塾長の山行記録

塾長の山行記録

私=juqchoの登山の記録集。基本は癒し系バリエーション、四季を通じて。

苦土川井戸沢↑中ノ沢↓

日程:2006/08/27

概要:三斗小屋宿跡側からアプローチして井戸沢を遡行後、中ノ沢を下降。

山頂:流石山 1822m

同行:kuroさん / 常吉さん / きむっち

山行寸描

▲一応核心部の15m滝。上の画像をクリックすると、井戸沢の遡行の概要が見られます。(2006/08/27撮影)
▲階段状の15m滝。水流左を容易に登る。(2006/08/27撮影)
▲中ノ沢の下降。緩やかな下りの中にナメが続きよい沢だった。(2006/08/27撮影)

Web仲間のkuroさんと那須の苦土川井戸沢へ。メールのやりとりを重ねて7月頃から企画していたこの井戸沢は、昨年あろうことか雪のために敗退したいわくつきの沢でもあります。私は土曜日の夜にkuroさんの自宅の近くの駅で拾っていただいて、kuroさんの車で深山ダムに移動。そこでkuroさんのお声掛けでご一緒することになった常吉さん・きむっちとも合流して、日曜日に井戸沢を遡行しようというのが今回の基本プランです。Webに露出している程度にしかお互いに顔をよく知らないのでkuroさんにあらかじめ私の顔写真を送っておいたところ、待ち合わせ場所となった大宮駅前で車の中からすぐに見つけてくれました。ま、こんなところでオスプレーのリュックサック担いでいれば誰だってわかりますね。

kuroさんと私は22時頃に無事に深山ダムに到着し、駐車場と言っていいのかどうかよくわからない広いスペースにkuroさんの大テントを設営していると、ほとんど時間差もなく常吉さん(これまたお目にかかるのは初めて)、そしてきむっちが到着しました。そのまま大テント内で宴会に突入しましたが、面識があるのはkuro / きむひろ、きむひろ / 私の組み合せだけなのに4人とも最初からすっかり打ち解けた雰囲気の中、kuroさん持参の豪勢なごちそうに常吉さんのワインときむっちの日本酒で話が弾み、気がつくと時計は午前2時を示していました。

2006/08/27

△06:45 林道チェーン → △07:40-55 苦土川入渓点 → △09:50 標高1390m二俣 → △10:45-50 登山道 → △11:00 流石山 → △11:30 大峠 → △12:05 中ノ沢入渓点 → △12:45 峠沢出合 → △13:45-14:00 苦土川入渓点 → △14:50 林道チェーン

睡眠時間3時間で午前5時起床。なんとなく雨っぽい曇り空ですが、とりあえず身繕いをしてkuro号1台で林道を進みました。

チェーンがかかっている橋の手前のスペースに駐車して、ここから緩やかな歩きで三斗小屋宿跡を目指す……のですが、先ほどから時折車が抜かしていくのはなぜ?実は、チェーンは簡単に外れる仕組みになっていたということを、帰り際に知ることとなりました。ただし9月からは完全に閉鎖、と注意書きがしてありました。

歩きといっても大した距離ではなくウォーミングアップにはむしろ好適ですし、霧に煙る三斗小屋宿跡の雰囲気は諸行無常というか、ミャンマーとの戦争で廃墟となったアユタヤの遺跡を連想させるものがあって、ここはぜひ歩いて入りたいところです。

三斗小屋宿跡を通過して少し下ったところが苦土川(または湯川)で、三斗小屋温泉へ通じる登山道がこれを渡る橋をくぐったところで沢装備になってすぐの右岸から合わさる沢が井戸沢なのですが、出合は完全に伏流ではっきり言って魅力ゼロ。ちょっと荒れた感じのごろごろ沢を「……なんだかなぁ」と思いながら詰めていくとすぐに水が現れて、やがて一見堰堤のような小手調べの3m滝を越えた先、沢筋が右に曲がるところにいきなり核心部の15m滝が出てきました。

ちょうど大人数の先行パーティーが右リッジに取り付いていて、そのうちの1人は上部のハング気味の箇所でフィックスされたスリングをアブミ代わりにして登っています。おや、けっこう立っているのか、と見てとった私は基本的に「とらなくていいリスクはとらない」主義。ためらうことなく「ロープを出しましょう」と宣言しました。これまでにもロープを結んだことがあるkuroさんときむっちが組むと、必然的に私のお相手は常吉さん。「ここは(年功序列で)常吉さん、リードいかがですか?」とお声掛けしましたが、実は常吉さんは井戸沢は初めてではなく、この滝もロープなしで登ったことがあるので、私にリードを譲ってくれました。

先行パーティーが抜けきるのを待って、まずは常吉・塾長の紳士同盟が先行。リッジ下部を1段上がったところで立ち木に常吉さんがセルフビレイをとり、私が登っていきました。中段まではいたって簡単で、上部のハング気味のところも残置スリングをつかめば楽勝でしょうが、ここは誘惑を断ち切って岩壁に胸を押さえつけられながら慎重にホールドを探ると右手を伸ばした先に好都合なガバホールドあり。これを頼りに最初両足左壁、ついでステミングで上へ抜け、そのまましばらく進んだ先の灌木に支点をとってビレイ解除としました。後続の常吉さんは淀みなく上がってきて、ついで第2パーティーのリード・きむっちも問題なく突破。この後、きむっちのコールが滝の音に消されてkuroさんとの意思疎通に苦労する場面がありましたが、それでも無事に全員が15m滝を越えられました。

