塾長の山行記録

宮川大杉谷堂倉谷下部

概要:大台ヶ原駐車場から日出ヶ岳を越えて大杉谷方向に下り、堂倉避難小屋泊。翌日、さらに下って堂倉谷に入り、奥七ツ釜を過ぎて堰堤を越えたところで支沢から林道に上がり、堂倉避難小屋にデポした用具を回収した後、大台ヶ原駐車場へ上がる。

日程:2018/09/01-02

山頂:日出ヶ岳1,695m

分類:近畿 / 沢登り

同行:T女史 / ツジタ夫妻

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奇観・奥七ツ釜。上の画像をクリックすると、堂倉谷下部の遡行の概要が見られます。(2018/09/02撮影)

昨年のゴールデンウイークに吉野川水系下多古川の「琵琶の滝」で亡くなった沢友・ひろた氏の追悼を兼ねた近畿ツアーは、昨秋にも計画していたものの雨天で流れて今年に持ち越し。関西在住の山友であるT女史と連絡を取り合い、さらに今年から名古屋住まいとなったツジタ夫妻にも声を掛けて、台高の谷の代表格である大杉谷上流の堂倉谷を目指すことにしました。計画は、土曜日に大台ヶ原駐車場から登山道を下り堂倉谷に入渓してその日はアザミ谷出合で幕営し、翌日さらに林道横断点まで遡行を続けてから林道と登山道をつないで大台ヶ原駐車場に戻り、その後に琵琶の滝に向かうというものです。

ところが、夜行バスで土曜日の早朝に大和八木に着いてみると、ものすごい雷雨。雨雲レーダーを見るとこんな感じ(左から9時・12時・18時・24時)ですし、ツジタ夫妻「名古屋はすごい雨です笑」、T女史「大阪、雨!」と悲鳴のようなメッセージも入ってきていました。

何はともあれ、私は近鉄で六田駅まで移動して大阪から車でやってきたT女史と合流し、さらに大台ヶ原の手前にあたる「道の駅 杉の湯 川上」に移動して、ここでT女史とツジタ夫妻が初対面の挨拶。この時点ではツジタ夫妻は「今日は観光でもして、夜は宴会だな」と完全に山モードを離れていたようですが、T女史の提案は、堂倉谷を明日ワンデイに切り替えて、今日の内に琵琶の滝詣での後、この日の行動は堂倉避難小屋までとするというものでした。それではという訳で、私はT女史に案内していただいて琵琶の滝に向かうこととし、一方、ツジタ夫妻はいったん別れて食料などの買い出しを行い、しかる後に大台ヶ原駐車場に正午に集合することになりました。

2018/09/01

■12:25 大台ヶ原駐車場 ■13:30-45 滝見ポイント

琵琶の滝詣でをすませ、大台ヶ原駐車場に到着。するとあら不思議、空の一部には青い部分も見えています。

ここから直ちに堂倉避難小屋に下っても時間を持て余すだけなので、これまたT女史のアドバイスで大台ヶ原南面の東ノ川上流に掛かる西ノ滝と中ノ滝を見に行くことになりました。

「滝見」という甘い言葉にやさしい遊歩道歩きを想像していた我々(=T女史以外)は、物見遊山のノリでおしゃべりをしながら歩いていたのですが、シオカラ谷を渡ったところから整備された登山道を離れて尾根筋の踏み跡の激下りとなるにつれ、徐々に無口になっていきました。

この道、東ノ滝あたりまではまだしもですが、その先は明らかにエキスパートの世界。ところどころに残されている蹄鉄状の鉄棒は、かつてそこに木の階段があったことを示していますが、今やそうしたものは腐って跡形もなくなり、ルートは獣道に毛が生えた程度になっています。そんな下りを1時間近くも続けて「帰りはここを登り返すのか……」と暗澹たる気持ちになってきた頃、目指す二つの滝を見下ろせる展望ポイントに到着しました。

確かに、このスケールはすごい!これは一見の価値ありですし、ここで地図を見てみればこの尾根が「滝見尾根」と名付けられているのも納得です。やる気満々のT女史は滝の真下まで案内したかったようですが、我々(同)はその厚意を丁重に固辞し、ここで満足して引き返すことにしました。

■14:50-15:20 大台ヶ原駐車場 ■16:00-10 日出ヶ岳 ■17:25 堂倉避難小屋

1時間の登り返しで駐車場に戻ってから、装備を整えていよいよ出発。行程が変わったためにテントを運ばなくてもよくなったのが、嬉しい変更点です。

大台ヶ原駐車場から日出ヶ岳までは、スニーカーでも歩けるくらいに整備された登山道。癒される……。

大台ヶ原の最高地点である日出ヶ岳の手前にある展望台からは、雲の下に熊野灘を見通すこともできました。あの天気予報はどうなってしまったのか?

