赤岳西壁ショルダー右リッジ

概要:美濃戸口から歩き出して南沢沿いの道を行者小屋へ。文三郎尾根の途中からトラバースしてショルダー右リッジに取り付き、稜線上のショルダーへ。赤岳山頂を踏んで文三郎尾根を下る。

日程:2020/02/28

山頂:赤岳2,899m

分類:八ヶ岳 / アルパイン

同行:セキネくん

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ルート全景。上の画像をクリックすると、ショルダー右リッジの登攀の概要が見られます。(2020/02/28撮影)

セキネくんと赤岳西壁ショルダー左リッジを登ったのは2016年3月のこと。以来「次は右」と言い続けていつの間にか4年がたってしまいましたが、いよいよ宿題を片付けるときが来ました。

これは左リッジを登ったときに行者小屋から撮影した写真(2016/03/26撮影)。赤岳西壁の主要なルートを示していますが、山頂から落ちてくるすべてのリッジが下部で末端壁に寸断されており、そこが各ルートの取付きとなっていることがよくわかります。右リッジはこれらの中で最も歯応えがある一本です。

2020/02/28

■04:40 美濃戸口 ■05:40 美濃戸 ■07:50-08:45 行者小屋 ■09:30 文三郎尾根途中

前夜、小淵沢駅で落ち合って美濃戸口まで入り、私は八ヶ岳山荘の仮眠室泊、セキネくんは車中泊。4時に起床して山荘内で朝食をとり、準備ができたところでまだ暗い林道を歩き始めました。

今年は暖冬・寡雪の八ヶ岳ですが、二日前の夜にまとまった雪が降ったために行者小屋周辺は見事な冬景色となっていました。今日は金曜日とあって、小屋周辺に張られたテントも数えるほどしかなくとても静か。見上げる赤岳には、これから登るショルダー右リッジがくっきりと見えています。ここでトイレをすませ、装備を身に付けてから文三郎尾根を目指しました。行者小屋に着いたときには気温はマイナス17度と厳しい寒さでしたが、文三郎尾根を登るにつれて太陽の光がこちら側にも届くようになり、気温が上がってきました。無風快晴、絶好の登山日和です。

ショルダー右リッジの核心部は下部岩壁の1ピッチ目とされており、『日本登山体系』にもこのルートは下部岩壁をいかに抜けるかにかかっていると書かれている通りですが、右リッジを登るためにはその1ピッチ目となる登路を見つけ出すことと、そこへどこからどう近づくかという二つの問題を解かなければなりません。

登路の選択については、『日本登山体系』では

  1. 左リッジ(第三リッジ)近くから取り付いて右上へトラバースし末端壁の上へ出る
  2. 右リッジ(第一リッジ)と第二リッジとの間の小ルンゼが落ちる凹状の部分から抜ける
  3. 赤岳沢左ルンゼへ入り第一の悪い滝の左手の壁へ取り付く

の三つが示されていますが、ネット上の記録を見ると左右二種類のルートが採られているものの『日本登山体系』の記述とは合致しません。今回我々が採用したのは現在登られている二つのルートのうちの左側で、それは「左の小リッジとの間の小ルンゼが落ちる凹状の部分」の右壁の中にある狭い凹角でした。

次にアプローチについては、赤岳沢を詰めるもの、主稜の1ピッチ目の途中から左ルンゼ側に下るものなどこれもいろいろですが、我々は四年前に左リッジを登ったときと同じく、文三郎尾根を上がって急斜面を登り終えいったん平坦になったところ、主稜へのトラバース開始地点より一段低いところから赤岳沢への斜面を下って赤岳沢を横断することにしていました。

文三郎尾根から下る斜面にはやはり新雪がついていましたが、深くても膝程度までのラッセルですみ、赤岳沢左ルンゼへ降り立ってから岩と岩の間の雪面を登って取付きより少し手前の多少安定した斜面でロープを結びました。

■10:20 ショルダー右リッジ取付き ■15:20 稜線

核心部となる1ピッチ目はセキネくんが引き受けてくれることになっているので、まずは私がロープを結んだ場所から取付きの直下まで近づきました。見上げる1ピッチ目は出だしが1メートル強のふくらんだ垂壁、ついで傾斜のきつい凹角になっており、垂壁の右側に残置ピンがひとつ、その上数mほどのところにも残置ピンが見えていますが、出だしでセキネくんにゼロピンをとってもらいたかったので私は取付きの一段下の露岩にスリングを回して確保支点としました。

1ピッチ目(15m / V)、以下奇数ピッチはセキネくん、偶数ピッチは私のリード。離陸前に最初の残置ピンに加えて左寄りにリンクカムを決めたセキネくんは、恵まれたリーチを活かして垂壁の上の遠いホールドをつかむと大胆に乗り上がって凹角に入り、慎重にカムを決めながら高さを稼いでいきました。やがて頭上に見えている灌木の向こうに消えたセキネくんからコールがかかり私の番となりましたが、16cmの身長差(ついでに書くと年齢は27歳差)はいかんともしがたく、セキネくんと同じホールドが私には使えません。しばし呻吟した後にいったん仕切り直すことにし、ダブルアックスを取り出して垂壁の上に引っ掛けるとしっかりした手応えが得られ、これでどうにか身体を引き上げることができました。凹角内は岩が脆いもののそれなりにホールドもあり、最後は灌木をつかんで末端壁の上に抜けましたが、灌木にスリングを回して確保してくれていたセキネくんは「これまで登った八ヶ岳のルートの中でここが一番難しかった」と感想を漏らしました。

