塾長の山行記録

杓子岳双子尾根

概要:猿倉を早朝に出発し、鑓温泉方面に向かって小日向のコルに達してから双子尾根を辿る。ジャンクションピークで杓子尾根と合流し、杓子岳へ。下山は大雪渓を使用。

日程:2017/04/29-30

山頂:杓子岳2,812m

分類:北アルプス / アルパイン

同行:T女史

杓子岳双子尾根の登高。ロープを出す場面はなかったが、強風には苦しめられた。(2017/04/30撮影)

ゴールデンウイーク山行第一弾は、久しぶりにT女史と組んで杓子岳双子尾根へ。お互いにもういい歳なのでとにかく癒し系がいいだろうと、前から目をつけていたルートです。このあたりの山域では白馬岳主稜が圧倒的にメジャーなのですが、こちらのルートも『チャレンジ!アルパインクライミング』にコンパクトな雪稜、雪壁と展望が楽しみとあり、期待できそう。尾根上にベースを作ってピストンとするパーティーが多いようですが、残雪期ならスピーディーに登れるだろうと猿倉からのワンデイプッシュとすることにしました。

2017/04/29

■14:40- 猿倉

朝一番の高速バスで新宿を発ち、昼前に信濃大町駅前に到着。おなじみ昭和軒のソースがけかつ丼を食べてから喫茶店でのんびり休憩し、13時過ぎに大阪から車を飛ばしてきたT女史と合流しました。

途中のスーパーで食材を調達して猿倉の駐車場に着いてみると、驚くほどにがらがらです。実は前日(28日)に大雪渓で雪崩があり一人が埋められてしまう事故があったので、その影響かもしれません。ともあれ、明日のルートへの入り口の下見をしようと猿倉荘の裏手から雪の斜面を上がり、少し迷ったものの「鑓温泉」と書かれた指導標を見つけました。この頃から雷が鳴りだし、雨も強く降ってきたのでそそくさと駐車場に戻り、あとは車の中でのんびりビール宴会。よもやま話に花を咲かせた後、20時前に就寝しました。

2017/04/30

■04:40 猿倉 ■06:10 小日向のコル ■08:00 樺平 ■09:45-55 シャンクションピーク

山行当日。3時に起床し、朝食をとってから猿倉荘へ移動しました。

すると、そこにいたのはなぜかセキネくん。実は、彼がこの日ワンデイで白馬岳主稜を登ることはあらかじめ知っていて、昨日猿倉に着いたときにも駐車場の空き具合情報を知らせていたのですが、てっきりもっと早い時刻に出るものと思っていたので、ここでこうして出会うとは予想外でした。既に日が昇り始めていてちょっと遅いような気もしますが、お互いにがんばろう!

セキネくんが出発してから少し遅れて我々も登山開始。昨日の下見で把握している鑓温泉への雪の尾根を登りきり、平坦な猿倉台地に出たところで背後に朝日が顔を出しました。ところどころのピンクテープと踏み跡とを目印に進み、広い雪原を渡って向こう側の尾根を目指しました。あれが双子尾根です。

このあたりどこからでも白馬岳の姿を見ることができるのですが、稜線は盛んに雪煙を巻き上げており、かなり強い風が西から東へ吹いていることがわかります。

ひと登りで尾根の上に立ち、少し進んだところにある窪地が小日向のコル。そこには、おそらくスキーヤーのものと思われるテントが張られていました。ここからしばらくは細い雪稜になりますが、両側はそれほど切れ落ちておらず、不安を感じることはありません。

高度を上げて灌木が密集したピークに達してからその先の鞍部に下ると、そこが樺平です。見事な一本の樺が立ち、その足元には黄色いテントが雪のブロックに囲まれていました。さらに前方に目をやると、ジャンクションピークに向かって登ってゆく三人組の姿も見てとれます。ここまで雪に埋もれた薄い踏み跡が続いていたので、前日に誰か入っているのだろうと予想していたのですが、あの三人組はその踏み跡の主たちであるようです。

黄色いきれいなモンベルのテントの脇を通るときに、思いがけず物音がしたのでびっくり。どうやら三人組を見送って一人テントに残っている様子です。さらに、奥双子ノ頭への急斜面を登ってしばらくしたところから振り返るとテントが片付けられていたので、どうやら彼は何らかの理由で一人だけここから撤収し、三人組は杓子岳から白馬岳方面へ回るのだなと考えたのですが、実はこれは見当違いでした。

