仙ノ倉山北尾根

日程:2020/03/20-21

概要:土樽駅から平標新道をバッキガ平まで入り仙ノ倉山北尾根に取り付いて、初日は小屋場ノ頭に幕営。翌日、北尾根を登って仙ノ倉山の山頂に達し、平標山から平標山ノ家経由平標登山口に下山。

山頂:仙ノ倉山2,026m / 平標山1,984m

分類:上信越

同行:---

ハイライトシーン

小屋場ノ頭の先から高みを目指して美しく伸びる雪稜。(2020/03/21撮影)
上部はクラストした雪面にアイゼンの爪をしっかり効かせて歩く。(2020/03/21撮影)

雪稜ルートにはあまり思い入れがない方ですが、この仙ノ倉山北尾根は数年前に記録を見かけて以来気になっていた存在です。クライミングの要素がなく単独でも行けるルートとして「いつか登る」リストの上位に置いてあったところ、春分の日の三連休は幸か不幸かロープを結んでくれるパートナーが見つからなかったので、この機会を使ってぶらりと訪れることにしました。

仙ノ倉山北尾根の歩き方にはいくつかの選択肢があり、尾根上にベースを設けてピストンしている記録もあれば軽装でワンデイで抜けている記録もありますが、車を使わない私はそのいずれでもなく、途中テント泊で二日目に仙ノ倉山頂に立った後に平標山から下山する計画としました。

2020/03/20

■08:55 土樽 ■11:00-15 群大仙ノ倉山荘 ■12:55 小屋場ノ頭

朝一番の上越新幹線で越後湯沢まで行って、上越線で折り返し土樽駅へ。スキーシーズンなので新幹線は混んでいるだろうとは思っていましたが、案の定指定席はすべて埋まっていました。一方上越線の方はがら空きで、スキーヤーはおろか登山者の姿もありません。寂寥……。

土樽駅に降り立ったのは私一人。この日は二つ玉低気圧が東へ抜けて行こうとしているタイミングなので好天は期待できませんが、今日の行程はさして長くないので、駅舎の中でゆっくり身繕いをしました。ザックはオスプレーのイーサー60AGの雨蓋を外して軽量化し、念のためのワカンをくくりつけてあります(結局使いませんでした)。

平標新道には雪が積もっていましたが先行者の足跡がしっかり残されており、これを辿ればほとんど潜ることなく足を進められました。そして1時間余りも歩いた頃に、前方に目指す北尾根が見えてきました。なるほど見映えのする尾根だなと感心しながらさらに進むと、取水堰の下流側に左岸から入ってくる小松沢に掛かっていたであろう橋がなくなっており、飛び石伝いで渡渉することになりました。幸い水量が多くはなかったので難なく渡ることができましたが、条件次第ではここで敗退ということもあり得たかもしれません。

渡渉後わずかの歩きで出てきたのがこの赤い建物。「群大ヒュッテ」と呼ばれることもありますが、看板に書かれていた名称は「群大仙ノ倉山荘」です。この山荘を見上げる道路の脇で昼食休憩をとってから、目の前に見えている北尾根の末端を目指しました。かつては対岸へ渡るために山荘のやや下流から「板が外された吊り橋」を使っていたそうですが、今では立派なコンクリート橋があってそうした苦労は無用です。

北尾根へは要所に赤テープや赤ペンキがあって迷うことはなさそうですが、立派な踏み跡ができていてラッセルの必要すらもありませんでした。どうやらこの踏み跡は複数人で、それもつい最近踏み固められたもののようです。先人の足跡を辿りつつ高度を上げてゆくと、徐々に周囲は雪雲に取り囲まれていきました。それでも初めのうちは時折日が差し込んでくれていたのですが、やがてはっきりと吹雪になってしまいました。

しょうがない、少し早いが小屋場ノ頭(1,182m)で幕営だと思い定めて登り続けたところ、これまたありがたいことに小屋場ノ頭のてっぺんに雪を掘り下げた幕営跡がありました。持参したスコップで軽く新雪を取り除きしっかり踏み固めれば整地は完了。さっさとテントを張って中に潜り込みました。

テントの設営を終えたのは13時半。ここから明日の朝まで寒気に耐えながらこの狭い空間に一人で過ごすことになりますが、こうしてテントの中で酒やつまみの類に手を出しながら何をするでもなく時間を使うことはきらいではありません。退屈したらiPhoneで電子書籍を読み、それにも飽きたらうたた寝をし、夕方になれば食事の準備をし……といった具合に気ままな閑居暮らし(?)をしているうちに夕闇が迫ってきましたが、テントの換気口から覗いてみると、いつの間にか高さを上げた雲の下に明日辿る稜線が姿を現していました。

2020/03/21

■05:30 小屋場ノ頭 ■08:40 シッケイノ頭 ■10:10-25 仙ノ倉山 ■11:30-40 平標山 ■12:15 平標山ノ家 ■14:40 平標登山口

