塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

赤岳西壁主稜

日程:2015/01/31-02/01

概要:初日は美濃戸口を昼すぎに出て行者小屋まで。翌日、赤岳西壁主稜を登って赤岳山頂に達し、文三郎尾根を下って行者小屋経由下山。

山頂:赤岳 2899m

同行:よっこさん

山行寸描

▲赤岳西壁主稜の下部岩壁全景とルート前半のあらまし。(2015/02/01撮影)
▲上部岩壁の出だしの小垂壁に挑むよっこさん。(2015/02/01撮影)
▲上部岩壁核心の垂壁。よっこさんの右奥の凹角を狙えば、窮屈ではあるものの難しくはない。(2015/02/01撮影)

成人の日の三連休に赤岳西壁主稜を狙ったものの、大雪のせいでただの赤岳登山に終わってしまったよっこさんのためにリベンジ山行として企画したのが、今回の赤岳西壁主稜です。私にとっては3度目の赤岳西壁主稜ですが、1回目(w/Sakurai師)は3月、2回目(w/セキネくん)は12月(阿弥陀岳北稜とのワンデイ継続)でいずれも厳冬期真っ盛りとは言えませんから、今回のアタックは自分にとってもチャレンジです。

2015/01/31

△12:10 美濃戸口 → △13:05-15 美濃戸 → △15:35 行者小屋

よっこさんの運転で中央自動車道を飛ばして行くと、甲府盆地はきれいに晴れているのに目指す八ヶ岳は雲に隠されているのが見えました。成人の日の三連休の悪夢がまた蘇るのか?と心配になりつつ、美濃戸口の駐車場で身繕いをしてから出発しました。

歩き慣れた美濃戸口から行者小屋までの道は、美濃戸を過ぎる頃まではまだ青空も見えていましたが、南沢沿いの道を進むにつれてやはり雪模様になってきました。

行者小屋が近づいた頃にガスの中に横岳の稜線も見え隠れしましたが、どうやら今日一日はこんな天気のままであるようです。やれやれ……。三連休のときに比べるとぐっと少ないテントの群れを見やってから、我々は行者小屋へ入りました。

今回はテント泊ではなく小屋泊まりとしたのですが、やはり小屋泊は楽チンです。実は私は前夜飲み会があって日本酒をしこたま飲み二日酔い状態だったのですが、懲りずにこの小屋でワンカップワインを3杯も飲んでしまい、夕食終了後は直ちに2階の宿泊室の布団に潜り込んで翌朝までぐっすり熟睡でした。

2015/02/01

△06:20 行者小屋 → △07:30 赤岳西壁主稜取付 → △11:35 赤岳 → △12:00 文三郎尾根分岐 → △12:40-13:30 行者小屋 → △14:50 美濃戸 → △15:35 美濃戸口

5時すぎに起床し、1階に降りて前夜のうちにもらっていた弁当を食べてから厳冬期仕様のウェアを装着して、空がほのかに明るくなってきている6時すぎに小屋の外に出ました。

ところが、阿弥陀岳を眺めてみるともの凄い雪煙が西から東へたなびいています。これは強烈な寒風が吹いているのに違いない!と慌てて小屋に戻り、薄いダウンジャケットをアウターの下に着込みました。よっこさんの方もインナーにフリースを着て寒さに備えましたが、果たしてそれで足りるかどうかは登ってみなければわかりません。

文三郎尾根の途中から阿弥陀岳を見ると、北稜の核心部は雪煙が渦を巻いていてとても近寄りたくない雰囲気。そんな様相に恐れをなしながら高度を上げると、背後の諏訪方面が朝日に染まってとても綺麗でした。

しかし雪煙を巻き上げているのは阿弥陀岳だけではなく、硫黄岳や横岳も、そしてもちろんこれから登ろうとする赤岳も同様です。これは厳しい!

文三郎尾根から赤岳西壁主稜へのトラバースにかかる前によっこさんに最終意思確認をしましたが、よっこさんはやる気満々。それならもはや、ためらう理由はありません。見れば我々より先に岩場に向かっているのはショルダーリッジを目指す2人組だけで、赤岳西壁主稜は我々が一番乗り。意を決して新雪直後にしてはよく締まった雪面をロープなしでトラバースし、取付でロープを結んでから私のリードでスタートしました。

雪に半ば埋もれたチョックストーン越えから始まる1ピッチ目は、スノーシャワーに視界を遮られつつ、目の前の岩を抱きかかえるようにして振られを止めステミングでじわじわと身体を上げて岩の上へ。その後はチムニーをプチラッセル混じりで抜け、右上へ折り返してビレイポイントに達します。セカンドのよっこさんは出だしで大奮闘となり数回テンションがかかりましたが、最終的にはここを突破してビレイポイントへ到達しました。

