塾長の山行記録

裏同心ルンゼ〜大同心正面壁雲稜ルート〔継続〕

概要:裏同心ルンゼからアプローチする大同心の冬季登攀。初日は単独で入山し、赤岳鉱泉に宿泊。翌朝、セキネくんと合流して裏同心ルンゼを登り、引き続き大同心正面壁雲稜ルートを登って、終了点から懸垂下降。大同心稜を下り、その日のうちに下山。

日程:2018/12/09-10

山頂:---

分類:八ヶ岳 / アルパイン

同行:セキネくん

裏同心ルンゼ。こんなに雪のない状態を見るのは初めて。(2018/12/10撮影)
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大同心を登る。上の画像をクリックすると、雲稜ルートの登攀の概要が見られます。(2018/12/10撮影)

アイスクライミングのシーズン到来。今年は(も)12月に入っても暖かい日が続き、赤岳鉱泉のウェブサイトには「アイスキャンディが凍らない」と悲鳴のような記事がアップされる状態でしたが、ここはダメ元で突っ込んでみようとセキネくんを誘いました。そして、せっかく強靭な彼の同行が得られるなら意欲的なプランにしようと考え、ヒロケンさんの『チャレンジ!アルパインクライミング』にも掲載されている裏同心ルンゼから大同心正面壁雲稜ルートへの継続登攀としました。裏同心ルンゼを大同心へのアプローチとして使うというのは確かに合理的な発想で、実は我々も2016年3月に大同心北西稜を登ったときに裏同心ルンゼを遡行することを考えたのですが、さすがに3月の裏同心ルンゼは雪に埋もれており、仕方なく大同心稜をえっちらおっちら登ったという経緯がありました。今回も、もし裏同心ルンゼの結氷が甘いようであれば、大同心稜を登って雲稜ルートだけでも登る計画です。

2018/12/09

■13:15 美濃戸口 ■14:10 美濃戸 ■15:50 赤岳鉱泉

セキネくんの仕事の都合に合わせて登攀日は月曜日。日曜日の仕事を終えてから長駆茨城県から車を飛ばしてくる彼とは赤岳鉱泉で合流することにし、私は一足早く日曜日のうちに入山しました。

9月30日に上陸して各地に甚大な被害をもたらした台風24号の爪痕は、この美濃戸口からの登山道にも残されています。登山道が柳川を渡る箇所も増水のためにひどくえぐれてしまったようで、再整地ののちに新しい橋が架けられていました。

北沢沿いの登山道にも雪はなく、かろうじて(?)ところどころが凍りついている程度。持参したチェーンアイゼンを出すまでもなく、赤岳鉱泉に到着しました。見上げるアイスキャンディは骨組みばかりの寂しい姿ですが、その向こうの大同心は白いものをまとっており、稜線には雪煙も舞っていて、それなりの冬模様です。

宿泊の手続を済ませて案内された部屋の名前は「大同心」。受付の際に翌日の計画を申告してありますから、それを見てこの部屋をチョイスしてくれたのであれば実に気の利いた扱いです。部屋に荷物を置いてカップ酒を飲んでも1人などと自由律俳句をひねってはみたものの、本当にこの部屋は独り占め。それどころか、夕食のときに食堂に降りてみたところ、この広い赤岳鉱泉でこの日の宿泊者は私ひとりだったようです。

2018/12/10

■07:00 赤岳鉱泉 ■07:35 裏同心ルンゼF1 ■10:50 裏同心ルンゼF5の上 ■11:50-12:00 大同心稜デポ地点

朝、予定通り7時にセキネくんと合流しました。昨夜は途中のパーキングエリアで1時間の仮眠をとっただけで、5時に美濃戸を発ってここまで歩いてきたそうです。ご苦労さま。

前日仕入れておいた情報では、裏同心ルンゼは問題なく登れそうとのことだったので、計画通り裏同心ルンゼに向かうことにしました。硫黄岳へ向かう登山道を歩いてしばらくしたところから裏同心ルンゼに入りましたが、最初の滝が出てくるまでの間も雪はなく、ツボ足のままでのアプローチとなりました。

