塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

中川川大滝沢マスキ嵐沢

日程:2006/09/30

概要:大滝橋から歩いてマスキ嵐沢を遡行後、権現山に立ち寄ってから西丹沢自然教室へ下山。

山頂:権現山 1138m

同行:モリタ氏

山行寸描

▲F2。上の画像をクリックすると、マスキ嵐沢の遡行の概要が見られます。(2006/09/30撮影)
▲F3。水線通しに登るのは困難だった。(2006/09/30撮影)
▲F7。立ってはいるが楽しく登ることができる。(2006/09/30撮影)

沢登りを体験してみたいという同僚モリタ氏の希望に応えて、丹沢の日帰りの沢に行くことにしました。勝手のわかっている水無川本谷や小草平ノ沢なども考えましたが、今年は表丹沢方面はヒルが大発生しているようなのでパス。そこで思い出したのがマスキ嵐沢です。この沢はまだ遡行したことがありませんが、聞くところによればこじんまりした行程の中に明瞭な性格をもつ滝をいくつも抱え、ちょっと手応えのあるF3やクライミング気分を味わえるF7などもあってなかなか面白く、しかもアプローチ・下山とも短時間ですむというコンビニエントな沢だそう。さっそく現場監督氏、Sakurai師やsudoさんの記録を読み込んでイメージトレーニングを重ねました。

2006/09/30

△10:45 大滝橋 → △11:10-30 マスキ嵐沢入渓点 → △11:55-12:20 F3 → △12:55-13:05 F5の上 → △13:25-45 F7 → △13:55 登山道 → △14:05-30 権現山 → △15:10 西沢 → △15:35 西丹沢自然教室

小田急線新松田駅前を9時35分に出発するバスに乗ることにしてモリタ氏と待ち合わせましたが、バス停の時刻表を見るとこの時間帯だけ日曜日以外は中川止まりで、マスキ嵐沢への出発点となる大滝橋へはそこから30分余分に歩かなければなりません。かといって西丹沢自然教室行きの次発は1時間後。ついてないなと思いながらバスに乗って出発を待っていると、駅から出てきた別のお客が待機中の運転手さんに「このバス、西丹沢自然教室へ行きます?」と聞いています。おあいにくさま、このバスは中川行きですよ、と心の中で呟いていると、運転手さんはバスの行先表示を変更して「はい、いま西丹沢自然教室行きになりました」。お客がいれば行き先を変更するのか?凄いぞ、富士急湘南バス!そんなわけで無駄に歩くこともなく、新松田駅から約1時間で大滝橋に降り立ちました。

ここから大滝沢沿いに東海自然歩道の一部にもなっている林道〜登山道を25分ほど歩いたところに「マスキ嵐沢」と書かれた比較的新しい標識が立っており、ここで沢装備になりました。モリタ氏は自転車用ヘルメットにしっかりしたつくりのスニーカーを持参しており、ハーネスは私のフリー用を貸してあります。入渓点はガレていてこれだけを見るとあまり遡行興味が湧きませんが、ものの5分も歩かないうちにゲートのような3m滝が現れて、これを左から簡単に越すと途端にナメっぽい、いい雰囲気の沢に変身しました。ところがここで、モリタ氏のスニーカーが存外滑ることが判明。濡れてつるっとした岩ではほとんどフリクションがきかないようです。よって、以後の滝でのライン採りは極力凹凸重視とすることにしました。

顕著な樋状の流れのすぐ上に続く、かわいい釜を持つFナンバーがついてもおかしくない4m小滝をじわじわと越すと、ナメの上に大きな岩が散乱している場所に出ました。どうやらここ1年以内に奥の山肌から崩壊があったらしく、左から落ちる水流を見上げたときに残置ピンが目に入ってやっとここがF1だと気付きました。

この辺りから、滝がどんどん続き始めました。まずはF1の上わずかで、岩壁の真ん中に樋状に水を落とすF2。モリタ氏に「水流の中に足を突っ込めば、足掛かりがあるはずだから」とアドバイスして先行してもらうことにしましたが、手前の釜にモリタ氏が踏み込んだ途端、15cmはありそうな魚影が走りました。モリタ氏は登攀そっちのけで手づかみにしようとしたもののそう簡単にいくわけもなく、しばしの奮闘の後諦めて滝に取り付きました……が、やはりスニーカーのフリクションでは少々苦戦しています。後から私も同じラインで登りましたが予想通り水流の下には豊富にホールドがあって、少なくともフェルトソールなら何ら問題ありません。そしてその先数分で行く手の斜面に出てきた2段15mの滝が、この沢の核心部となるF3でした。