2ピッチ目(70m / II)。特に難しいところのない雪の斜面を途中の灌木にランナーをとりながら登り、ロープがいっぱいになったところからはコンテに切り替えてさらに20m。リッジ上に段差を作る岩壁の足元まで達し、そこにかろうじて生えているハイマツの細い枝を数本束ねて確保支点を作りました。

3ピッチ目(10m / II)。岩壁の足元を右へ左ルンゼ側に回り込んでゆくピッチ。しかしあっという間にセキネくんから「ビレイ解除!」のコールがかかり「?」と思いながら後続しました。

4ピッチ目(30m / IV-)。先ほどのピッチをセキネくんが短く切ったのはその先のラインどりについて私と意識合わせをしたかったからでしたが、そのまま成り行きで私が左手の傾斜のある細かいフェースを登ることになりました。このフェース、雪が薄くかぶってホールドを隠している上に残置ピンも見当たらず、仕方なくアックスでホールドを探しながらの慎重な登りを強いられます。それでも、そこそこのランナウトの末にフェースの先の凹角に入るところで残置ピンを見つけてようやくひと安心。しかしその先の岩壁に突き当たったところで狭いバンドを右へ行こうか左へ行こうか迷いつつ不用意にランナーをとったために、左から岩壁を回り込みリッジ上に乗り上がってピナクルに確保支点を作ったときには屈曲したロープが恐ろしく重くなってしまい、セキネくんに屈曲点までフリクションヒッチで登ってもらうことになりました。申し訳なし……。

5ピッチ目(45m / III+)。リッジの右斜面からリッジ上を目指して斜上するピッチ。すいすいと登っていったセキネくんからコールを受けて後続してみると、ところどころに悪い一二歩があって油断はできません。

6ピッチ目(45m / IV-)。短いスノーリッジの向こうの特異な形状を持つ岩を越えてゆくリッジクライミング。最初の強傾斜部はカンテ状の右から取り付くと容易でカムも決まり、問題なし。いったん平らになってから二つ目の強傾斜部もよく探せば残置ピンがあり、その位置をヒントに手順を組み立てることができました。ここは右リッジの中で1ピッチ目についで登攀要素が顕著なピッチで、これを越えればもう難しいところはありません。

7ピッチ目(45m / III)。リッジの右寄り斜面を登って浅い凹角からリッジ上に回帰。確保支点から見ると赤岳天望荘が既に眼下になっており、隣の左リッジが近づいてきています。

8ピッチ目(35m / II)。終了点が近いことを意識しながら傾斜の落ちたリッジの上を淡々と登り、「ロープ半分」の声を聞いてから適当なピナクルを探してピッチを切りました。後続のセキネくんを振り返ると、背後の眺めは素晴らしい高度感。これこそがアルパインクライミングの醍醐味です。

9ピッチ目(20m / II)。最後はセキネくんがロープを引きずって登山道に合流。前のピッチからコンテで続けてもよかったかもしれませんが、とにかくこれで登攀終了です。

登山道上で握手を交わし、ロープを畳んだら赤岳山頂を目指しました。山屋としては一応ピークを踏んでおかねば。

■15:45 赤岳 ■16:45-17:00 行者小屋 ■17:20 赤岳鉱泉

我々の他には誰もいない赤岳山頂から360度の展望を楽しんだら、ただちに下降開始。文三郎尾根を下る道を目指しました。

文三郎道を下る途中からあらためてショルダーリッジを見上げてみると、その複雑な形状と先ほどまでの登攀の記憶とがぴったりとは重ならず「どこを登ったんだっけ?」という感覚が拭えません。登攀成功の高揚感はさほどなく、むしろ何やら狐につままれたような気分になりながら文三郎尾根を下りました。

この日のワンデイ限りで下山するセキネくんとは行者小屋で別れ、私は続く二日間の登攀のために赤岳鉱泉に向かいました。


ショルダー右リッジは、難しくて静かで面白いルートでした。残置ピンもところどころにありますが、基本的には自分たちでルートを見出しカムやスリングで確保支点を作りながら高みを目指すことになります。それが証拠に、今回の登攀の参考にした記録(複数)と我々の登攀とを照らし合わせてみると、ラインどりが違っていたり難易度の感じ方が異なっていたりしており、気象条件の違いも含め、それぞれに一期一会のクライミングとなっていることがわかります。

ともすれば渋滞にまみれる赤岳主稜や中山尾根を避けたいパーティーには、このショルダーリッジの左と右のルートをお勧めしたいと思います。ダブルロープ推奨、長めのスリング必携、そしてカミングデバイスが有効です。