横岳西壁日ノ岳稜

日程:2020/03/07

概要:美濃戸口から歩き出して北沢沿いの道を赤岳鉱泉へ。柳川北沢右俣上流を詰めて横岳西壁日ノ岳稜に取り付き、岩稜・雪稜を辿って日ノ岳山頂へ。地蔵尾根を行者小屋へ下り、美濃戸口へ戻る。

山頂:---

同行:セキネくん

山行寸描

▲ルート全景。上の画像をクリックすると、日ノ岳稜の登攀の概要が見られます。(写真は2020/02/29に中山尾根下部岩壁手前から撮影 / 黄線は2020/03/07の登攀ライン)

3月第2週のこの週末はセキネくんと一ノ倉沢に入るつもりで登山指導センターに登山届を出していたのですが、登山指導センターからは「雪が少ないので注意して下さい」との指導あり。

その後、ネット上の各種情報でも目標としていたルートが藪漕ぎになりそうだとわかり悩んでいたところ、ダメ押しで3月7日から登山禁止期間に入ってしまいました。

代替プランはいくつか考えられたのですが、最終的に落ち着いたのは私が先週敗退していた日ノ岳稜です。苦しいときの神頼み、困ったときの八ヶ岳頼み。天気予報も土曜日1日なら良好そうなので、前夜発のワンデイでトライすることにしました。

2020/03/07

△04:45 美濃戸口 → △05:40 美濃戸 → △07:15-45 赤岳鉱泉 → △09:15-30 日ノ岳稜取付 → △12:50-55 日ノ岳 → △13:20 地蔵ノ頭 → △13:50-14:10 行者小屋 → △15:40 美濃戸 → △16:30 美濃戸口

前夜、小淵沢駅で落ち合って美濃戸口まで入り、私は八ヶ岳山荘の仮眠室泊、セキネくんは車中泊。4時に起床して山荘内で朝食をとり、準備ができたところでまだ暗い林道を歩き始め……というこの行動パターンは、1週間前のショルダー右リッジのときとまったく同じです。

南沢沿いの登山道をのんびり歩いて赤岳鉱泉に7時すぎに到着。アイスキャンディには誰も取り付いていませんでしたが、我々の視線はその向こうの横岳西壁に向けられました。中山尾根は下部岩壁が黒い三角形の岩二つなので同定が容易、そして目指す日ノ岳稜はその左隣です。

赤岳鉱泉で身繕いをして出発。私のチョンボでいきなりルートミスしかけましたが、セキネくんが冷静に軌道修正してくれて石尊稜に向かう沢筋に入りました。こちらの沢筋からも正面に中山尾根が見えており、そこから左へ日ノ岳稜と石尊稜を見出すことが可能です。目をこらすと、中山尾根下部岩壁の1ピッチ目の終了点に赤いヤッケを着たクライマーの姿も見えていました。

沢筋には先行者の踏み跡があり、これを追っていくと石尊稜の下で男性2人パーティーに追いつきました。自分がミスしなければラッセルを手伝えたのに……と後悔したものの、幸い石尊稜へは既に踏み跡ができている状態だったようです。私が石尊稜を登ったのは2003年2月のことなので既に17年も前。よって見上げる石尊稜はどこをどう登ったか記憶が定かではありませんが、今日セキネくんと私が向かう日ノ岳稜はその石尊稜の右側に入ってきている鉾岳ルンゼともう1本右手に切れ込んでいる日ノ岳ルンゼの間の尾根で、石尊稜の下からも日ノ岳稜の下部岩壁が見えていました。

石尊稜に向かう2人に別れを告げて入った日ノ岳ルンゼは積雪の上を細かいデブリが覆っていて膝上のラッセルになりましたが、先を進むセキネくんは適当なところから左手の稜上に乗り上げ、そのまま尾根の末端を詰め上げていきました。ここはこれと言って危ないところはなく、ほんの少しの歩きで日ノ岳稜下部岩壁に突き当たります。そこに設置されていた確保支点を、今回の登攀のスタート地点としました。

下部岩壁1ピッチ目(40m / III+?):セキネくんのリード。出だしに1mほどの垂壁があってこれに乗り上がることが難しい人のためにお助けスリングも置かれていましたが、雪で下地が上がっているせいかお助けスリングの必要は感じません。明瞭なホールドとスタンスを活用してよっこらしょと垂壁上に乗ったらバンドを右へ10mほど回り込んでゆくのですが、岩がぼろぼろで足を置く場所を選ばなければならず、ホールドもいいものがないのでセカンドでも少々緊張しました。ただし、この区間にはハンガーボルトが多めに設置されているのがありがたいところです。慎重にバンドを抜けたら傾斜のきつくないフェースを直上して灌木でビレイですが、このフェースも雪が消えていたら嫌らしかったかもしれません。

