魚野川仙ノ倉谷西ゼン

日程:2001/10/07

概要:仙ノ倉谷の林道奥のゲートから平標新道を辿りダイコンオロシ沢で入渓。西ゼンを源頭まで詰めて稜線に抜け、平標新道を下降。

山頂:---

同行:黒澤敏弘ガイド

山行寸描

▲東ゼン出合上部のナメ滝。本格的なスラブの始まり。上の画像をクリックすると、西ゼンの遡行の概要が見られます。(2001/10/07撮影)
▲第二スラブ上部。傾斜は厳しくなるものの、手掛かりは第一スラブよりも豊富。(2001/10/07撮影)

2001/10/07

△06:25 林道奥ゲート → △08:05-45 ダイコンオロシ沢入渓点 → △09:40 東ゼン出合 → △12:10-20 第二スラブ入口 → △13:50 第二スラブ終了点 → △14:50-15:05 平標新道到着 → △17:05-20 ダイコンオロシ沢入渓点 → △18:45 林道奥ゲート

当初この連休は単独での沢登りを計画していましたが、『猫の森』の10月企画に谷川連峰の西ゼンが登場したのでこちらに乗ることにしました。前夜、相模大野で黒澤ガイドと落ち合ってから夜の関越自動車道を車で飛ばし、土樽付近で道に迷いながら(橋が落ちていて迂回路が設定されていました)午前1時半頃仙ノ倉谷の林道奥のゲートに到着。ゲート前はちょっとした広場になっており、車が5、6台は置けそうです。とりあえずビールで明朝からの健闘を祈り、車の中にシュラフをのべて2時すぎに就寝。3時間強の睡眠ののち5時半に起床し、朝食をとってから出発しました。

ゲートから林道をさらに奥に進んで林道終点で吊り橋を渡り、毛渡沢を渡って右岸の登山道をぐんぐん歩いてしっかりしたケルン状の道標が立つ河原がダイコンオロシ沢入渓点で、ここで登山道は沢を渡っていきますが我々は沢靴に替え、ここまで履いてきたゴム長靴をデポして(後でこのことを悔やむことになりました)雲に覆われた稜線に一瞥をくれてからおもむろに沢に入りました。

歩くほどに空が青みを増しあたりの紅葉も鮮やかになっていくのに気を良くしながら遡行を続けて、小さく続く滝を右、左、右と越え、東ゼンを左に分けていよいよ西ゼンに入ると、釜のあるナメ滝を右から巻き、スラブを登って顕著なゴルジュ状の滝に出ました。ここは左から巻くこともできそうですが、せっかくだからとロープを出して右壁から越えると、そのすぐ上から広大な第一スラブが始まりました。

ここから先は水流の右寄りをスタカットで登りましたが、出来合いの確保支点などはなく、50mロープを伸ばしていって私が「あと10!」とコールすると先行する黒澤ガイドがハーケンを打てる場所を探し、上で支点ができたらこちらのハーケンを回収して後続する、ということを繰り返しました。足が揃ったパーティーならロープなしでスピーディーに行動できるのでしょうが、私の方はつるつるのスラブに足がずるっと滑ったり、ランジ気味に飛びついたホールドがばきっと欠けたりして冷や汗のかき通し。第一スラブ出口手前のピッチでも、左に斜上しなければならないのについ真上に追い上げられて、最後は滑りやすい急斜面の恐いトラバースをすることになってしまいました。そんな具合でぜいぜい言いながら第一スラブの終了点に辿り着いたところで下を見るとはるか下方まで巨大な滑り台が続いており、これは落ちたら絶対に止まらないな、と改めて恐怖を感じました。

