野呂川小仙丈沢

日程:2013/08/10-11

概要:広河原から北沢峠行きのバスに乗って野呂川出合で下車。30分歩いて小仙丈沢に入渓し、標高2000m前後の平坦地で幕営。翌日、遡行を続けて小仙丈カールから登山道に上がり、仙丈ヶ岳のピークを踏んでから北沢峠へ下山。

山頂:仙丈ヶ岳 3033m

同行:---

山行寸描

▲一の大滝。上の画像をクリックすると、野呂川小仙丈沢の遡行の概要が見られます。(2013/08/11撮影)
▲二の大滝。左の細い支滝を登る。(2013/08/11撮影)

数日前に奥多摩で沢登りを楽しんだばかりではあるものの、この週末の晴れ予報を見るとどこかに遠出がしたくなってしまいました。急な思い付きの単独行なのでアルプス全山縦走の落ち穂拾いでもするかなと南アルプスの仙塩尾根あたりを地図で眺めていたのですが、いまひとつ決め手がなく今度はネット情報を探ってみたところいいのがありました。それがこの小仙丈沢です。

2013/08/10

△14:50 野呂川出合 → △15:20-40 小仙丈沢出合 → △16:10 標高2000m幕営地

東京からでも夜行日帰りのできる沢ではありますが、それではあまりにせわしない。土曜日の朝に新宿を発ってゆっくり入渓し、標高2000mの平坦地で焚火を楽しむことにしようと8時3分新宿発の臨時特急に乗ったのですが、なんと中央本線に踏切事故があって甲府に着いたのは予定より2時間遅れ。それでもバスを乗り継いで野呂川出合に14時50分に着くことができました。ちょっと遅くなってしまいましたが、この日の遡行時間は1時間程度なのでノープロブレムです。

野呂川出合から林道に入って歩くことしばし、最初に出てくる沢を見送って先に進むとカーブの向こうに仙丈ヶ岳へと真っすぐ谷を刻む小仙丈沢が見えてきました。谷を刻む、と言っても見た目には緩やかで威圧感はありませんが、明日登ることになる大滝は下からもはっきり見えています。

こんなに入渓しやすい出合は珍しい、というくらい低い橋の上で装備を身につけて遡行開始。すぐに出てくる鉄製の堰堤は右から巻き、その後の二俣を左にとれば、入渓後20分ほどと想像以上に早いタイミングで前方に存在感のある滝が見えてきました。ここは水量が多いと苦労する場所だそうですが、この日はこのところずっと続いた晴天のおかげで平水状態です。それでも滝の左寄りは怒濤のシャワー覚悟になりますが、右に回り込めば水量はぐっと少なく、簡単にここを通過することができました。ただし先ほどから気になっていたのですが、この沢の岩は全体にヌメヌメと滑りやすく、スリップに警戒が必要です。たぶんラバーソールでは相当苦労することになるでしょうが、私の足回りはフェルトソールなのでまだなんとかなる感じでした。そしてこの滝を越えるとそこはもう、緑の台地が左岸に広がる幕営予定地でした。

緑の台地はしばらくは傾斜地になっていますが、少し上流に進むと「ここにテントを張って下さい」と言わんばかりの平坦地が現れました。真新しい(間違いなくわずか1日違いの)焚火跡、きれいな花、野生のベリーまで用意された別天地です。

こんなすてきな場所を独り占めしていいのかしら?と思いながらテントを張って、沢沿いに売るほど積み上がっている薪をせっせと集め、食事&焚火タイムの開始です。美しく燃え上がる炎を眺めながら口に運んだウイスキーはロイヤルサルート21年で、ついつい飲み過ぎました。

2013/08/11

△06:20 標高2000m幕営地 → △06:45 一の大滝 → △07:10 二の大滝 → △09:15 小仙丈カール → △09:50-10:05 登山道 → △10:25-35 仙丈ヶ岳 → △11:25 小仙丈ヶ岳 → △13:00 北沢峠

夜中は気温が高く、シュラフを掛け布団のようにするだけで温かく眠れたのですが、下山してからニュースを見たところ昨日は甲府市内で気温が40.7度を記録していたとのこと。そして朝、沢の下流方向の遠くに高く聳える北岳が朝日に照らされる頃に起床し、焚火を熾しました。

昨夜最後に投入した太い薪がじっくり時間をかけて燃え尽きてくれていたおかげで熾火が残っており、細枝を適当に重ねて息を吹きかけるだけで炎が燃え上がりました。どうやら今日もよい一日になりそうです。

幕営地からは上流に既に最初の大滝(一の大滝と呼ぶことにします)が見えており、これを目指して遡行再開。倒木に覆われて少々荒れた沢を進むことしばしで、前衛滝を従えた一の大滝に着きました。