下部岩壁2ピッチ目(40m / ?):私のリード。目の前に顕著な凹角が見えており、そちらに向かって登っていくとハンガーボルトがあるのでまずはクリップ。このすぐ上で凹角が壁に突き当たっており、そこを右へ行くか左へ行くか迷ったのですが、オブザベーションの時点では右の方が灌木がしっかり生えていてランナーをとるのに好都合そうに思えたのでそちらに進んだものの、これは失敗でした。脆い岩壁を登り、細くて信用できない小灌木にランナーをとりながら狭い外傾バンドを右へ回り込み、どうにか横から上がってくるリッジをつかまえて1段上がってそこでビレイ。この間、ラインどりに迷い続けたために30分もかかってしまいました。ここはハンガーボルトから左上の小尾根に乗り上がるラインが素直だったようで、帰宅してからネット上の記録を見ても、そちらを辿った記録の方が主流派でした。

もう1ピッチ急な斜面を短く登ったら斜度の落ちた雪のリッジ上に乗り、さらにロープ長(50m)1本分登ると上部岩壁を見通せる場所に出ました。実は私はここまで体調不良で元気が出なかったのですが、この展望は気分爽快。左には石尊稜、右には中山尾根がいずれもすぐ隣に見えていて、それぞれを登るクライマーの姿もはっきり視認できました。

ここから上部岩壁の手前までは、片方が行動食をとっている間にもう片方がロープを引きながら先行するということを交互に行いましたが、上部岩壁手前にワンポイント悪い箇所があり、そこは慎重を期して確保してもらって通過しました。上部岩壁は正面から突破している記録もありますが、セオリー通りに右手へ回り込むと、10mほど先に左上へ通じる明瞭な凹角がありました。

上部岩壁1ピッチ目(20m / III+):セキネくんのリード。下部岩壁とは打って変わって岩がしっかりしているのがうれしいところ。この凹角を登るだけならIII級ですが、登り切った先にある高さ2mの大ピナクルの手前のワンポイントのトラバースがスパイスが利いています。

上部岩壁2ピッチ目(30m / IV-):私のリード。ピナクルの足元から小尾根に乗り上がってすぐに垂壁へ。斜度は立っていますが、ホールドは豊富でしっかりしており、ハンガーボルトも適度な間隔で設置されているので困難は感じません。まるでアイゼントレーニングをさせられているようなピッチでした。

この垂壁を越えて少し先にある枯れたハイマツのしっかりした幹にスリングを回して、これで登攀は事実上終了です。そこからもまだ尾根が痩せていたのでロープを外さずに登り続けましたが、50mも登らないうちに危険はなくなり、適当なところでロープを解いて各々のリュックサックにしまいました。後は日ノ岳の山頂を目指して緩やかな斜面を登るだけです。

先行していたセキネくんを追って私が無風快晴の日ノ岳山頂に到着したのは、下部岩壁1ピッチ目をリードのセキネくんがスタートしてから3時間20分後の12時50分でした。先週のショルダー右リッジが5時間かかったことと比べると大幅な時間短縮ですが、私が下部岩壁2ピッチ目でラインを誤って時間をロスしたことや体調不良のために歩きの区間でスピードが出なかったことを考え合わせると、本来なら登攀時間は2時間半程度ですんでいたものと思われます。ただし、もちろんこれは「この日のコンディションであれば」という注釈つきです。

日ノ岳の山頂で中山尾根最終ピッチを直登してきた2人組と言葉を交わし、横岳西面の岩稜ルートの数々を横から眺めながらしばし休憩。石尊稜上部には、朝方別れた2人パーティーの姿も見えていました。

下山は地蔵ノ頭から行者小屋へ。春山の陽気の中で腐り出した雪がアイゼンの下にダンゴを作るのをこまめに叩き落としながら慎重に下りましたが、どうやらセキネくんは中岳クーロアールを次の課題と見定めたようです。

この日、中山尾根や石尊稜にはそれぞれ複数のパーティーが入っていましたが、日ノ岳稜を登っていたのは我々だけでした。ルートの構成は石尊稜と似ていて、まず下部岩壁があり、緩やかな雪稜を経て上部岩壁に達するというもの。アプローチのルンゼに雪崩リスクがあることと下部岩壁の岩の脆さがマイナスポイントですが、中間の雪稜の眺めの良さや上部岩壁でのしっかりしたホールドに助けられたクライミングは爽快です。スピーディーで静かな登攀を楽しみたい方にお勧め。ダブルロープ使用、アルパインヌンチャクはパーティーで6本あれば十分ですが、灌木でランナーをとるために長めのスリングを多めに。カムを使う機会はありませんでした。