第一スラブの出口でチムニー状になった沢の右を踏み跡通りにわずかに登り、すぐに現れる小さな釜をもつ滝は左から1段上がって水流を右に横切ったらそのまま水際の登り。右から枝沢が入ってくるところで左前方に水量が豊かな15m2段の滝がどうどうと水を落としており、逆光にきらきら輝いて迫力があります。左のリッジから草付の中の踏み跡を辿って1段目を越え、2段目手前の安定した場所を選びロープを解いて手早く昼食としたところでようやく周囲の紅葉に目をやるゆとりができましたが、それまでの間は写真を撮ったりメモをつける余裕もほとんどありませんでした。

第二スラブの入口の滝は左の草付を登り、ちょっと悪いトラバースで落ち口に出て第二スラブに入りました。第二スラブの下半分は傾斜も緩く豊富なホールドを頼りにスピーディーに行動でき、傾斜がきつくなってきた上半部で再びアンザイレンしたら沢の左寄りを出口まで3ピッチ。ここでも終始フォローに回りましたが、2ピッチ目では左のコンタクトラインの乾いたルートを横目にあえて流れに近いラインに突っ込んでぬるぬるのホールドにまたも冷や汗をかき、上から確保している黒澤ガイドは「なかなか攻撃的なラインで来るな」と思いながらロープを握る手に力をこめていたそうです。

なんとか最後までノーテンで出口に辿り着き、セルフビレイをとってから改めて振り返って素晴らしい高度感を満喫したら、最後のピッチは3mの小滝です。黒澤ガイドは水流を避け左から小さくマントリングで越えていきましたが、私はセカンドの気軽さもあってあえてディエードル状の滝のど真ん中に入っていきました。ちょうどおあつらえむきのチョックストーンが滝の途中にあり、水しぶきを浴びながらこれを使って気持ち良く滝を突破してビレイしている黒澤ガイドのところへ登りつき「最後の滝くらい濡れないと、沢に対して失礼ですからね」と嘯くと、黒澤ガイドはにやにやしながら「キャラが変わりましたね」と返しました。

ロープを解き、最後の6m滝を左から登るとクマザサに囲まれた源流帯で、支沢を左に分けて右に進み水がなくなったところでここでみずをくんでいってねわすれちゃだめと書かれたとても親切(?)な赤テープを目印に笹の中に入っていきました。クマザサは雪に押し付けられているせいか斜面の下方向に向かって伸びた後に向きを変えて背丈以上の高さに達しており、平泳ぎの要領でかき分けた笹をつかんでは腕力頼みに登る苦しい急斜面が延々続きます。しかし、やがてぽっかり刈り払われた場所に出るとそこから先は笹の背丈が低くなって顔を出せるようになり、最後は緩やかな尾根状の笹原をわさわさと歩いて、ひょいと左に下がったところが明るい池塘帯。さほど大きな池塘ではありませんが青空を映して美しく、背後には仙ノ倉山が柔らかい姿を見せて気持ちの良いところで、登山道はそこからわずかでした。

ここからは一投足で平標山ですが、既に日が傾きかけていたこともありピークは割愛することにして、ギアをしまうとそのまま下山にかかりました。平標新道の上部は笹原の中を緩やかに下る快適な道で、高度を下げるにつれ右側に西ゼンを見下ろすことができるようになりましたが、こうして上から眺めてみると西ゼンはかなりの急傾斜で一気に落ち込んでおり、あそこを登りきったとはとても信じられませんでした。

西ゼンの眺めに別れを告げて道が樹林帯に入ると一転して湿った土が滑りやすい急降下が続き、2人ともこけつまろびつ道の悪さに悪態をつきながら高度を下げました。おまけに私の方は沢靴の爪先が痛くてたまらず、ゴム長靴をリュックサックに入れてこなかったことを心底悔やみました。こうした苦行の末にようやく入渓点に戻ったところでがっちり握手をかわし、沢靴をゴム長靴に履き替えてからさらに1時間半の歩きで、すっかり夜の闇に包まれたゲートに辿り着きました。車の横にリュックサックを下ろしてから缶ビールで乾杯し、安堵のため息をついて空を見上げると、数え切れないほどの星がきれいに輝いていました。