そこからほんのひと登りで、日出ヶ岳に到着しました。この山頂に立つのは27年ぶりです。

南には海、そして西には大峰の山々。いつかあちらの奥駈道も歩いてみたい。

あらかじめT女史から「激下りですよ」と脅されていた我々(同)でしたが、豊かな森の中を先頭を切ってぐいぐい下ってゆくT女史に引っ張られながらの1時間余りの山道はそれなりに楽しく、やがて頑丈な造りの堂倉避難小屋に到着して荷を下ろしました。

T女史のザックからは次々に生野菜が登場し、ポトフの配給まであって、いずれも美味しくいただきました。しかしテントなしとは言え、わずか40リットルのザックにどうしたらこれだけの食材やギアを収められるのか、毎度のことながら不思議でなりません。おかげですっかり満腹になった後は、ライトを消して眠るだけ。20時頃には就寝しましたが、シュラフから半身を外に出してちょうどよいくらいの気温で快適に眠ることができました。

2018/09/02

■06:10 堂倉避難小屋 ■06:55-07:10 堂倉滝橋 ■09:55-10:00 アザミ谷出合

5時起床、6時過ぎに出発。昨夜は雨音を聞くこともなく、そして今日もどうやら天気には恵まれそうです。

堂倉避難小屋のすぐ下には林道が走っており、これを右へ少し歩いたところから尾根筋につけられた明瞭な登山道を下ると、徐々に沢音が近づいてきました。

見下ろす沢筋は思ったほど増水しておらず、また昨日の下多古川とは打って変わって水も澄んでおり、豪雨の影響をほとんど受けていないようです。立派な姿をした堂倉滝を見ながら堂倉滝橋のたもとで沢装備を身に付け、ここからT女史を先導役にして遡行を開始しました。橋を渡って向こう岸の道を少し進み、左の大杉谷を渡る吊橋の手前から右手の斜面につけられた仕事道を登って尾根の上に上がると、そこには単線の軌道あり。これに沿ってほんの少し進んだところから怪しげなフィックスロープに導かれてガレのルンゼを下った先が、堂倉谷です。

この沢、のっけから素晴らしい渓相にテンションが上がります。ちょっとした階段状の小滝を越えた先に釜を持った7m滝があり、いきなり腰上まで水に浸かって右側から回り込んでこれを水線通しに越えると、目の前には立派な斜滝30m。これは登れないのですが、すぐ右から明瞭な巻道が続いていて、斜滝の上流に難なく降り立つことができます。そしてここからが釜と斜滝が連続する中七ツ釜と呼ばれるところで、トポの記述と見比べてどれがどれと同定する暇もなく、へつったり乗っ越したり泳いだり。その詳細は〔こちら〕の写真で紹介しますが、ここはむしろトポをしまいこんで目の前の地形を観察し、自分の感性を最大限に発揮するのが楽しいところです。

中七ツ釜が終わるとしばらくゴーロ帯になりますが、これまた積み重なったボルダーを上手につないで上流を目指すパズル解きのような面白さがあって、飽きることがありません。それでもそろそろ遡行を開始して2時間くらいがたつので、目の前に巨岩が鎮座しているポイントに出たところで小休止をとることにしました。空は高曇りで暑くもなく寒くもなく、絶好の沢登り日和と言ってよいほどです。

行動再開。すぐに登場したのがこちらの斜滝10mで、部分的に手がかりが乏しく滑りそうな場所があるためにロープを出しましたが、途中にお助け紐が二か所あってランナーを取ることができ、さほどの困難はありません。この滝ではカムが使えるという情報もあり、確かに先に登った者がセルフビレイを確実にしたいならそれは有効かもしれませんが、セカンド以降をタイトに確保してやればそこまでの備えは必要ないように思いました。