F3の下段はすたすた歩いて登れ、そこに左から枝沢を合わせて、右上の下から3分の1の位置にバンドが走っており、見上げてみるとバンドの下はつるんとしたスラブ、バンドの上は水流沿いが手掛かりがありそうですが、落ち口の下は立っていそうな感じでホールドの具合も行ってみないとわかりません。落ち口の右側は易しく登れそうなのでいざというときはそちらへエスケープするつもりで行けるところまで行くことにし、この日初めてロープを出してモリタ氏とつながってから先行しました。スラブ左手の細かいホールドをつないでバンドに乗り上がり、バンド上を右手の水線方向へトラバース。水流の右側には手掛かり足掛かりが豊富にあるのでそれに乗って2歩上がってみましたが、そこから先のホールドが手足とも甘い感じ。せめて残置ピンでもあればセルフビレイをとって乗り上がるのですが、その先もやはり傾斜が立っている様子なのでここは自重して右上に逃げることにしました。落ち口右手は木の根もつかんでぐいぐいと上がり、確保体制に入ってからモリタ氏にはバンドに上がらずに下から右へ回り込んで安全なラインで登ってもらいました。

F3の落ち口から上流を見ると、もう次の滝が顔を覗かせていました。茶色い岩肌の斜滝を1段上がると壁状の岩に上から右下方向に斜めに水流が落ちていて、これがF4。ここは水流の左側に豊富なガバホールドがあって、これを追っていけば自然に上に抜けられます。ただし高さはそれなりにあるので、念のため上からロープを垂らしてモリタ氏を確保しました。

続いて3mの緩やかな滝を越すと、落ち口が小ハングとなっているつるっとした5mF5。いかにも滑りそうな見てくれなので右側から小さく巻くように登り、この滝を越えたところで昼食休憩としました。

遡行再開。右上から左下に地層が見える壁のような3m滝を右側から簡単に越えると、開けた河原状になりました。しかしそれもわずかで顕著なチョックストーンが現れ、その少し上で水が完全に涸れてがらがらの二俣を右に入ると突き当たりに岩が積み重なったような涸滝が見えてきました。本流はその手前で左に曲がっているようにも見えます(上右の写真)が、正面方向の1段高いところにケルンがあって行き先を示してくれています。

F6は手掛かり豊富で問題なく越えられますが、次のF7はちょっと手強い涸滝。一見したところ岩が乱雑に積み重なった印象で、途中2カ所に残置スリングが垂れているのですが、不用意に取り付くと急な角度に頭上を圧迫されてバランスを崩すかもしれません。ここもロープで結んで、まずは私が先行。といってもビレイしてもらっているわけではなく、実質はフリーソロです。慎重にホールドを探りながら、ところどころ膝や腰を入れて重心を壁に寄せるようにして登っていくと、意外に豊富なホールドに助けられてさしたる苦労もなくぐんぐん直上できました。最後は落ち口の岩に両手をついてマントルで身体を引き上げて滝の上に立ち、振り返って見下ろすとなかなかの高度感でいい気分です。

落ち口の近くでは手頃な支点がとれないので、10mほどさらに進んで灌木にスリングを巻き付け、ビレイの態勢に入ってモリタ氏に声を掛けました。さすがにここはテンションかかるかな?と思っていましたが、豈図らんやモリタ氏は(残置スリングをつかみはしたものの)2、3カ所逡巡しただけで無事に落ち口に上がってきました。

滝はこれで終わり、その後の詰めは薮もなく、傾斜を強めてF7からわずか10分で登山道に出ました。ここから右へやはり10分の登りで着いたのは権現山の疎林に囲まれた小広い山頂で、南の方角が開けていて中川から丹沢湖方面を見下ろすことができました。初沢登りを無事完遂したモリタ氏は、この眺めに下界を睥睨しながらいたくご満悦の様子です。

権現山からの下りは多少ザレた山道で、途中で鹿の群れも見ながら1時間強で西丹沢自然教室に下り着きました。さらに帰路、中川で途中下車して「ぶなの湯」につかり、缶ビールで打ち上げました。