F1に着いてみると、滝の上に既に一組、滝の下にもう一組とソロが1人。先行のパーティーが登る様子をチラ見しながら身繕いを整えていたところ、ソロクライマーが先を譲ってくれたのでありがたく三番目で離陸しました。まずは私がリードしましたが、滝自体はしっかり凍っていてアックスもアイゼンもよく決まり、スクリューもしっかり入って快適に登れます。後続したセキネくんが次のF2をリードし、以下交代交代でロープを伸ばしました。いくら登っても周囲には雪の気配がありませんが、ルンゼ内は氷の廊下が続き、滝もその本来の高さを明らかにしていて、かえって良い状態だと見ることができそうです。

それにしても気温が高い。後から追いついてきたソロクライマーと「温かいですねぇ」と会話を交わしたくらい穏やかな気候で、おかげでF3はシャバシャバに水がしたたる状態でしたが、それを除けば恵まれた条件の中でのクライミングが続きます。最後のF5はセキネくんのリードになりましたが、これまた高さが出ていて気分良し。落ち口の氷が相当に堅かったのは、さすがに標高が上がって冷え込みがきつい位置にあるからなのでしょう。

F4を除くすべての滝で先行パーティーの登攀を待つことになったためにかなり時間がかかり、F5の上に出たのはF1を登り始めてから3時間あまり後でした。そこからただちに右手の氷のルンゼを登り、大同心の足元を横断して大同心稜まで進み、用途を終えたスクリューなどをデポすることにしました。お湯を飲み、行動食を口にして、ここからはザックをひとつにまとめて第二ラウンドの開始です。

■12:20 雲稜ルート取付き ■15:35 大同心の肩 ■16:15-50 雲稜ルート終了点

雲稜ルートは無雪期に登ったことがありますが、冬靴・アイゼンで登るのは初めて。セキネくんも同様で、完全防寒のこの出で立ちではフリーで登り切ることは難しく、アブミを駆使しての人工登攀を想定しています。もっとも見上げる正面壁は黒々としており、これでは(持ってきていたなら)クライミングシューズでも登れたかもしれません。

雲稜ルートの取付きは明瞭で、出だしには青いスリングでビレイポイントが作られており、さらに頭上の小ハング部にはご丁寧に赤いスリングが残置されています。いずれもガイドパーティーが残したものだと思いますが、出だしはともかくあの赤スリングはいくらなんでもやり過ぎでは?と思いつつロープを結んで、ここから奇数ピッチをセキネくん、偶数ピッチを私がリードすることになりました。

1ピッチ目、セキネくんのリード。岩の膨らみの右側にあるクラックが良好なホールドを提供してくれていて、これを手掛かりにしつつアイゼンの爪痕を辿りながら一段上がったレッジに立つと、目の高さに打たれているピトンに最初のランナーがとれてほっとひと息。そこからは左上のハングに向かってボコボコの岩壁を登り、赤いスリングあたりからアブミの出番です。不慣れなアイゼン・アブミの組合せでは用具の取回しも難しく、セキネくんはテンション混じりで慎重に抜けていきました。

2ピッチ目、私のリード。一段上がってから左へトラバースし、オープンブック状のつるっとした岩に設けられたしっかりした支点を活用してアブミを二手つなぎ、ここを越えたらさらに左上。そこにある銀ピカのハンガーボルトにランナーをとればひと安心で、ここから垂直ではあるもののホールドは豊富なカンテ状をオープンブックの上へ戻るように右に回り込みつつ高さを上げ、カムをひとつかませてから右上のテラスに立てば古いビレイポイントあり。

本当はここでピッチを切るべきだったのですが、まだロープの出具合が足りないだろうと思った私はさらに登り続けることにしました。ところが、そこからの草付き岩混じりの壁は見た目に傾斜が寝ているようでも意外にいやらしく、本来のコースに対して左寄りに追い上げられてしまいます。これは失敗したと思ったときに古いリングボルトとRCCボルトが連打された場所に出たためにそこでピッチを切りましたが、どうやらそこは正規ラインを左上に外した場所だった模様です。振り返りみると隣の大凹角ルートが間近で、そちらのリングボルトたちもはっきり見えていました。

