塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

朝日岳東南稜

日程:2015/02/21

概要:大丸温泉駐車場から峰の茶屋を目指して高度を上げ、朝日岳を正面に見る位置から下降して東南稜に取り付き、山頂までのクライミング。帰路は一般登山道を剣ヶ峰経由で下山。

山頂:朝日岳 1896m

同行:さとし&よっこ夫妻

山行寸描

▲朝日岳を正面に見る地点で登攀準備。上の画像をクリックすると、朝日岳東南稜の登攀の概要が見られます。(2015/02/21撮影)
▲ギャップの登り返しに挑むよっこさん。ナイスリード。(2015/02/21撮影)
▲山頂直下の岩場。正面やや左手の浅い凹角から登った。(2015/02/21撮影)

赴任地のサウジアラビアから休暇で一時帰国しているさとし氏を冬山へ引っ張り出そうとこの週末は八ヶ岳東面の天狗尾根を計画していたのですが、日曜日があいにくの天気予報。やむなく土曜日ワンデイでどこか面白そうなところはないかな?と探しているうちに、以前現場監督氏が那須の朝日岳東南稜をソロで登っていたのを思い出しました。よし、これだ。

2015/02/21

△09:10 大丸温泉駐車場 → △10:25-40 明礬沢下降点 → △10:55 東南稜取付 → △11:25-12:15 ギャップ → △13:25-40 朝日岳 → △14:25 剣ヶ峰 → △14:40-15:00 峰の茶屋 → △16:00 大丸温泉駐車場

5時20分に私の自宅近くまで来ていただいたツジタ号に乗って、東北自動車道を一路那須へ。能楽でもおなじみの「殺生石」で硫黄の匂いの洗礼を受けてから到着した大丸温泉の無料駐車場には既に多くの車が停まっており、これから出発しようとしている登山者の姿も少なくありません。我々も身繕いをして、雪に覆われた山道に入りました。

よっこさんと私とは3週間前の赤岳西壁主稜で猛烈な寒風に吹かれたトラウマがあり、これでもかというくらいに着込んで出発したのですが、この日は無風快晴のぽかぽか陽気で冬山というよりは春山という風情。すぐに暑くなってしまい、途中でウェアの調節を行いました。これを見下ろすさとし氏は「私は最初から薄着ですが、何か?」と余裕の表情です。

ロープウェイ駅を経て着いた峠の茶屋の広場から行く手を仰ぐと朝日岳がよく見えており、その山頂から左下に流れているスカイラインが目指す東南稜です。ここからすぐに「山の神」の鳥居があって、これがいわば那須岳登山口ということになるのですが、鳥居はすっかり雪に埋もれていて今年の冬の雪の多さを実感させてくれました。

茶臼岳の斜面のトラバース道は雪がしっかり付いて歩きやすく、アイゼンの必要性を感じさせません。やがて前方に峰の茶屋の鞍部が見えてきた頃に右手対岸に朝日岳東南稜が顕著な姿を示すようになり、既に取り付いている2人組の先行パーティーや朝日岳と茶臼岳を分ける明礬沢へと下る4人パーティーの姿が視界に入りました。明礬沢への下降は茶臼岳の斜面の中でも緩やかな雪の沢筋が右手へ下っている箇所を使うことになるのですが、ちょうどその地点にこんなところに『高山植物』が?という看板が立っているので迷う心配はありません。

ハーネスを着け、アイゼンを履き、ヘルメットもかぶっていざ出発。明礬沢への浅い沢筋はところどころ雪が深く、先行パーティーの踏み跡を辿っても足をとられがちですが、特に支障なく沢筋の左俣に設けられた堰堤の上に出ることができました。この堰堤の上を歩いてさらに明礬沢の右俣を横断したところから東南稜の左側面を巻き上がるように雪の斜面が続いていましたが、そこには先ほど下降している姿を見ていた4人パーティーの姿がありました。おそらくギアの装着を明礬沢に降りてから行っていたために、我々との間隔が縮まってしまったのでしょう。少し間を空けようかと思いましたが、先頭を行くよっこさんはどんどん登りたい様子で、結局自然体で彼らの後ろにつく形になりました。