笹の中の踏み跡を辿って落ち口の上に下りると、そこはもう明るい茶色〜黄土色のナメ滝の始まりです。のっけからつるんとした2条滝が我々を誘っていて、ロープをリュックサックにしまった私がまずはフリクションで上に抜けてカメラを構えていると、さすがkuroさん、期待に応えて足を滑らせてくれました。その後も一つ滝が終わるともう次の滝が目の前に待っているという感じで、文字通り息をも継がせないくらいに滝が続き、しかもそのほとんどが直登可能です。途中、立った5m滝で左から小さく巻き上がってから沢筋に下りるのがちょっと思い切りを要した(残置スリングあり)のと、15mの階段状の滝の中段(残置ピンあり)でkuroさんにきむっちからお助けスリングが出たくらいで、後はすいすい登っていけました。ガスの中の沢登りであってもこれは実に楽しく、4人とも笑いが止まりません。

さらに途中4mくらいの真ん中から登れば易しい階段状の滝を、わざわざホールドの細かい右壁に取り付いてIV級くらいにして遊んだりしているうちにいつの間にやら標高1390mの二俣に着き、ここはトポにしたがって右俣に入りました。ここからは水量がずいぶん減ったもののそれでもナメ滝はまだいくつか続きますが、あまりに楽しかったので飛ばし過ぎたのと傾斜が急になってきたこともあって、さすがに足を上げるのがきつくなってきました。おまけに気温も湿度も高く汗が噴き出して苦しくなってきましたが、先頭を行くkuroさんは一向に休む気配がないので、2番手の私が後ろから声を掛けてみました。

J「(恐る恐る)休憩入れますか?」
K「(振り返りもせずに)いえ大丈夫」

ああ、無情!ここは「休憩入れますか?」ではなく「休憩入れていただけますか?」とお願いしなければならなかったのです。日本語というのは本当に難しい……。後で聞くと後ろを行く常吉さんもこの辺りはつらかったそうなのですが、結局kuroさんの爆走は最後まで続き、そのまま踏み跡を辿って腰までのわずかな笹漕ぎで稜線の登山道に到着したのでした。

何はともあれ遡行終了。しかし、この後もう一度沢に入るので沢靴は履いたままで行動食を口にし、一息ついてから流石山経由で大峠へ移動しました。時折青空が頭上に広がる中を到着した流石山の山頂では、出だしの15m滝で見掛けた大人数のパーティーが休憩していました。また、大峠への道はガスの中で展望にこそ恵まれませんでしたが、ハクサンフウロ等の高山植物がそこそこの密度で咲いていていい感じでした。流石山から先もしばらくは水平な明るい尾根道で、晴れていれば熊見曽根越しに茶臼岳までも見通せたに違いありません。

戊辰戦争の戦場の一つである大峠へは広闊な斜面をかなりの急降下となりますが、この斜面でぐっと高度を下げるからこそ、この後に下る中ノ沢の下降が緩やかなものになるわけです。大峠には登山者や沢登りのパーティーが休憩していましたが、我々はそのまま素通りし、三斗小屋温泉方面の道に入りました。狭いながらもよく歩かれている登山道をさらに下り、峠沢を越えると標識のある分岐。笹がかぶさった右のルートは旧街道で、三斗小屋宿に向かう昔からの道ですが、ここは三斗小屋温泉方面に直進します。三本槍岳からの尾根筋に広がる美しいブナ林を愛でつつ抜けるとすぐそこが中ノ沢で、道は沢を渡って向こうに続いていますが、我々はここでヘルメットをかぶり直して沢の下降にかかりました。

中ノ沢の下りは出だしこそ平凡ですが、しばらく下ると濃い茶色のナメが広がるようになります。樹林の中、川幅いっぱいに広がるナメをひたひたと歩いたり、水流が岩をえぐって作った不思議な造形にみとれたりしながら、斜度がほとんどないので安全に下ることができる上に、盛夏だったらドブンと飛び込みたくなうようなプールもあれば、美しい苔に彩られた純和風の渓流美を味わうこともできました。井戸沢を遡行する人にはぜひともこの沢を下りに使ってその美しさを知ってほしいと思いましたが、ここに足を踏み入れるときは、苔を踏んではがしたりすることのないよう中ノ沢を優しくいたわりながら下ってもらいたいとも思います。

途中で峠沢を右から合わせ、途中休憩も交えながら下降開始後2時間弱で橋が現れて、ここで沢歩きは終了です。沢靴を脱いでスニーカーに履き替え、楽しかった今日の遡行・下降を思い思いに振り返りながら、林道を車まで歩きました。

kuroさん・常吉さん・きむっち、どうもありがとうございました。また機会を作って、沢や岩でご一緒しましょう。とりあえず次は(その後別の沢でケガしてしまった)kuroさんの復帰祝いを兼ねて、どこかのゲレンデからかな。