塾長の山行記録

瑞牆山大面岩正面壁北稜会ルート

概要:瑞牆山大面岩正面壁の人工登攀ルート「北稜会ルート」を登る。

日程:2017/09/27

山頂:---

分類:関東周辺

同行:セキネくん

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出だしは長い垂壁。上の画像をクリックすると、大面岩正面壁北稜会ルートの登攀の概要が見られます。(2017/09/27撮影)
傾斜の緩んだリッジの登攀。最高のロケーション。(2017/09/27撮影)

今年は「宿題を片付ける年」にしようと目論んでいた私。その「宿題」の中には甲斐駒ヶ岳のAフランケ赤蜘蛛ルート、前穂高岳東壁Dフェース都立大ルート、そして屏風岩の東壁ルンゼ上部(下部は2009年に既登)という3つの人工登攀ルートが含まれているのですが、そのうち赤蜘蛛と東壁ルンゼは計画を立てるところまで行ったものの天候に恵まれず、いずれも直前に流れてしまいました。そのまま来年に持ち越しとなる前に、1本アブミのルートを登っておこうとセキネくんが物色してくれていたのが瑞牆山大面岩おおづらいわの北稜会ルートで、秋の一日を使ってここを登ることにしました。

ちなみにこのルート、『日本登山体系』の表記では「北稜ルート」で、大面岩の南面(正面壁)にあるのになぜ北稜かと言えば東京北稜山岳会(この「北」は「東京都北区」のこと)が拓いたルートだからですが、今では「北稜会ルート」と記載されることが通例のようですので、ここでも「北稜会ルート」と記すことにします。

2017/09/27

■09:15 駐車場 ■10:10-40 左稜線取付き

待合せは7時過ぎに大月駅前。セキネ号に拾ってもらい、一路瑞牆山を目指します。甲府盆地の南方向は雲が垂れ込めていましたが、北の方は青空が見えていました。この日、夕方から雨の予報なので登攀はスピーディーに片付けたいところです。

植樹祭広場の200m手前の道路脇駐車スペースに車を置いて、緩やかな登山道を落葉松の林の中へ。この道はカンマンボロンに登った2008年にも辿った道ですが、そのときはボルダーは目に入らなかったような気がします。開拓が進んだせいかな?しかしセキネくんは、ブラシで落としていないチョークの跡に憤慨していました。

緩やかなようでいて意外に登りでがある道を進むこと30分余りでカンマンボロンが木の間越しに姿を現し、さらに先に進むことしばしで大面岩正面壁の下に着きました。しかしこちらも樹林の間から岩壁を透かし見るような具合になっており、大面岩の全体像を把握することができません。ちょうど女性クライマー2人が完全武装姿で左上の斜面から降りてきたところと行き会いましたが、会話の内容からどうやら目指すルートを探しまわっている様子であることがわかりました。

我々はセキネくんのトポを頼りにカンマンボロン方向(つまり女性2人が降りてきた方向)へ上がっていきましたが、どうもトポの記述に合うルートが見つかりません。おかしいなと右往左往している内にセキネくんがふと見つけたルートは、リングボルトのラダーになっています。傾斜がずいぶん寝ているし、カンテ状とはちょっと違うような気もするし、ハングも見えないし……要するにトポが説明する北稜会ルートとは似ても似つかないのですが、この辺に他に人工登攀のルートはないだろう、との思い込みのもとにここを北稜会ルートと見立てることにしました。

というわけで1ピッチ目はセキネくんのリードでリングボルトを辿ったのですが、上に着いたセキネくんから、どうやらここは(今ではパスされることが多い)大面岩左稜線1ピッチ目らしいという声が降ってきました。

仕方なく私も後続してセキネくんのところに達してから、岩壁の基部をトラバース。幸い、明瞭な踏み跡を使いわずかの歩きで目指す北稜会ルートの取付きとなる安定したテラスに着いたところ、そこには先ほどの女性パーティーがいました。既に1人は登り始めていましたが、彼女たちが登るのは北稜会ルートの派生ラインをフリー化した「フリーウェイ」(8P / 5.11b)。我々は男らしく(?)ディレッティシマに真上を目指します。それにしても、平日で他に誰もいないこの大面岩で、たまたま出くわしたこの2パーティーが同じ取付きからスタートすることになるとは、何とも奇遇です。

■11:15-25 北稜会ルート取付き

あらためて1ピッチ目、セキネくんのリード。かつてはその出だしにミニチュアアブミが掛けられていてよい目印になっていたそうですが、今はありません。そして頭上には、垂直に立った壁の途中に張り出したハング。

……とは言ってもハングのサイズは数十センチでハングの庇のすぐ上にボルトが打たれているので問題はないのですが、問題はボルトの遠さとピッチの長さです。身長188cmのセキネくんが「遠い!」とこぼすくらいですから身長172cmの私には手強い間隔で、それでもセカンドの気安さで頑張って最上段に立ち続けましたが、やはりハングのところではアブミが安定しないために最上段に立つことができず、ここだけチョンボ棒のお世話になりました。