雪の斜面はさほどの距離がなく、すぐに右手の稜上に上がることになりました。対岸からも確認できたようにリッジには雪はほとんど付いておらず、脆い岩場をだましだまし登ることになります。ところどころ傾斜のきつい箇所もありますが、アイゼンの前爪の利きをしっかり意識しながら登れば問題はありません。しかし、よっこさんはともかくさとし氏はアイゼン登攀は久方ぶりのはずなのに、何の苦もなく岩場を越えていくのはさすがです。

東南稜を進み徐々に高さが上がるにつれて、背後の茶臼岳の姿が立派になってきました。あの山腹のトラバース道を進んでいるときには東の方から雲が上がってきていたので少々焦りを感じたのですが、雲の動きは低いところで止まってくれた模様。どうやら今日は最後まで無風快晴の良コンディションを享受することができそうです。

すぐに前方に特徴的な門のような岩場が現れ、その間から左手の岩に取り付いて急斜面の短いトラバースを行うと、そこがギャップでした。このギャップは下界からでもはっきりと見えている顕著なものですが、実際の高距は10mもありません。ここで先行パーティーが懸垂下降するのを待ち、支点が空いたところでよっこさんが持参した8mm30mのロープをセットしました。誰が整備してくれているのかわかりませんが支点はしっかりしたもので、不安なく体重を預けることができました。

我々の後からも3人パーティーがやってきていて、我々に引き続いて直ちに狭いギャップの底に降りてきました。あらかじめリードはよっこさんという申合せになっていたために、よっこさんは残る5人の視線を一身に浴びながら登る羽目になったのですが、懸垂下降前に見下ろしたときにはかぶり気味で難儀しそうに思えた垂壁(先行パーティーは大きく右から巻いていました)も、間近から見上げてみれば案外傾斜が寝ています。ワンポイント微妙な箇所があったものの、よっこさんは奮闘の末にそこを突破して見事に上へ抜けて行きました。

セカンドは私で、よっこさんにロープをフィックスしてもらい、タイブロックをセットして上へ。確かに途中でかぶり気味になりホールドを探らなければならないところがありましたが、手の位置を固め、アイゼンを決めたら意を決して乗り上がるだけ。アルパイングレードでIII+といったところでしょうか。ただし気象条件によってはここは強風の通り道になるらしく、そうした余裕のないシチュエーションではグレードが上がるかもしれません。ラストのさとし氏も問題なく抜けてきましたが、後で彼に聞いたところでは後続の3人は我々の登りの品評会をしていたらしく、よっこさんの渾身のクライミングには女性がリードする姿はかっこいいですね!、セカンドの私にはスムーズですなあ。それにしても、あれ(タイブロックのこと)いいですね。今度購入しようとコメントがあったそう。しかしさとし氏自身に対しては論評がなく(←自分たちの登攀準備に忙しかった模様)、さとし氏はややがっかりしていました。

しっかりした残置ボルトで確保してくれていたよっこさんの位置は狭いためもう少し登ってからロープを畳むと、再びがらがらの岩場歩きが続きます。

少々歩いたところから振り返ると、ギャップ前後の岩がトサカのように逆立ち、その向こうに薄く雪に覆われた茶臼岳のシマシマの斜面が特徴的な背景を作っていました。おや、これはもしかして常吉さんのサイト『常吉 山のページ PART2』(今はブログしか更新されていないようですが)の表紙を長年にわたって飾っている写真の構図では?

