茶臼岳

日程:2020/08/29-30

概要:畑薙湖左岸の沼平ゲートから歩き出し、畑薙大吊橋を渡って初日はウソッコ沢避難小屋まで。二日目に茶臼岳山頂をピストンしてから下山。

山頂:茶臼岳2,604m

分類:南アルプス

同行:源さん / トキ氏

ハイライトシーン

茶臼岳山頂からの展望。懐かしい山々に囲まれて、至福のひと時。(2020/08/30撮影)

今年のメインイベントのひとつである甲斐駒ヶ岳の登攀を10日前に終えて、8月最後のこの週末はまったり過ごしたい気分。そこで旧知の釣り師・源さんに「どこか癒し系の釣り沢での沢登りに連れて行ってほしい。自分は酒を担ぐので」と申し入れたところ、いつの間にか沢登りではなくウソッコ沢避難小屋定着の釣りメインという話になってしまいました。まぁイワナを食べさせてもらえるのなら文句なし、(釣りをしない)自分はせっかくなので茶臼岳まで軽装で往復してくるか、と漠然と考えながら当日を迎えました。

2020/08/29

■08:25 沼平ゲート ■09:00 畑薙大吊橋 ■09:25-30 ヤレヤレ峠 ■10:35 ウソッコ沢避難小屋

夜通しのドライブで沼平ゲート前に着いたのは早朝でしたが、すでに駐車スペースはかなりの賑わい。今日は急ぐ必要もないので、そのまま車の中で睡眠を補って、8時に起きて朝食をとってから歩き出しました。

畑薙湖沿いの林道は工事中の区間が目立ちますが、畑薙大吊橋の入り口には自転車が二台デポしてあり、確かにここまでなら行き帰りとも自転車で楽ができそうでした。ただし、大吊橋より上流は徒歩、自転車での通行も禁止されている状態です。

こと自然を相手にしたときは怖い物知らずの源さんが、意外なことに吊り橋を大の苦手としていることを知ったのはこれが初めて。後ろから見ると明らかにへっぴり腰になっていて歩みも慎重です。「こんなのを怖がっていては人工登攀なんかできないよ」などとからかいながら私も後から続いたのですが、川面までの距離を見ると確かに高度感があって、彼の腰が引けるのもわからなくはありません。

誰がつけたかヤレヤレ峠を越えて上河内沢沿いの道に入ると、丸太橋が二度出てきます。さすがにこの高さ(低さ)なら問題はないようで、先ほどのへっぴり腰はどこ吹く風とばかりに源さんはスタスタと渡って行きました。

ゲートを出発して2時間余りで今宵の宿となるウソッコ沢避難小屋に到着しました。ちょっとした高台に建つ小屋は年季は入っていますが中は清潔で30人くらいは泊まれそう。外にはトイレも設けられています。

ここに宿泊装備を置いて、源さんは釣りに出かけました。私はと言えば、夕方のイワナ宴会を夢見ながらまずはしばしの昼寝。その後に小屋備付けのノートを読んだり残置されていた文庫本を読んだりしてのんびりと過ごしました。ノートに書かれた宿泊者のメモからは、この小屋が四季を通じて利用されていることや、南アルプス南部らしく長期間(中には15日間という人も)の縦走を終えてこの小屋を利用している人がいること、さらには外国からの登山客もこの小屋を利用していること(ハングルとヘブライ語がありました)がわかりました。中でも面白かったのは2017年7月にこの小屋に立ち寄った人(たぶん女性)の書込みで、三伏峠からの一週間の山旅を終えてこの日光岳小屋からウソッコ沢避難小屋に13時に降りてきたものの、ここに泊まろうかどうしようかと悩んでいる様子が綴られています。もし、あのブルーシートの下に誰か居たら…。もし、夜中に異性が来て、食べ物をもっていなくて食べさせてあげたとしたら…。もし、真夜中に何かの物音がしたら…とドアをノックされるイラスト付きで妄想を広げまくっているのですが、そんなに悩んでいる暇があるのならさっさと下山した方がいいのではないかと思わずツッコミたくなってきました。

16時に戻ってくる約束の源さん(が釣ってくるイワナ)のために15時頃からせっせと薪集めに精を出し、ノコギリで親指を傷つけながらも長さを切り揃えて万全の態勢をとって待ち受けたところに、約束通りの時刻に帰ってきた源さん。しかし、その浮かぬ顔を見ておおよその察しがつきました。

横窪沢小屋まで登山道で上がってそこから上流へ釣り上がった源さんでしたが、なんとそこに上流から釣り師たちがどやどやと降りてきたという話で、残念ながら源さんの釣果はご覧のサイズの一尾だけ。名誉の負傷(?)も虚しく豪勢な焼きイワナは諦め、こいつはカラカラに乾かして骨酒にすることにして、私が持参したアスパラベーコンやらチーズやらをアテに17時頃から呑み始めました。