杓子岳東壁の各ルートへの起点となる奥双子のコルを越えて岩峰を右から巻こうとしたところで、先行していた三人組が降りてくるのとすれ違いました。敗退?なんで?三人組はベテランらしき男性と女性二人の組合せでしたが、先頭を切って下ってくる男性がすれ違いざまに我々に告げて言うには「アホなテントキーパーがテントを飛ばされたので撤退する」とのこと。樺平にあったモンベルの黄色いテントがなくなっていたのは、片付けられたのではなく吹き飛ばされていたのだということをここで知りました。「ジャンクションピークまでトレースはつけてありますから」と言ってくれた男性は憮然としていましたが、女性二人はあっけらかんとこの状況を受け入れているようで、しんがりで降りてきた若い女性は笑いながら「がんばってテントを回収します!」と言いつつ下っていきました。

岩峰を巻いた後も急な雪稜登りが続きましたが、三人がかりでトレースしてくれているので足を運ぶだけ。ありがとうございます。やがてジャンクションピークに着いて一休みとしましたが、ここからも白馬岳の姿と、主稜を登る登山者の姿がよく見えています。あの中のどれかがセキネくんなんだろうな。セキネくん、頑張れ!……と心の中で声援を送りましたが、実はこのとき既にセキネくんは登攀を終えていたのでした。

■10:55-11:00 杓子岳

さて、ジャンクションピークから先は踏み跡のない雪の上に自分たちでトレースをつけていかなければなりません。ダイバーシティのご時世とはいっても、こういうのは昔から男の仕事(?)とされているので、私が先頭に立ちました。

しばらくは緩やかな尾根状で、せいぜいくるぶしより上くらいまでのプチラッセルを一歩一歩踏みしめながら進みましたが、やがてところどころナイフリッジ状になったり急斜面になってきました。とは言うものの、ベテランのT女史と私との間ではロープを欲する雰囲気にはならず、時折お互いの間隔を確認するだけで淡々と登り続けました。

草付きの急斜面がこのルート中で唯一緊張するところで、右側から巻くようにしてここを抜けましたが、硬い雪にアイゼンの前爪を刺しての登りはふくらはぎにきます。しかしそれもしばらくの我慢で傾斜が緩み、目の前に杓子岳の頂上稜線に続くスノーリッジが伸びていました。

最後は雪庇に気をつけながらスノーリッジの右側を登り、小さな岩場をひとつ越すと目の前に黒部側の眺めが一気に広がりました。左手の雪の急斜面を乘り越すと、前方に黄色い山頂標識。あれがゴールです。

強風が吹き荒れる山頂に到着。お疲れ様でした。ゆっくり展望を楽しみたいところですが、とにかく風が強く、吹き上げられてくる雪粒がばしばしと当たってきて痛いのなんの。そのため、登頂の証拠写真だけ撮ったらただちに下山にかかりました。まだ午前中なので雪が安定していることを期待して、大雪渓を下降路に使うこととします。

■11:25 最低鞍部 ■13:10-20 白馬尻 ■14:05 猿倉

高度を下げれば少しは楽になるかと思いましたが、風の勢いは一向に収まらないどころか、ところによっては一層強烈です。

どういう気圧配置によるものかわかりませんが、これでは一般登山道も縦走不可能でしょう。

ときどき身体を持っていかれそうになるくらいの強風を左側から受けながら歩いて、最低鞍部からそのまま雪渓下りにかかりました。

雪渓の雪はこの高度でも異常なほどに柔らかく、足をとられがち。それでもときどき振り返って先ほどまでそこにいた杓子岳の山頂を見上げるのは、気分の良いものです。しかし……。

雪崩!実はこの日、28日に雪崩に埋められてしまった登山者を探すために入った捜索隊も、新たな雪崩の跡を見出して二次遭難を懸念し、早々に捜索を中断してしまっていたとのこと。その捜索場所は激しいデブリ地帯となっていて、スコップが数本立てられ、赤いスプレーペンキによるマーキングが雪の上に施されているのを横目に眺めました。

足にまとわりつく柔らかい雪とどこまでも上がり続ける気温とにうんざりしながら、やっと白馬尻に着きました。そこから明瞭な道を歩いて猿倉に戻りましたが、最後に振り返って見上げることができたのは、杓子岳ではなく白馬岳でした。


杓子岳双子尾根は、残雪期のルートとしてはお手軽でお勧めできる一本でした。ただし同ルート往復の場合は、稜線からの下り出しの急なリッジの下降が雪の状態によっては緊張するクライムダウンになりそうです。一方、大雪渓を下るのは雪崩リスクを計算に入れる必要がありますので、そうした諸条件を天秤にかけてタクティクスを選ぶことになるでしょう。ともあれ、相変わらずの健脚と安定したクライミング能力を示してくれたT女史に感謝。今年はT女史のホームグラウンドである近畿の沢登りに連れて行ってもらう約束をしていて、今からとても楽しみです。