塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

阿弥陀岳北稜

日程:2010/02/14

概要:赤岳鉱泉から行者小屋を経て阿弥陀岳北稜を登る。山頂からは前日と同じく中岳沢を下り、行者小屋から美濃戸へ下山。

山頂:阿弥陀岳 2805m

同行:きむっち

山行寸描

▲阿弥陀岳北稜全景。肉眼では第二岩稜に取り付こうとしている人の姿も見えた。(2010/02/14撮影)
▲第二岩稜下部。二つ前のパーティーが抜けようとしているところ。(2010/02/14撮影)
▲第二岩稜上部。階段状で簡単。(2010/02/14撮影)
▲終了点間近。雪のナイフリッジを渡ると普通に登山者が歩いている姿が見えるようになる。(2010/02/14撮影)

◎「阿弥陀岳中央稜」からの続き。

2010/02/14

△06:55 赤岳鉱泉 → △07:25-35 行者小屋 → △08:45 第二岩稜取付 → △10:10-20 阿弥陀岳 → △11:00-35 行者小屋 → △12:45 美濃戸 → △13:30 美濃戸口

6時には出発するつもりで就寝したのですが、夜中に目を覚まして時計を見ると表示は「22:35」。再び眠りこんでずいぶんたったと思われる頃に再び目を覚ましたところ、時計の表示はやはり「22:35」。いつの間にか標高表示になっていたのでした。結局、諸々あって赤岳鉱泉を出たのは7時前。しかし空はこれ以上ない快晴で、今日登る北稜もそれほど時間をとるルートではないので心配はありません。

中山乗越までの登りを朝一番のいいウォーミングアップとして、行者小屋にスノーシューなどをデポしてから昨日下りてきた中岳沢の道に入っていきました。2003年にNiizawa氏と北稜を登ったときはこの道をある程度詰めてから右の急斜面に取り付いたのですが、今回は中岳沢に入ってすぐの場所から踏み跡にしたがって右の尾根筋に移ってみたところ、樹氷のトンネルを行く非常に歩き易いルートになっていて快調に高度を上げることができました。

やがて雪稜を過ぎて傾斜がぐっときつくなり、第一岩稜と呼ばれる顕著な尾根筋にかかったところで先行の男女パーティーに追いつきました。彼らはここでスタカットにしていましたが、この辺りは樹木が手頃なホールドを提供してくれるので慎重にいけばロープは不要です。この急斜面を抜けていったん傾斜が落ちると目の前に黒々とした第二岩稜の末端が現れ、そこでは先行パーティーのさらに一つ前のパーティーのセカンドが抜けようとしているところでしたが、以前Niizawa氏と抜けた奥の凹角ではなく末端すぐそばの立った壁を越えているようでした。先行パーティーは我々に先を譲ろうとしてくれましたが「我々も遅いですから」と厚意を謝しつつ待機。背後の八ヶ岳主稜線の眺めなどを愛でながら、トップの男性がグラブを脱いで登りさらにセカンドの女性が大奮闘の末に抜けていくのを見守りました。

ここは私がリードさせていただくことにしてアンザイレン。取付を見上げてみるとドアノブ状のホールドがポイントになっていて、そこまでの手順・足順を丁寧にこなせばボルトもあり安心できそうです。試みにグラブを脱いで岩に触ってみると日が当たっているせいで冷たさを感じないので素手で登ることにし、左側面の遠いホールドで身体のバランスを支えながら2段ほど登ったところでドアノブを握り、クイックドローをボルトにかけてクリップ。そこで観察してみるとドアノブの右横の壁に歴代のクライマーがアイゼンの前爪を差し入れたと思われる穴が都合よく空いていたので、そこに右足先を差し入れてリップの上のホールドを頼りに身体を引き上げればドアノブの上に立つことができます。ここまでこなして「難しくないぜ」などと余裕のコメントをきむっちに告げたところで、左手の中指と薬指が感覚をなくし棒のようになっているのに気付きました。やはり素手は無謀だったかとあわてて岩に貼り付いた態勢のまま口の中で指を解凍してからグラブをはめ直し、さらに左に見つけた凍り付いたリングボルトを掘り起こしてクリップすると、恥も外聞もなくクイックドローをつかんでリップ上に乗り上がりました。しかし、その後も意外に立った壁に胸を圧迫されながら岩稜上の細いバンドを回り込んだり、今にも抜けそうな岩をつかみながら急斜面をランナウトしたりと気の抜けない登りが続いて、ようやく見覚えのある奥の岩峰の手前までロープを伸ばしました。

すんなり後続してきたきむっちが奥の岩峰を越えてその先の雪のナイフリッジ上を進み、さらに雪斜面上にロープを伸ばす間、私の方は右隣の北西稜に注目しました。そちらでもやはり男女パーティーが登っていてちょうど核心部にさしかかるところで、2005年に現場監督氏と私とで登ったときはガスの中だったのでいまいちルートの様子を客観的に見ることができなかったのですが、こうしてみると岩の形状がよくわかります。

なるほど、あそこの岩場はああいう形になっていたのかとしばし記憶を遡らせているうちに、きむっちからロープの残りを訊ねるコールが掛かりました。

ロープの残りが少なくなっていたので、きむっちにスタンディングアックスビレイで確保してもらって私も目の前の階段状の岩を越えると、ビレイするきむっちの向こうには一般ルートを登る登山者の姿が見えています。

そのままロープを引っ張って、再び阿弥陀岳山頂に到着。この日は昨日とは打って変わって素晴らしい展望が広がり、南・中央・北アルプスが一望で、南の方には富士山もくっきり見えています。これだから冬山はやめられません。

強風の中、10分ほども写真を撮りまくってすっかり満足。昨日と同様に赤岳側の急斜面を、きむっちの背中を追いかけながら下りました。