永遠に続くかと思われる1ピッチ目(実際は35m)がようやく終わって、直ちに2ピッチ目は私のリード。おっ、今度はボルトの間隔がマイルドだぞ?ほとんどの箇所で上から2段目に立てば届く位置にボルトが打たれており、ここにボルトを打った人の心根の優しさが感じられます。途中に1か所、リングボルトのリングがなくなっていたためにマイクロナッツをかませる場面がありましたが、プロテクションはこのラインに並走する「イクストランへの旅」(ピッチグレード5.13a)のハンガーボルトも使えるので不安はありません。途中から傾斜も緩くなってぐいぐいと気分よく高度を上げましたが、最後に木の生えた外傾テラスに達するところで先ほどの「フリーウェイ」ペアと交錯することになったため、セカンドが抜けるのをハンギング状態でしばらく待ちました。

3ピッチ目はセキネくんのリード。外傾テラス下部の太い木から左上の壁へ数m斜上して、そこにある支点から短い垂壁を乗り越し少し登ると顕著なカンテ状になります。このピッチに『日本登山体系』は「IV」とグレーディングしていますが、もしかするとそれはカンテの左手の木の生えたルンゼを登った場合かもしれません。実際のルートはつるりとしたカンテの左サイドのボルトラダーで、カンテの真ん中にクラックが入り段差ができているところでセキネくんはハンギングビレイをしていました。ここまで、『日本登山体系』の切り方で言うと3ピッチ目と4ピッチ目をつないだかたちになり、50mロープでぎりぎりでした。

ここでも15分ほど先行パーティー待ちがあり、その間に身体が冷えてきた私はヤッケを1枚羽織りました。

4ピッチ目、私のリード。出だしがクラックで縦に割れているカンテをジャミング混じりで登りますが、無理にフリーにしなくてもアブミの最上段に立てば次のボルトには十分届きます。短時間の登りで安定したテラスに出ましたが、ここが『日本登山体系』で言うところの「なげきのテラス」なのでしょうか?ネーミングの由来は不明で、むしろ安心して立っていられるオアシスのような場所でした。高度感も展望も抜群、クライミングをしていなければ立つことのできない場所にいられて幸せ……と言いたいところですが、この頃から雲がぐっと下に降りてきて周囲に霧も立ち込め始め、とにかく早く上に抜けなければと焦りが生まれます。

5ピッチ目は出だしの壁を越えたら傾斜が緩いスラブ状に見えますが、先行パーティーのセカンドが非常に慎重にフリーで抜けていったのを見ていたので実は緩くはないなと思っていたら、やはりアブミが手放せない傾斜でした(実際は5.10c/d)。それでも最後はルートの向きと斜度が変わり、人工登攀からフリーに移っていくつかの段差を越えると、ほぼ頂上に到達しました。

■16:05-35 大面岩頂上 ■16:55 大面岩と小面岩のコル ■18:00 駐車場

最後の四角い岩塔の上には正面からと背後からの二つの登り方があるようですが、我々は後者を選択しました。ロープをずるずると引きずって岩塔の左を歩き、大まかな岩の寄せ集めのような場所で岩塔の一角に乗り上がると、すぐそこが大面岩のてっぺんでした。先行していた女性2人は既に下降しており、頂上は我々の独占状態です。

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霧の中に、瑞牆岩の本峰や大ヤスリ岩、小ヤスリ岩が意外に遠く見えていますが、ここからの見ものはやはり谷をはさんで対岸にある十一面岩です。とりわけもっこりと立ち上がったモアイフェースの威容は目を引き、そこに引かれた「千日の瑠璃」の「5.14a R/X」というグレードにあらためて畏怖を覚えました。

ともあれ、雨が降り出さない内にトップアウトできてよかった。セキネくんと完登の握手を交わし、行動食をとって一休みしてから、下降にかかりました。

下り道は、小面岩方向に少し下ったところにある下降点から懸垂下降20m(フィックスロープも使えます)で樹林の中に降り立ち、滑りやすい急な斜面をおっかなびっくり下れば大面岩と小面岩とのコル。そこからは明瞭な踏み跡をどんどん下って、やがて登山道に合流します。あとは元来た道を下るだけで、駐車場に着いたときにはすっかり暗くなっており、さらに車を走らせ始めたとたんに雨がぱらぱらと降り始めました。


フリークライミング全盛のこの時代に……と思われるかもしれませんが、岩が投げかけるパズルを解きながら右に左にと忙しく弱点をつなぐのではなく、岩壁の斜度と高度感とリングボルトの脆弱性がもたらす緊張感に身を委ねながら無心になって直登してゆく人工登攀も、私は好きです。冒頭に記したように今年も宿題の多くを解消できなかったのは残念ですが、最後に気分のよい垂直の山旅ができて気持ちが晴れました。セキネくん、ありがとう!来年こそ宿題を片付けたいと思うので、助力よろしくお願いします。