塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

北岳バットレスDガリー奥壁

日程:2010/08/21-22

概要:初日は広河原から大樺沢二俣経由で白根御池に着き、幕営。翌日、二俣から大樺沢沿いの登山道を上がってD沢を詰め、第五尾根支稜経由でDガリーを直上。Dガリー奥壁を登って第四尾根終了点に達し、北岳山頂を踏んでから八本歯経由帰幕。

山頂:北岳 3193m

同行:常吉さん

山行寸描

▲Dガリー奥壁核心部のハング。上の画像をクリックすると、Dガリー奥壁の登攀の概要が見られます。(2010/08/22撮影)
▲核心部をリードする私。この上にある最後のハング越えがパワー全開のレイバックになった。(2010/08/22撮影)
▲赤いスラブ。ビレイポイント直下がシンクラックで手掛かりなし。(2010/08/22撮影)

2010/08/21

△14:15 広河原 → △16:30-35 二俣 → △16:55 白根御池

昨年の第四尾根に続いて、今年も常吉さんと北岳バットレスへ。行き先は当初ピラミッドフェースを検討していましたが、諸般の事情を考慮の末、Dガリー奥壁をメインとすることに決まりました。Dガリー奥壁は2年前にヤマダくんと登ったことがあるのですが、そのときは私のチョンボで肝心のハングを右から巻いてしまっていたので、今回はいわば「Dガリー奥壁・完全版」というわけです。

常吉さんの車で芦安に入りましたが、駐車場はバス停に近いところからどんどん埋まっていて、かなり遠い駐車場に車を置くことになりました。バスで広河原に着いたのは14時すぎですが、この日は白根御池までなので気楽なもの。常吉さんも私も20kg超の荷物を背負って、大樺沢沿いの登山道をのんびりと登ります。沢沿いだけに時折ひんやりした風に癒され、また時折は花々にも出迎えられながら2時間強で二俣に到着し、後は水平道をわずかの歩きで白根御池です。

二俣寄りの静かな場所にテントを張ると、小屋で生ビールを調達して乾杯!さらに今回の食当・常吉さんのメニューは水餃子、茄子の浅漬け、そしてメインはスパゲティ。缶ビールやバーボンもとめどなく進んで、ちょっと飲み過ぎたようです。

2010/08/22

△03:45 白根御池 → △04:10 二俣 → △05:35-06:00 Dガリー大滝下 → △06:35 Dガリー大滝上 → △08:00-20 Dガリー奥壁取付 → △10:50-11:25 靴脱ぎ場 → △11:50-55 北岳 → △12:35 八本歯のコル → △13:55 二俣-14:05 → △14:25 白根御池

3時起床。ラーメンの朝食はヘヴィでしたが、なんとかこなして出発……の前に、前日小屋のお姉さんから言われていたようにテントをつぶし、上から岩を置いて固定しました。これは、この日下界から来ることになっている大型ヘリコプターのローターが巻き上げる風でテントを飛ばされないようにするための対処です。

水平道を二俣まで進み、沢沿いに八本歯方向へ登るうちに背後の空が徐々に明るくなって、やがてD沢を遡る途中で鳳凰三山の肩からの日の出を迎えました。D沢の途中には岩の段差のような場所があって、これを右から越えるラインはIII級っぽいちょっとした難しさがありましたが、そこを越えたところは下部岩壁手前の見事なお花畑。そして、ピラミッドフェースの頭を中心とする下部岩壁はモルゲンロートに染まっていました。

我々がDガリー大滝に着いたときには、先行パーティーは2組。ピラミッドフェースを登る3人組はリードが発進しており、またDガリー大滝も2人組が既に大滝の上に出ようとしているところでした。我々は一番簡単な第五尾根支稜を登ることにしていて、滝下で準備を済ませると常吉さんのリードで登攀を開始し、3ピッチで大滝の上に出ました。

大滝の上に出たところでいったんロープを畳み、Dガリーが狭いルンゼ状に細くなったところをそれぞれに登ります。トンネルのようなこのルンゼを抜けるとDガリーは急に開けて右手に下部フランケの取付、さらにはるか頭上には目指すDガリー奥壁出だしのハングが見えてきますが、そこからもしばらくはてんでに高度を上げ、傾斜がきつくなったところで改めてロープを結びました。半ピッチ分ロープを出すのが遅れたためにちょっと危なっかしい態勢での登攀準備となりましたが、この辺りもおおむねIII級程度なので落ち着いて登れば大丈夫。さらに高度を上げるうちにDガリーの右上に顕著な凹角が見えてきて、どうやらあれが上部フランケの核心部らしいと見当がつきました。今回は事前にしっかり予習してバットレスの概念を頭に入れてきたので、第四尾根左側の各ルートの位置関係はばっちり把握できています。そして、今回の登攀はDガリー奥壁がメインですが、もし時間的に問題がなさそうだったら翌日は上部フランケも狙ってみようとあらかじめ常吉さんと申し合わせてあったのでした。

つるべで登って数ピッチ、見上げるとDガリー大滝を先行していた2人組が頭上のハングに取り付いているのが見えました。彼らも我々同様にシンプルにDガリーを詰めて、直接Dガリー奥壁を目指していたようです。リードの私が適当な支点が作れない位置でロープがいっぱいになってしまったためにコンテに切り替えて登りを継続するうちにも、先行パーティーのリードは荒い息をあげながらハングの最上段を抜けてその向こうのスラブに消えていきました。続いてセカンドも後続しましたが、彼の方はすんなりと越えていった模様。うまいなぁ。