ギャップの先はしばらくリッジの右斜面を絡むように進みます。空はどこまでも青く澄み、赤茶色の岩の斜面のところどころに枝ごとに綿のような雪をつけた小灌木が点在している様子も面白いもの。そのままひたすら高度を上げていくとだんだん展望が開けてきて、那須連山の山々だけでなく日光の山も茶臼岳の彼方に見えるようになってきました。山座同定が難しいものの太郎山や奥白根岳は間違いなさそう。そしてしばらく登った先の小ピークの先の意外に間近なところに、朝日岳の山頂が姿を現しました。

山頂直下には岩場があり、正面の岩にはボルトも二つ打たれていて登られているようだったのですが、慎重に横から見上げてみると上半分はほぼ垂直で大変そう。そんなわけで多くの記録がそうしているように、我々も左に回り込んだところにある緩やかな凹角を登ることにしました。

追いついてきていた後続3人の内の最初の1人に先にフリーで登ってもらい、ついでよっこさんがロープを引いてリード。ギャップでの登りのときはランナーをとれる残置がなくピナクルにスリングを掛けてランナーをとりましたが、こちらは凹角左のスラブに残置支点があって腐りかけたスリングすら残されていました。これを活用しながらよっこさんが登りきったところで後続の残り2人にも先行してもらってから、私・さとし氏の順に後続しました。登ってみればIII級もない感じですが、万一落ちたときには途中で止まる保証はありませんから、ここはロープを出すべきところだろうと思います。

凹角を抜けたところに小広いテラス状の場所があり、よっこさんはそこで肩絡みでビレイしてくれていました。ここで3人揃ったところでロープを畳み、あとひと登りすればそこが朝日岳の山頂でした。

登攀終了13時25分。ギャップでの渋滞の影響もあってちょっと時間がかかり過ぎてしまいましたが、最後まで無風快晴の状態が続いてくれたのはラッキーでした。先行3人パーティーとお互いに写真を撮り合った後、彼らは清水平の方へと歩いていきましたが、我々はこのまま下山することにしました。

それにしても朝日岳の山頂は素晴らしい展望台です。背後には茶臼岳の特徴的な姿と、その右奥に日光の山々。さらに右には尾瀬の山も見えているようですが、それらがうっすらとした雲海の上に頭を出している姿は幻想的ですらありました。

北の方には那須連山の最高峰である三本槍岳の穏やかな姿と、その手前の清水平の真っ白な広がり。さらに西には大峠を越えて流石山・大倉山・三倉山と続く長大な尾根筋。よっこさんも、この展望の良さには感激した様子を隠しませんでした。

素晴らしい展望を堪能したら、後は下るだけです。トラバースが多い登山道はところどころ雪に覆われていましたが、多くの登山者が歩いているらしく踏み跡が途切れることはありませんでした。

峰の茶屋手前のピークである剣ヶ峰の手前にはいかにも火山らしいカニのハサミのような岩が突き出しており、踏み跡はその左手をいったん巻く方向に進んでから、右上へと剣ヶ峰のピークを目指して上がっていました。そして剣ヶ峰の上からは、朝日岳東南稜をほぼ真横から眺めることができました。

峰の茶屋の避難小屋の前でアイゼンを外し、ハーネスも脱いで身軽になりました。茶臼岳の山頂まではここから往復1時間程度ですが、既に太陽が西に傾き始めていたので諦め、そのまま大丸温泉方向へ下山することにしました。

朝日岳東南稜は、距離は短く難しさもありませんが、1日コースとしてはなかなかに楽しめるルートでした。何といっても、山頂に飛び出したときの展望の素晴らしさは特筆ものです。しかしこれは朝日岳に限った話ではなく、北関東や東北の山々のピークから眺める穏やかな山岳展望は、北アルプスの巨峰たちとは違った親しみやすさをもって登山者を惹きつけてくれるもの。よっこさんたちには、いつか季節を改めて、那須連山をはじめとする北の山々を歩き回ってほしいものです。

車に戻って登山靴を脱いだら、目の前にあった温泉宿の「ニューおおたか」へGO。内湯はめちゃくちゃ熱くて入れないくらいでしたが、露天風呂はマイルドな湯温と風情とで寛ぎました。その後、がっつり肉を食べたいというよっこさんの希望で那須和牛を食べさせるという「寿楽 インター店」に移動。私はサイコロステーキ300gをいただきましたが、大変美味でした。和牛万歳!ただし、これには漏れなく体重は増え財布は軽量化するという副作用もありますので要注意です。