続く2ピッチ目はよっこさんのリードですが、これが大変でした。ビレイポイントの左後ろのテラス状の場所に立ってから「こわ〜い!」という感想(?)を残してよっこさんが上へ抜けていった後、しばらく進んだ後にまだかなりの長さを残してロープの動きがぴたっと止まってしまい、じっと待つこと10分余り。足先の冷たさに足踏みしながら「まだかな、何してんのかな……」と上の様子を窺っても岩に視界を遮られてよっこさんの様子がわからず、強風のためにコールも全く通りません。もしかしてよっこさんは行き詰まってしまっているのではないか?と思い始めた頃に我々の後からこの主稜に向かおうとする4人組の姿が文三郎尾根上に現れたため、これは猶予がならないとセルフビレイを外してフリーソロ状態で1段上がってみると、よっこさんはその少し先でビレイポイントを作ってロープと格闘していました。

確保はいいからとにかく早くロープを引き上げて!と指示をしてよっこさんのところに達してみると、よっこさんはルートファインディングを誤って少々際どいラインを登った挙句に、ロープの重さに耐えかねてそれ以上進めなくなり、怪しげな岩にセルフビレイをとった状態でした。

3ピッチ目は、よっこさんが作ってくれたビレイポイントから雪尾根と化したリッジを登って門のような岩の取付まで。4ピッチ目で門の間を抜けてさらに緩傾斜帯を進み、5ピッチ目で上部岩壁の取付に到達しました。前にも後ろにも人影はなく、強風と岩壁の威圧感とで我々をねじ伏せようとする赤岳に負けじと抗う我々だけの登高が続きます。

6ピッチ目は上部岩壁の核心部で、出だしの小垂壁をよっこさんは巧みに越えて行きましたが、その先にある高さのある垂壁部の残置ピンにぶら下がって短くピッチを切ってしまいました。なんで?

だって、ロープの重さに負けたんですもの……

図らずも7ピッチ目となってしまったこの核心の垂壁を私のリードで抜けたら、もう難しいところはありません。しかし、次の8ピッチ目をリードしたよっこさんはもはやロープを引く腕力もなくなり、肩を使ってじわじわとロープを引き上げるしかない状態。幸い後続パーティーが追いついてきていないので渋滞の原因にはなっていないものの、朝からの強烈な寒風は一向に勢力を弱める気配を見せておらず、バラクラバから露出した頬や鼻筋が凍傷に侵され始めているのを感じている身としては一刻も早く安全地帯に脱出しなければと気が急くばかりです。

幸いにして残りは1ピッチ分。急激に傾斜を緩めた斜面をロープを引きずっただけの状態で登ると、凍りついた登山道に到達しました。強風が吹き上げる雪煙に巻きつかれた阿弥陀岳の姿をバックに登ってきた後続のよっこさんを迎え、手早くロープを畳んでリュックサックにしまいましたが、寒風はさらに強さを増して時折よろけそうになるくらいです。

登山道をわずかに登れば赤岳の山頂です。登り着いたときには北峰上には人はおらず、南峰上に1人の登山者が立っているだけでした。我々も南峰の山頂で記念撮影をしようとしましたが寒さのために一時的にカメラが言うことを聞かない状態になってしまっており、撮影は諦めて直ちに下ることにしました。

山頂を竜頭峰側に下降するといったん風が当たらない向きになり、ぽかぽかとした暖かさすら感じられましたが、阿弥陀岳方向へ向かうところからまたしても風に吹かれるつらい状況に逆戻りです。それでも下山の気楽さで、文三郎尾根の途中から我々の後続の4人組が上部岩壁に取り付いたところでガスに巻かれる様子を眺めたりしながら、のんびりと行者小屋を目指しました。

行者小屋に着いたら巨大チャーシュー入りのラーメンを食うぞ!とそれだけを楽しみに降りてきたのに、日曜日の午後には小屋締めのためにカップ麺しか提供できないと言われてがっくり。私の落胆ぶりを気の毒に思ったよっこさんがパンやバウムクーヘンを分けてくれて少し腹が満たされたところで、美濃戸への下山にかかりました。

こうしてよっこさんの赤岳西壁主稜は無事に終わりました。課題はいろいろ(たとえばロープを引き上げる腕力や支点構築のスピードなど)見つかりましたが、とにかく厳冬期の八ヶ岳に特有の西風をまともに受けて体感温度はマイナス20度まで下がり、意思疎通すらままならない過酷な状態の中で中級マルチピッチの赤岳西壁主稜をつるべで登れたのですから、登攀は成功だったと胸を張ってもらってかまいません。よっこさん、よく頑張りました。