですが、当然ながら岩は濡れており強度も信用できず、確かにIII級というのとは違う感じです。「話が違う!」と現場監督氏は憤慨していましたが、どうやら本来の取付はもっと沢に近いところだったらしく、ビレイポイントに着いて現場監督氏と共に「ロープを結んどいてよかった」と胸をなで下ろしました。

石棚とその先の釜及び小滝を一度に巻いたら沢に戻り、さらにいくつかの小滝を越えてナメ、ゴーロ、淵を過ぎていきます。エメラルドグリーンの淵はとてもきれいですし、水路のように狭くなった場所ではあえて両足突っ張りで水の流れに忠実に前進していくなど、この沢はこちらの遊び心にいかようにも応えてくれます。やがて白砂が底にたまった透明度の高い浅い釜の先に見えてきた最後の滝が樋状5mで、これは左から簡単に巻けるようですがやはり直登にこだわりたいところ。

まずは私からトライ。記録によっては滝の手前の釜は太ももぐらいまでしかないと書かれているものもありますが、今日は腰の辺りまでありました。そのまま滝壺そばまで近づいて滝身に近いところを直上しようとしましたが、出だしで水の中の足場がなかなか決まらず、二度三度と立ち上がろうとしているうちに腕がパンプしてきてしまいます。うっ、これはヤバい!と焦りつつ何とかポジションを決めて身体を引き上げることに成功し、そのままホールドを拾ってカンテを3m登り落ち口を目の前にしましたが、そこからの1手のホールドがちょっと甘い感じ。左手はカチっとしたホールドを見つけており、右手はパーミング気味、右足を思い切って上げればスタンスをとらえられるはずなのですが、出だしの苦戦と水の冷たさで握力が失われており、さらにその先もホールドがなさそうで思い切れません。落ちてもダメージは少ないはずですが、うーん、気持ちが負けてるなあ。そんな様子を見てとった現場監督氏が「上からお助け紐を出そうか?」と訊いてくれて素直に白旗。左側からとっとと巻き上がった現場監督氏が垂らしてくれたスリングに縋って、やっと上に抜けました。その後、現場監督氏は空身で巻きのラインを戻り、私と同じカンテラインを登り直しましたが、最後の1手で一瞬ずるっといきかけはしたものの抜けてきました。この滝は宿題だな……。

古代ローマの水道橋の遺跡のようにも見える壊れた堰堤の左を抜けるとゴルジュは終わり、黄色い小さな花がいたるところに咲いている明るい河原が広がりました。そして数分の歩きで右から東沢を合わせた先の堰堤の手前の岩に赤い矢印や文字が書かれ、ここが東沢乗越からの登山道の横断点だとわかりました。遡行はここで終了です。

下りの登山道はところどころ崩れていて悪く、要所にはトラロープが張られているものの二度ほど道迷いで時間をロスしましたから、この道を暗くなってから初見で下るのは困難でしょうし危険です。それでもルートミスのロスタイムを除いて正味40分ほどの歩きで整備された林道に出ることができ、そこから5分で穴ノ平橋。後は往路をのんびりと車まで戻って、今年最初の沢登りを楽しく終えました。