1時間余り後、あたりが暗くなってきた頃に源さんの旧知の友人で地元・静岡県在住のトキ氏が合流。さらに豊かになったアテとお酒で源さんがへべれけになってゆく内に貴重なイワナのコンディションが整い、ようやく骨酒が振る舞われました。フグのひれ酒にも似た濃いコクのある骨酒に舌鼓を打ちながら、こうなったらこの二日間を有意義なものにするために明日は何としても茶臼岳まで登らなければと決意を固めたのでした。

2020/08/30

■05:10 ウソッコ沢避難小屋 ■06:25-30 横窪沢小屋 ■08:15 茶臼小屋 ■08:45-09:00 茶臼岳 ■09:25-35 茶臼小屋 ■10:55 横窪沢小屋 ■11:45-12:15 ウソッコ沢避難小屋 ■13:05 ヤレヤレ峠 ■13:25 畑薙大吊橋 ■14:00 沼平ゲート

4時40分起床。私と源さんの他に二人が小屋に同宿(トキ氏は焚火の近くでツェルト泊)していましたが、私が一番乗りでの出発となりました。ウソッコ沢避難小屋から茶臼岳までは、コースタイムで登り5時間20分、下り3時間20分。私は決して足が速い方ではありませんが、サブザックに水と行動食と雨具と貴重品だけを詰め込んだ軽装ならそれなりに時間短縮できるはずと踏んで、正午までに戻ってくると源さんたちに約束してあります。源さん・トキ氏にはその間に昨日の釣りの続きをしてもらえば、もしかすると昼食は「岩魚定食」を食することができるかも。

ウソッコ沢避難小屋からすぐに始まる登り道は短いながらも急坂の激登り。階段が続いた後につづら折りの山道がぐんぐん高度を上げていきます。

いったん傾斜が緩んで横窪沢沿いの開けた場所に建つのが横窪沢小屋。こちらは例年であれば管理人が入り、食事付きの宿泊もできるそうなのですが、今年は新型コロナウイルスの影響で営業していません。それでも小屋の前の斜面にはテントが張られており、登山者の姿が見られました。さらに高度を上げると大無間山の展望が得られるベンチがあり、さらにひたすら登り続けて道が水平になった先に、茶臼小屋が現れました。

横窪沢最上流の小沢の周囲にお花畑が広がる天国のように美しい場所に建つ茶臼小屋。ここも今年は営業休止ですが、併設されている避難小屋は利用できるほか、何張りものテントが周囲にあって穏やかな時間がそこに流れているようです。ここで富士山を眺めながらビールを飲んだらどんなに美味しいことか……と思いましたが、今は先を急ぐ身。そのまま稜線に向かう登山道を進みました。周囲の植生はすぐに高山帯のものとなり、岩とハイマツの穏やかな稜線が見通せるようになりました。

青空の下、稜線の登山道に乗り上がって南に迎えばほんのわずかの登りで茶臼岳の山頂。幸いなことにそこには誰もおらず、しばらくは展望の開けた山頂を独り占めすることができました。

何という大展望!山頂から南西方向には光岳があって光岳小屋の屋根も見えていますが、なんと言っても素晴らしいのは北側の上河内岳、その向こうの聖岳、赤石岳、悪沢岳の姿です。私は1988年に聖岳〜赤石岳〜荒川三山を縦走し、さらに1997年には光岳〜聖岳を縦走しています。したがってこの茶臼岳は1997年に続いて二度目の登頂なのですが、そのときはガスに巻かれながらの縦走だったためにこの山は縦走路上の通過点に終わっており、これほどの展望に恵まれた山であることに気づいていませんでした。まったくもって、昨夜酒量をセーブしてこの日の登りに備えた甲斐があったというものです。

こうして懐かしい山々の眺めに囲まれながら至福に浸っているうちに、あらかじめ下山開始時刻と決めていた9時を回っていることに気付きました。この展望の中でならあと1時間はいたいのに……と後ろ髪を引かれながら、茶臼岳の山頂を後にしました。

茶臼小屋に戻って小休止。昨日トキ氏が持ってきてくれた「お茶羊羹」をいただいて下山のエネルギーを補給し、トリカブトの花園に囲まれた茶臼小屋に別れを告げて登りに使った同じ道をひたすら下りました。

登り3時間35分、滞頂15分、下り2時間45分。約束通り正午の少し前にウソッコ沢避難小屋に戻ってみると、豈図らんや源さんとトキ氏は釣りに行かずに焚火を囲んでのんべんだらりと時間を過ごしていたとのこと。岩魚定食の夢はあえなく潰えて、代わりに彼らが作ってくれていた焼きそばと昨夜のイワナをご飯に混ぜ込んだイワナ飯をランチとしました。

こんな具合に当初の企画意図とは似ても似つかぬ内容の山行になりましたが、曲がりなりにも焚火を囲んでイワナを味わうことはできたし、茶臼岳の山頂からの大展望を堪能できたし、それに新しい友人を得られたのも価値のあることです。そんなわけで全体を通して見れば、まずまずの実りのあった二日間でした。