3ピッチ目、セキネくんのリード。私がピッチを切った場所から右手に浅い凹角状の垂壁があり、おそらくそちらがルートだろうとは思うものの彼も私も過去の記憶はうろ覚え。確信が持てないままにセキネくんは、遠い間隔で打たれたピトンと御守りとして私が持参したリンクカムを頼りに登っていきました。長くはないながらも高度感抜群の垂壁登りを終えると、そこにはセキネくんが見覚えているという確保支点が残されており、ドーム基部のトラバースバンドも行く手に見えていて、これで正規ラインに戻ったことがはっきりしました。

4ピッチ目、私のリードで横断バンドの入り口まで。傾斜はさほどではなくホールドも豊富ですが、このあたりになると継続登攀の疲労がはっきり出てきて、ちょっとした垂壁を越えるのもテンション混じりになってしまいます。

続く5ピッチ目はセキネくんが横断バンドをトラバース。途中にある出っ張り岩を抱え込んで慎重に通過すれば、安定した確保支点に到達します。時刻は15時半、残るはあと1ピッチ。微妙なタイミングですが、あと1時間以内に登攀を終えられれば、明るいうちに大同心稜に戻ることができるでしょう。

最終ピッチ、私のリード。以前ここを登ったときはセカンドながらさほど苦労した記憶がないために、ある意味甘く見て取り付きましたが、それは大間違いであることにすぐ気付きました。二つランナーをとってから次のピトンが遠く、ここでまず逡巡。幸い何度目かのテンションを掛けた拍子に立ち位置が右寄りに変わったことで手がピトンに届くことを発見し、どうにかクイックドローとアブミを掛けてここを突破しましたが、この小さい奮闘で腕力を吸い取られた私は、以後各駅停車になってしまいます。数m上がった位置にある垂壁の人工登攀でテンション、一段上がって右に回り込んで最後の垂壁でもまたテンション。フォールこそしなかったものの、セキネくんの献身的なビレイに助けられながらじわじわとロープを伸ばして、やっと終了点にセルフビレイをとったときには40分が経過していました。

この長時間のビレイはセキネくんの腕力も消耗させており、後続したセキネくんも奮闘を重ねながら上がってきます。終了点に立つ私の眼前で夕日が西の山並みの向こうに徐々に沈んでゆき、家路を急ぐ山鳥の群れが大同心すれすれを鋭い風切り音をたてて通り過ぎて行きましたが、我々にはほんの数m上にある大同心のてっぺんに登る時間も残されてはいません。

やっとの思いで登り着いたセキネくんと、互いの健闘を讃えあってグータッチ。しかるのち、直ちに懸垂下降を開始しました。

■17:40-50 大同心稜デポ地点 ■18:50-19:15 赤岳鉱泉 ■20:30 美濃戸

あたりがどんどん暗くなりゆく中、まずセキネくん、ついで私が懸垂下降して大同心ルンゼ寄りに着地しましたが、ここでまさかのロープスタック。2人がかりで引いても抜けてくれません。最後の最後になんてことだ!と内心強く焦りつつ、懸垂下降支点の真下まで登り返してからあらためて引いたところ、なんとかロープが動いてくれました。やれやれ助かった。このロスタイムの間に日はとっぷりと暮れてしまいましたが、セキネくんのヘッドランプの灯りを頼りにデポ地点に戻ってお湯と行動食で一息つけば、あとは勝手知ったる大同心稜を下り、赤岳鉱泉から美濃戸へと歩くばかりです。

山行は残業、帰宅は午前様。シーズン初めにしてはハードな1本となってしまいましたが、楽しいクライミングができました。ロープを結んでくれたセキネくんには感謝あるのみです。ありがとうございました。


今回の大同心はエビのシッポの1本もついていないほぼ無雪期同様の状態でしたから、これをもって雲稜ルートの冬季登攀と呼んでいいかどうかは若干微妙です。かと言ってもし残置ピンやホールドが氷雪にコーティングされた状態でもう一度登れと言われたら、いかにルートファインディング面で有利になったとしても、今の自分の力量でまっとうな時間内に登りきれる自信はありません。よって今回は、気象条件に恵まれて身の丈に合った登攀ができたと考えるのが、妥当な線であるように思われます。