笛吹川東沢乙女沢

日程:2017/02/12

概要:笛吹川東沢を巻道中心に遡行して乙女沢出合に達し、出だしの乙女ノ滝から氷のナメを経て80m大滝まで。その後、同ルート下降で出合に戻り、元来た道を西沢渓谷入り口へ。

山頂:---

同行:ヨーコさん / ナガシマ氏

山行寸描

▲出合の乙女ノ滝。大きさはあるが、不安を感じる要素のない角度。(2017/02/12撮影)
▲出合から最奥の80m大滝まで、きれいにナメ氷が続いていた。(2017/02/12撮影)
▲80m大滝。この傾斜では落ちる気はしないものの、フリーソロはちょっと……という長さ。(2017/02/12撮影)

1月の湯川渓谷に続いて保科スクール仲間のヨーコさん・ナガシマ氏とアイスクライミング。ヨーコさんの希望で日曜日の日帰りとしましたが、ただし今回はアプローチ至便のゲレンデ的な氷瀑登りではなくアルパインアイスにしたいと行き先を物色し、古典的なルートである奥秩父の乙女沢をチョイスしました。この沢は出合の乙女ノ滝が初級者の練習に向いているそうですが、さらに奥に進んで80m大滝までを登ればそれなりに充実したアルパインルートになる模様。そんな見通しの下に、土曜日の夜に高尾駅北口で合流し、ヨーコさんの運転で「道の駅 みとみ」まで進んで各自テント泊としました。

2017/02/12

△06:20 西沢渓谷入り口 → △09:00-40 乙女沢出合 → △14:15-40 80m大滝上 → △17:45-18:00 乙女沢出合 → △20:55 西沢渓谷入り口

6時頃に道の駅を発ってすぐそこが西沢渓谷の入り口です。駐車場に車を駐め、アタックザックを背負って西沢渓谷に向かう道に入りました。

しばらく進んだところにあるのは、懐かしい東屋。ここは今から15年前に鶏冠谷右俣を遡行した後に泊まったところで、現場監督氏とはここで初対面の挨拶を交わしたのでした。

西沢と東沢を分ける二俣に掛かる橋を渡って登山道を離れ、鶏冠谷入り口の標識を見た後に右岸から左岸へ足を濡らすことなく移ると、そこから先は巻き道が続いています。この道も懐かしい!2006年に釜ノ沢を遡行したときに歩いた道ですから、10年以上ぶりということになります。

不気味なホラの貝ゴルジュの入り口を覗いてからもさらに高巻きが続き、対岸に氷瀑を見ながら進むうちに道は沢筋に降りて、やがて待望の乙女ノ滝が右岸に落ちているところに出ることができました。

我々の前を進んでいたのは東屋の前で爽やかな挨拶と共にすたすたと歩み去っていた単独の男性で、ソロシステムでこの滝を登る準備をしているところでした。のんびりと準備をした後のじゃんけんでリードは私がつとめることになり(ラッキー!)、ソロの男性とほぼ同時に離陸しました。

乙女滝は幅広の50m滝で、大きさはそこそこありますが、この角度ではまず落ちる心配はありません。とは言うものの万一ということもあるので途中で3本ほどスクリューを使いましたが、さすがにこの長さではふくらはぎが張ってきます。

落ち口を抜けたら右岸の灌木を使って後続の2人をビレイしましたが、少々苦しい態勢でのビレイになってしまったので、滝上の氷にスクリューで支点を作った方がよかったようです。

乙女滝の上には緩やかな傾斜でナメ滝が続いており、なかなかいい雰囲気です。しばらくはロープを結んだままフリーで行きましょうと歩き出したのですが、最初のなだらかな段々のところで蹴り込むでもフラットフットでもない曖昧な足置きをしたところ滑ってしまい転倒!幸い身体が滑り落ちだす前に止まることができて事なきを得ましたが、油断大敵だと肝に命じました。ナメ滝の先には小さい門のような滝があり、その先で沢筋は右に曲がり顕著な小滝を迎えます。

行く手にはどこまでも氷床が続いて楽しそうですが、振り返ると背後に巨大なスラブが見え、その中央に氷がつながっているのがよく望めました。それがどうやら東のナメ沢らしいと気付くのにそれほどの時間はかかりませんでしたが、後で調べたところではあの滝もときたま登られています。ただし、沢登りではチャレンジングな課題である東のナメ沢もアイスクライミングの対象としては傾斜がゆる過ぎ、見た目の立派さとは裏腹にあまり人を迎えていない模様です。

ナメ氷はしばらく続き、ロープを結んだままスクリューを使うこともなく進んでいきましたが、やがて多少傾斜のあるなだらかな滝の下に着きました。ここがトポに言う3段40m滝ということになるのだと思いますが、沢筋全体が氷で覆われているためにどこからどこまでが滝なのか、いまひとつ判然としません。