ついで、ダイナミックなゴルジュ状の地形で頭の体操(中央突破の可能性を探ったものの、結局は左岸巻き)をした先でアザミ谷出合に達しました。本来の計画であれば昨夜はここで幕営するはずだったのですが、少々狭いものの確かにここは格好のキャンプサイトになっていて、焚火のための焚付けも山ほど積み上げられています。ここで焚火を眺め、沢音を聞きながらお酒を呑んだら最高の気分だろうと思いましたが、こればかりは巡り合わせなので仕方ありません。

■10:15-30 奥七ツ釜 ■11:35-40 堰堤

アザミ谷出合から左方向へ折れるように堂倉谷の本流を進みます。出だしは巨岩帯になっていますが、ここもパズル解きを駆使して巻かずに正面突破。

すぐ先に両岸から岩が迫る樋状の滝があり、これを左岸から巻いて降り立ったところが、この沢で最大のビューポイントである奥七ツ釜でした。なるほどこれは面白い。もとは大きなナメ滝であったと思われる場所の途中に差し渡し10mにも達しそうな巨大なポットホールが複数連なって複雑怪奇な地形を形成しており、まさに奇観です。少し手前からこの地形を眺めながら小休止をとり、その後にポットホールに近づいてみましたが、透明度の高い水にも関わらず穴の底がどこまで深いのか見通すことができません。いくつかのポットホールは水流が渦巻いていて危険ですが、上段左のプールは水の動きも穏やかで、ここに飛び込むのは「お約束」になっているようです。

しばらくの間、大小のポットホールが目立つナメ床帯を進んだ先に、斜滝15mが現れました。ここは見たところ左側からアプローチできそうですが、最後の水線沿いが厳しそう。そこで釜の中を右壁から胸まで水に浸かって回り込んで滝の正面に立ったところ、ど真ん中のリッジが登れそうです。トポの記述は右側を直登だったようですが、こういうところは現地判断が大事。実際、登ってみればなんら困難はありませんでした。

さらに続くナメ床、そして釜のへつり。渓相はすっかり癒し系ですが、あえて難しそうなへつりに挑んで互いの技量を競い合う楽しみも残されていました。

「堂倉ブルー」と呼びたくなる美しい淵(もっともT女史によれば、こちらでは「前鬼ブルー」の方が著名だそうですが)の先に唐突に高い堰堤が現れました。ここは右岸からの岩登りでぴったり堰堤の上に乗り上がることができますが、最後の数mは落ちればただではすまない高さでの残置ロープ頼みのトラバースとなり、自分にとってはここが今回最も怖いポイントでした。

堂倉谷はこの先に林道の横断点があり、さらに上流でいくつかの支沢に分かれて、それらのいくつかはいずれも遡行価値が高いそうですが、今回はここまでで終了です。堰堤の少し先の河原で装備を解き、左岸に落ちてきているガレ沢を10分ほど登ればそこが林道で、堂倉避難小屋まではほぼ平坦な道を30分余りの歩きでした。

■12:35-13:20 堂倉避難小屋 ■15:15-25 日出ヶ岳 ■16:00 大台ヶ原駐車場

堂倉避難小屋に戻ってデポしてあった寝具や食器・火器を回収してパッキングし直し、昨日1時間余りかけて下ってきた山道をひたすら登り返しました。

登りは2時間。時折雨がぱらつく場面もありましたが、潤いの多い山道を歩くのは苦にならず、最後は再び日が差してきた日出ヶ岳の山頂を踏んでから、大台ヶ原駐車場に戻りました。


近畿の沢を遡行するのは初めての経験でしたが、この堂倉谷は名渓と呼ばれるにふさわしい、素晴らしい沢だと思いました。上述の通りのダイナミックな地形との知恵比べ・技術比べ・体力比べが楽しく、わずか半日の遡行とは思えないほどの充実感を味わうことができました。

泳ぎあり、へつりあり、ポットホールあり。堂倉谷の魅力をコンパクトに凝縮した区間を案内してくれたT女史には、感謝あるのみです。また、相変わらずのオシドリ夫婦ぶりを見せてくれたツジタ夫妻が同行してくれたことで沢旅の楽しさが倍加し、終始笑いの絶えない二日間となりました。できれば来年またこの4人で、どこかの沢を遡行したいものと勝手に思っているのですが、皆さんどうでしょうか?もちろんそのときは沢中での焚火泊つきで。ただし、超健脚のT女史には少し手加減していただいて……。