ハング下の広いテラスに着いたところで小休止とし、行動食をとりながらハングを見上げてみましたが、ラインはだいたい見当がつくもののどこでどういうホールドが使えるのかは行ってみないとわかりません。案ずるより産むが易しという言葉を信じることにして、アプローチシューズからクライミングシューズに履き替えました。

1ピッチ目(20m / V):私のリード。ハングは全部で4段になっていて、最初のハングはガバっとつかめるクラックを使ってよっこらしょと上がれます。2段目はほとんど意識しないうちに越えて、3段目はハングの左の壁に足を張って態勢を安定させランナーをセットしてから、今度はハングの庇の右にある小さいホールドに右足を上げて気合で左足を上げましたが、みっともない膝スメアになってしまいました。そして核心部4段目はハングの庇をすぱっと断ち割るクラックに両手を掛け、左壁に両足を突っ張ってパワー全開のレイバックで庇の上に上体を乗り上げて手を伸ばすとクラックの上方左右にガバカチがあり、これを信じて身体を引き上げてハングの上に抜けることができました。

クラックの左1m余りのところにある安定したレッジでしばし前腕を休め、そこからスラブを数m登ったところにあるバンドの支点でピッチを切ってセカンドを確保しましたが、常吉さんは最後のハングの下までは順調でだったものの、最後にスラブに乗り上がるところで力尽きてA0になりました。

2ピッチ目(40m / IV,A0):常吉さんのリード。赤いスラブの中に走る縦のクラックを辿って高度を上げるピッチ。右上には第四尾根を登るパーティーの姿も見えています。クラックは足がすっぽり入るサイズが続き気分良く登っていけますが、最後に安定したバンドの支点に達する直前が厳しいシンクラックになっていて、残念ながら前回同様に残置ピンを踏んでA0にしてしまいました。

3ピッチ目(20m / III):私のリード。かつてここを登ったときはそのままチムニーに突っ込みましたが、ロープが足りず大チムニー手前のスラブ上のプアーな支点で切ることになってしまったので、今回は短めに切ることにしました。ちょうどこの頃、第四尾根を登ってきた2人組がマッチ箱の上であれこれ検討中。そして1人が懸垂下降で下りさらに下を窺っている様子なので「どこへ行きたいんですか?」と声を掛けました。聞けば彼らはマッチ箱からDガリー奥壁のハング下へ降りたかったものの途中の懸垂支点を見つけられずにいたのですが、見つからないのも道理で、マッチ箱から下りてシュヴァルツカンテの角を回り込んだ位置まで斜め懸垂したところに紫のスリングを掛けた支点があって、そこはマッチ箱からは死角になっています。そこでその支点の位置をこちらから指示してあげて2人が支点に達するのを見届けてから、我々も登攀を継続しました。

4ピッチ目(30m / IV):常吉さんのリード。目の前に見えているチムニーから上のスラブに乗り上がるところがやや微妙ですが、常吉さんは落ち着いた処理でチムニーの中からスラブの上に乗り上がり、城塞ハングの大チムニー入口までロープを伸ばしました。

5ピッチ目(15m / III):私のリード。大チムニーの内面登攀ですがホールドは豊富で、バックアンドフットなどで休みながら落ち着いてラインを探せます。ここを奥へ奥へとずり上がっていって、最後は右上のガバをつかんで豪快にチムニーの上に抜け出すとそこが事実上の終了点です。

本当は時間があればこの場所から中央稜への継続も視野に入れていて、時間だけ見ればそれは十分可能だったのですが、ちょうど最終ピッチにかかるあたりから下からのガスがあたりを覆い始めていたので自重することにしました。

第四尾根の終了点となっている靴脱ぎ場まで常吉さんがロープを引っ張って、Dガリー奥壁の登攀は無事終了しました。私としては宿題になっていたハング越えを、それもフリーでちゃんと越えられたことがうれしく、また常吉さんにもこのルートならではのクラックやチムニーを楽しんでいただいて、2人ともに充実したクライミングとなりました。

せっかくだからと北岳の山頂を踏んでから八本歯のコルまで降りるとマッチ箱やDガリー奥壁が見えて、先ほど懸垂支点を教えた2人組とおぼしきクライマーの姿も見えました。真横から見ると寝ているように見える奥壁も、少し下がったところから見ると絶壁としか見えないことが不思議でもあり、うれしくもあり。

白根御池に帰りつけば当然祝杯です。帰幕した時点ではまだヘリコプターが来ていなかったために、すぐにはテントを復元できませんでしたが、30分ほどもたつとバリバリというエンジン音とともにヘリコプターがやってきて、下界との間を何往復かし始めました。そして最後の1回は、下から運び上げた荷を下ろすと同時に小屋前の荷を引き上げていく作業になりましたが、そのときの爆風は木々を薙ぎ倒さんばかりの勢いで、池の水面が激しく震動するほどのものでした。

ヘリコプターが去った後、テントを復元して1時間くらいしてから早めの夕食をとりました。この日のメニューはカレーとキムチ春雨。そして翌日は上部フランケを登ることにし、その日のうちに下山できるように1時半起床、テントを畳んで3時出発ということにしました。そんなわけで18時前には(まだ外が明るいのに)就寝しましたが、それでも無理なく眠りにつけたのですからやはり身体がそれなりに疲れていたようです。