それでもスクリューで支点を作って、ナガシマ氏がここはリード。しかし氷の質は思ったより悪く、モナカ状の薄い氷を踏み抜くと水が吹き出したりもして、ナガシマ氏は苦労しています。また、そうした氷質と相性が悪いのか、ナガシマ氏のペツル・レーザースピードライトはなかなか決まってくれず、そのうちにふくらはぎが張って苦悶の声が漏れるようになってきました。仕方なく左手の雪の斜面に逃げたナガシマ氏は、そのまま右岸の草付の上を進んで灌木でビレイ態勢を作り、ヨーコさん、私の順に後続を迎えてくれました。

下からは寝ていると見えたこの滝も、上部に達して振り返ってみるとそこそこ立っています。しかし、引き続き私がロープを引っ張って先に進むと、前方に顕著な大滝が堂々とした姿を見せているのが目に入りました。これが80m大滝です。

今度はヨーコさんがリードする番……なのですが、ヨーコさんは10mほど登ったところでなぜか止まってしまいました。「?」と思って見上げていると早くもスクリューを二つ埋め込んで支点を作ろうとしているようです。これには「まだ早いよー!」「ロープがこんなに残っているじゃないか!」と私とナガシマ氏がぶうぶう不平を言ったため、ヨーコさんは渋々さらに5mほど登りましたが、ここでギブアップとなりました。

仕方ないなあ……と今度は私がまずヨーコさんのところまで上から確保された状態で登り、引き続きさらに30mほどリードしてスクリュー3本で支点を構築してからヨーコさんを先に引き上げました。それはヨーコさんがハンギングビレイでつらそうだったからなのですが、この間ナガシマ氏は滝の下で寒い中じっと待っており、後から考えればこれがナガシマ氏の体力を消耗させることになったようです。しかしこの滝は、ラインを的確に選べば傾斜はせいぜい60度で難しさを感じることはありませんから、これが腕の揃った2人パーティーだったらあっという間に抜けられていたでしょう。

ようやく順番が訪れたナガシマ氏が45mを登ってきて、数分間の休憩の後に残りの高さをリードしていきましたが、出て行ったロープの長さからすると「80m」というのは多少誇張があるか、または出だしが雪に埋もれていたために滝の長さが少し短くなっていたようでした。ともあれ、落ち口右側の安定した場所で登攀を終え、灌木にセルフビレイをとってようやく行動食にありつくことになりました。ここまで、出合の乙女ノ滝での離陸からおおよそ4時間半を要していますが、本来アルパインはスピード命。3人パーティーであることを割り引いても時間がかかり過ぎです。これはどうやら残業必至だな……と覚悟を決めつつテルモスのお湯と行動食のパンを口にして人心地がついたら、下降開始です。

80m大滝は左岸を2ピッチで下り、その下の3段40m滝は右岸の灌木をつないでも良さそうでしたが我々は左岸から右岸へと渡るラインで下降しました。

ひたすら懸垂下降を続けましたが、これまた3人での下降は時間がかかります。空は徐々に暗くなり、乙女ノ滝を下る頃にはヘッドランプが必要になっていました。

沢筋に降り立ってからの帰路も、簡単ではありませんでした。久しく長時間山行から離れていたナガシマ氏は、80m大滝下での消耗も祟ってすっかりガス欠状態になってしまい、足元がおぼつきません。河原の石に足をとられたり巻き道の斜面で危うく滑落しそうになったりと散々でしたが、それでもがんばってなんとか安全地帯に戻ったときは全員がほっとしました。また、帰りの車の運転は行きと同じくヨーコさんにお願いしたのですが、途中からヨーコさんは睡魔に襲われて車線を外したり下り坂でスピードが上がってしまったり。助手席にいた私は命が縮む思いがしました。そうした予想外のスリル(?)はありましたが、乙女沢自体は気持ちの良い氷が続く楽しいルートで、アプローチの長さも本格的なアルパインアイスに向けたトレーニングと考えれば適度なものでした。3人それぞれに課題も見つかって、このタイミングでこのルートを選んだのは正解だったようです。

ヨーコさん・ナガシマさん、お疲れ様でした!

今回はテント持参だったのでメインリュックサックはオスプレーの60Lリュックサックにしましたが、アプローチには新調したばかりのモンベルのリッジラインパック30Lを採用しました。これは大変具合よし。コンパクトな見た目でありながら、ロープもギアも行動食もまるまる入って、しかも背負うと身体にぴったりフィットします。

メインリュックサックの中に丸めて入れるために背面クッションを抜いたことから少し背中に当たる感じがあったのですが、抜いたクッションもメインリュックサックに入れて持参して、現地出発時に装着すればいいだけの話。また、アックスのハンマータイプのものはピッケルホルダーからどうしても外れてしまうのですが、これもホルダーに小さいカラビナを掛けてアックスに付けたスリングで留めればいいわけです。というわけで、これからもこのリッジラインパックをどんどん使っていこうと思います。