じっと観察すると右壁が登れそうですが、さらに右手に視線を転じれば支沢が緩やかに上がっていて、何の苦労もなくそちらから巻き上れます。この自然の登路を使って一の大滝を越えて、少々薮を漕いでから沢筋に戻ると行く手には早くも二の大滝が見えていました。

ゴーロ状を進んですぐに二の大滝の前に到着。4段に分かれて水を落とすこちらの滝の方が一の大滝よりも立派です。さすがに単独行では正面突破は難しそうですが、すぐ左にある茶色がかった細い支流の滝ならその右壁が登れそう。じっくり眺めてラインを頭に入れてから取り付きました。予想通りこの支流の滝はおおむねIII級程度の易しい岩登りで高度を上げることができましたが、ここもご多分に漏れずヌメっているところや脆いところがあり、パーティーを組んでいるのであればロープで確保した方が良さそう(途中に残置ピンあり)です。ホールドを慎重に選びながら落ち口に近づき、最後に滝を左へ渡って細い灌木を鷲掴みにして上へ抜けると緩やかな斜面に沢筋が数本刻まれた場所に出て、ここから本流へは等高線に沿って右寄りに上流へ進めば自然に合流できました。

顕著な滝はこれでおしまいで、この後は再び傾斜を増した沢筋がところどころに樋状の小滝を掛けながら稜線に向かって突き上げて行きますが、一見おいしそうな小滝も岩がヌメっているので直登する気になれず、適当に左右にラインを外しながら高度を上げていくことになります。

昨夜のウイスキーのせいか標高が上がるにつれて身体の重さを感じるようになり、我慢の遡行を続けるうちに背後の北岳と似たような高さに近づいて、やがてダケカンバの林やガレ場のお花畑が源流の雰囲気を醸し出すようになりました。そして最後の二俣を登山道に近づく右にとって樋状の小滝を一つ越え、ガレ坂の上の青空目指して足を運び続けると、斜度が変わったその先はチングルマの花が美しく敷き詰められた小仙丈カールでした。カールの底からは右手の尾根上を行き来する登山者の姿がはっきり見えていますが、当初予定していた2830mの最低鞍部へはハイマツの藪漕ぎが必要そうで、それよりも少し先のハイマツの切れ目が登山道まで続いている場所を目指した方が良さそうです。

ザレとガレに足をとられる歩きにくい斜面を我慢しながら登り、最低鞍部から標高差100mほど上の登山道にどうにか到着。ここで沢装備を解き、リュックサックをデポして仙丈ヶ岳山頂に向かいました。

デポ地点からは馬の背ヒュッテや薮沢上部の雪渓(今年はどこも雪解けが遅い!)が見えていましたが、そこからひと登りすると今度は藪沢カールの雄大な眺めが得られました。カールの底には大きな仙丈小屋が建っていますが、それは私が初めて仙丈ヶ岳に登ったときに泊まったボロボロの避難小屋の姿を想像することも難しいほど立派なものでした。

期待通りの快晴の下、登山者であふれ返っている山頂からは南アルプス北部の山々が一望できました。ここ数年、南アルプスというと北岳か甲斐駒ヶ岳でのクライミングばかりでしたが、久しぶりに南アルプスの雄大な山並みを見通すと、かつてあの峰この峰を辿って縦走を重ねた月日が思い出されて感慨無量です。

山頂から少し下ったところから見下ろした小仙丈カールは箱庭のよう。ただし底に鹿よけの黄色いフェンスが張られているのはちょっと残念ですが、それだけ高山植物に対する食害が深刻だということなのでしょう。さらに下ってデポしてあったリュックサックを回収し、下山を開始しました。「八合目」の標識が立つ2830m鞍部から下界を見下ろすと昨日歩いた林道が意外に近く見えており、登り返した小仙丈ヶ岳からは小仙丈カールが今度はずいぶん立派に見えて、自分がガレやザレに足をとられながら登ったラインを目で追うことができました。

後は、北沢峠を目指してひたすら下るだけ。膝ががくがくくるような下りをこなして北沢峠に飛び出したのは13時少し前で、山行の余韻に浸る間もなく、ちょうど出発しようとしていた臨時バスに乗って広河原を目指しました。

小仙丈沢はなかなか楽しい沢でした。日帰り可能なくらいの小粒な沢ですが、二つの大滝が良いアクセントになり、季節が良ければ小仙丈カールの手前やカール底のお花畑も見事です。ただし時間に追われてあくせくと登ってしまってはもったいないので、やはりここはあえて遅出をして2000m平坦地にテントを張り、焚火の楽しみを付け加えるべきだと思います。