午前4時起床。空を見上げると満天の星空です。手早く朝食をすませ、テントを畳んで出発する頃には周囲が明るくなってヘッドランプは不要になっていました。

小屋場ノ頭から向こうに見えている北尾根の本線までの間には、このルートのハイライトの一つである美しいスノーリッジが南南東の方向に続いています。昨日お世話になった踏み跡はこのスノーリッジの上にも残っていましたが、さすがに新雪が乗ってぼんやりした跡になっていました。最初のうちはノーアイゼンにストックでこのリッジを辿りましたが、途中で足の下の雪が硬くなってきたのでアイゼンを履き、片手はストックからピッケルに切り替えました。

易しいとは言ってもスリップすればただではすみそうにないリッジをこちらは慎重に進んでいるのに、両側の斜面を上り下りしているウサギの足跡は大胆そのもののルートどり。その勇気を少しは分けてもらいたい……と思っているうちにスノーリッジは終わり、振り返ると彼方に越後湯沢周辺のスキー場とホテル群が見えています。そして北尾根は標高1,500mのあたりで右に折れて南西に向かい、ここから樹林帯の上に出て見通しの良い尾根歩きになります。

スノーリッジを渡っているときに北尾根の上部を進む四人パーティーの姿が見えていたのですが、そのテントが尾根の上に置かれていました。昨日の吹雪の中をここまで進み、絶妙な位置に確実な設営技術でテントを張っているその様子に、パーティーの技量の程が窺えます。また、振り返ればスノーリッジの上の方に単独行が一人、小屋場ノ頭のあたりにも一人、いずれもワンデイでの登山のようです。

吹きさらしになる北尾根上部の雪面はクラストしており、最初に出てくる尖ったピークは稜の右側をアイゼンの前爪を効かせながら登りますが、適度な硬さのおかげで不安を感じることなくぐいぐいと登ることができました。しかし、もしここを同ルート下降するとなると気を使うクライムダウンになりそうです。

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その後いったん下って標高1,627mのジャンクションピークへの登り返しも傾斜がきつく、ふくらはぎの張りに耐えながらの前爪登攀となりました。ここでの滑落は致命的でアイゼン技術の確かさが問われるところですが、このジャンクションピークの上に立ってしまえばしばらくは幅広く穏やかな尾根歩きとなります。素晴らしい開放感の中、純白の世界に点在する懐かしいピークたちを遮るものなく眺めることができて最高の気分です。

茫洋としたシッケイノ頭(「シッケイ」とはカモシカのこと)を過ぎて最後の斜面に取り付いたところで、山頂から戻ってきた男女二人ずつの四人パーティーとすれ違いました。ラッセルのお礼を申し上げたところ、返ってきた返事は「上は風が強いので気をつけて」。確かに、見上げる斜面には雪煙が舞っています。風は右(西)から左(東)へと吹き抜けており、時折耐風姿勢をとらなければならなくなるほどでした。「ひゃー、これはきつい!」と思いながらもじわじわと足を進め、高さを稼ぎます。

強風の斜面を登り詰めたところから山頂まではほんのわずかの歩き。やっと登りついた山頂には男女ペアがいて、北尾根から登り着いた私を見て「あっちから登ってきたんですか?お疲れのところ申し訳ありませんが、写真を一枚お願いします」。

二人が平標山へと下っていった後に、待望のパノラマ撮影。強風のせいで画面が小刻みに震えていますが、この山頂から見る上越の山々の展望は抜群です。ちなみに、この仙ノ倉山の山頂に立ったのは1999年10月の馬蹄形縦走〜国境稜線縦走以来です。

あとは平標山を経て下山するだけ。心なしか風も収まってきたようで、ところどころ木道が露出している穏やかな山稜の上をのんびり歩きます。平標山からはひっきりなしに、アイゼン履きやスノーシュー履きの登山者が仙ノ倉山を目指して歩いてきていました。

平標山頂から振り返り見る仙ノ倉山。中央奥のピークが仙ノ倉山で、そこから左下に向かって伸びている尾根が北尾根です。その左奥の一番遠くに見えている雪山は、方角からすると八海山でしょうか?ともあれこの二日間、吹雪やら強風やらに見舞われはしたものの、それらもひっくるめて面白い登山ができました。

下山は平標山からヤカイ沢方向へ下るつもりでしたが、降り口を見逃し平標山ノ家経由となってしまいました。腐った雪に足をとられながらの急降下はそこそこ奮闘的で、ルートも判然とせず、今回の山行の中で唯一緊張しました。それでも無事に平標登山口に降り着いたのは14時40分でしたが、越後湯沢行きのバスはその20分前に出たところで、次の便は16時。これが「15時」だったら、今回の山行はほぼパーフェクトと言えたのですが……。